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短くわかる民事裁判◆
全部勝訴者は控訴できるか:裁判手続の重大な違法
 全部勝訴者は原則として控訴できない(控訴の利益がない)とされていることを、「全部勝訴者は控訴できるか(原則):不能」で説明しました。
 いくつかの例外は別のページでも検討や説明していますが、当事者の利益と別な事情で極めて例外的に、全部勝訴した原告が控訴できるとされた事例があります。ものすごく稀でマニアックな話ですから、ふつうは考える必要がありませんが、念のために説明しておきます。

 1審で裁判官が1人で審理した事件で、第1回口頭弁論期日に被告が答弁書等を提出せず出席しなかったので口頭弁論を終結し、第2回口頭弁論期日に別の裁判官が判決書を作成しないでいわゆる調書判決(民事訴訟法第254条)の形で、いわゆる欠席判決の言い渡しをしました。
 欠席判決をする場合でも、第1回口頭弁論の担当裁判官が判決書を作成していればその裁判官が判決をしたことになります。そのときに、別の裁判官(判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官)が判決書を代読して言い渡しても問題はないとされています(最高裁1951年6月29日第二小法廷判決)。判決の代読は、裁判官の異動などの事情で、実務上、わりとあります。
 しかし、判決書を作成しないで調書判決にした場合は、判決言渡期日である第2回口頭弁論の担当裁判官が判決をしたということになります。その(判決をしたことになる)裁判官が、口頭弁論終結までは何ら担当しておらず、口頭弁論終結後にだけ関与したということになるので、問題にされたわけです。
 要するに、欠席判決をするときに、第1回口頭弁論を担当した裁判官が判決書を作成していれば、判決の言い渡しは別の裁判官が行っても問題なく、調書判決にする場合でも第1回口頭弁論を担当した裁判官が言い渡せば問題がなかったのですが、判決書を作成せずに調書判決にしたことと言渡が(口頭弁論終結前に関与していない)別の裁判官だったことが重なったために問題となったのです。
 このケースでは、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をしたことが、直接主義(民事訴訟法第249条:判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする)違反という民事訴訟法の根幹に関わる違法があり、その違反が訴訟記録により直ちに判明することがらで、法律に従って判決裁判所を構成しなかったという再審事由(民事訴訟法第338条第1項第1号)に該当することから、この1審判決によって紛争が最終的に解決されるということもできないとして、このような場合には全部勝訴した原告が1審判決に対して控訴することができるとされました(最高裁2023年3月24日第二小法廷判決)。
 この最高裁判決は、手続上の(裁判所の立場から見て重大な)ミスがあり、その理由によって再審が認められるような場合に、それでは最終解決にならず不安定(敗訴した被告が後々再審請求したらそれが認められてしまう)ということを考慮して特別に控訴を認めたものと解されます。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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