庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

短くわかる民事裁判◆
管轄の合意:提訴に際しての合意
 裁判所の管轄は、法律が定める専属管轄(せんぞくかんかつ)に反しない限り、原告と被告が合意すれば、1審については自由に定めることができます(民事訴訟法第11条)。端的に言えば、事物管轄と土地管轄については、民事訴訟法の定めと異なる裁判所も選択できます。訴訟の目的の価額が140万円を超える事件を簡裁で審理することも、当事者や事件と何の関係もない地の裁判所を選択することも自由です。
 もっとも、裁判所は訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平(こうへい)を図るため必要があると認めるときは、当事者の合意に反しても他の管轄裁判所に移送することができます(民事訴訟法第17条)し、簡易裁判所は相当と認めるときは事件を所在地を管轄する地裁に移送することができます(民事訴訟法第18条)ので、裁判所側がその合意を受け入れるとは限りませんが。

 管轄の合意は、一定の法律関係に基づく訴えについて(その法律関係を特定して示し)書面で行う必要があります。たいていは、紛争が起こる前の段階で契約書で定められます。→契約書・約款上の裁判管轄条項

 契約書の段階ではなく、紛争が生じてから、訴訟提起に際して合意するということも、当然あり得るし、そうしてもかまわないのですが、私の経験上は、合意することはかなり困難です。
 事件を受任して、相手方に内容証明郵便を送ってこちらの要求を示し、それに対して相手方の代理人(弁護士)から回答が来て、交渉するということはよくあります。そこで交渉が決裂し裁判で決着するしかないとなった時点で、管轄合意をしませんかと声をかけてみることもあります。特に、土地管轄が東京地裁にはなり得ないけれども双方弁護士は東京の弁護士(こういうことがよくあります)の場合、弁護士の都合としては東京地裁でやりたいですよねという思いがあります。しかし、それでも、私はそれでOKしてもらったことがありません。比較的話ができそうな弁護士に事情を聞くと、自分は東京地裁でやった方が都合がいいけれども、依頼者が承諾しないと言われます。依頼者が地元の裁判所に愛着があるというよりも、裁判になる前から敵方の誘いに乗ること自体気にくわないということのようです。

 消費者金融のアイフル(本社が京都市内)に対して、北関東のちょっと行くのに時間がかかる地域在住の依頼者から過払い金請求訴訟を起こすとき、アイフルに東京地裁で管轄合意できるなら東京地裁に提訴するが、合意できないなら京都地裁に提訴して交通費は全額訴訟費用として請求するという書面をFAXしたことがあります。当時、アイフルは、やたらと京都に移送しろという嫌がらせの申立をしていたという事情もありました。それに応答もなかったので、京都地裁に提訴して勝訴し、京都地裁まで4回通った交通費など訴訟費用14万円あまりを過払い金と別に取りました(訴訟費用として請求できる交通費は、実費の範囲で、かつ依頼者本人の交通費以下なので、依頼者の住所が京都市内ならまったく取れず、東京と京都の間なら全額は取れません。このときは京都からの距離が私の事務所より依頼者の住所の方が遠かったので、こういうことができました)。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

**_**区切り線**_**

短くわかる民事裁判に戻る

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ

民事裁判の話民事裁判の話へ   もばいるモバイル新館 民事裁判の話