◆短くわかる民事裁判◆
訴え提起後の合意による移送
訴え提起後、原告と被告が管轄について合意して移送申立てした場合、裁判所は管轄がある場合でも、申立に従って移送しなければなりません(民事訴訟法第19条第1項本文)。これは、訴え提起前に管轄合意すれば、法令で定められた専属管轄に反しない限りどこの裁判所にでも管轄を生じさせるのと同じことですが、ただ管轄を生じさせるというだけでなく、管轄がある裁判所に別の裁判所への移送を強制できるという点が特徴です。移送申立は現実には片方の当事者(原告か被告)が行い、これに対して相手方(被告か原告)が同意するという形になるでしょう。
ただし、裁判所は、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなると判断したときにはその移送申立を却下できます。またその移送申立が簡易裁判所から(したがって簡易裁判所に提起された訴えの場合)その所在地を管轄する地方裁判所への移送以外の場合、被告が本案について弁論をしたり弁論準備手続で申述した後になって合意がなされても、裁判所は移送申立を却下できます。逆に言えば、移送申立は被告が訴状の請求の原因に対して認否や反論をする前にしなければなりません。(民事訴訟法第19条第1項但し書き)
私自身は、この規定については、まったく経験がありません。訴え提起前に管轄合意ができないのが現実(その点は「管轄の合意:提訴に際しての合意」で説明しています)なので、訴え提起直後に合意ができるという可能性が低いこと、提訴後に別の裁判所への移送を求めることは当然、担当している裁判官にいい印象を与えることはなく移送を却下されたときそのあとが思いやられること、移送が実現しても移送で1か月以上は空転することになることから、チャレンジする意欲が生じません。
管轄についてはモバイル新館の 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
**_****_**