◆短くわかる民事裁判◆
最高裁に対する1審訴訟提起:どの下級裁判所も裁判権を有しないとして却下された例
原告が、管轄(かんかつ)のない裁判所に訴えを提起(訴状を提出)した場合、訴え提起を受けた裁判所は、申立てによりまたは職権で(つまり被告の申立がなくても裁判所の判断でということ)訴訟を管轄裁判所に移送(いそう)することとされています(民事訴訟法第16条第1項)。管轄を間違った訴えは、不適法な訴えではありますが、この場合は訴状や訴えを却下するのではなく、管轄のある裁判所に移送することになっているのです。言い換えれば、裁判所は、管轄がないことを理由に訴状却下や訴えの却下をすることはできません。
そのことは、第1審としての裁判権を有しない最高裁に第1審として訴訟提起した場合(当然、最高裁には管轄がありません)でも、本来的には同じです。
北九州市内在住の原告がいわき市内在住の被告に対する離婚訴訟を最高裁に提訴し、その訴状に仙台家裁への移送を求めるという趣旨の記載があったという事案で、最高裁2026年1月28日第一小法廷決定は、本件訴状は弁護士により作成されたもので、「本件訴えは、最高裁判所の管轄に属しないことを十分認識しながら、あえて最高裁判所を経由し、本来、管轄のない裁判所への訴訟係属を求めて当裁判所に提起されたものというべきである。こうした訴えを最高裁判所に提起することは、人事訴訟法及び民訴法の予定する正当な権利の行使とはいい難く、是認し得るものではない。そうすると、本件訴えは、現行法規に則って訴えを提起し訴訟手続を追行するという意思を欠いた不当な目的によるものというべきであり、本件訴訟を移送することによって原告の救済を図る必要があるということはできない。」こと、この弁護士がこれ以前にも同様の行為を繰り返していたことなどを指摘した上で「上記の事情を総合すれば、本件訴えは、訴訟上の信義則に反するとして却下すべきものである。」として、訴えを却下しました。
「最高裁に対する1審訴訟提起:どの下級裁判所も裁判権を有しないとして却下された例」で紹介した最高裁判決は、管轄を有する下級審裁判所がないことを理由として移送しなかったものと解されますが、この決定は、管轄を有する下級審裁判所がある場合でも、原告代理人の姿勢をも考慮して不当な目的の訴訟であり訴訟上の信義則に反するものとして、民事訴訟法第16条第1項の規定にかかわらず、移送せずに却下できるとしたものです。
管轄についてはモバイル新館の「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
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