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短くわかる民事裁判◆
一部控訴
 全部敗訴、あるいは一部敗訴した当事者が控訴する際、敗訴部分全部ではなく、その一部について控訴することはできるでしょうか。
 控訴の相談で、わりとよく聞かれる質問の1つです。勝てると思ってか、もともとふっかけたのか、1審では多額の請求をしたけど、負けて、全部控訴すると控訴提起手数料(印紙代)が1審の5割増しなので(ましてや上告だと2倍なので)、ちょっと払えないというかもったいないと思うわけですね。

 実は、ここ、きちんと書いている文献がほとんどないんです。
 1991年度裁判所書記官実務研究報告書「訴額算定に関する書記官事務の研究」2002年補訂版194ページでは、100万円の請求に対して30万円を認容した1審判決に対して、「原告が請求自体を50万円に減縮した上で控訴した場合の訴額は20万円となる。」としています(引用している根拠文献は1973年度書記官実務研究報告書「民事訴訟における訴訟費用等の研究」ですが)。
 書記官実務研究報告書がこういっているので、実務上一部控訴は可能で、その場合に控訴提起手数料も一部控訴額で算定できることはまず間違いないと思います。
 ただ、この一部控訴の性質が何なのか、法的性質の議論は学者さんにお任せするとして(議論している学者さんもほとんどいないようですが)、実務的には、「請求の減縮」をしなければならないのか、しなくてもただ控訴の範囲を絞れば、つまり控訴状で「○○の限度で不服があるので」と記載する、控訴の趣旨で求める判決の範囲を限定すれば足りるのではないかという点が、はっきり書かれていないのが気になります。
 請求の減縮をしなければならないとすると、それは訴えの一部取下になるので、相手方の同意が必要になるはずです(民事訴訟法第261条第2項)。
 理屈としては、原告側には請求の減縮という概念や手続がありますが、被告側にはそれに当たるものはありません(原告側を請求の一部放棄と考えるなら、被告側は請求の一部認諾と解する余地がありますが、いったん不服の範囲を絞っても控訴審で訴えの変更をして不服の範囲を改めて拡げることができるのですから、それを請求の放棄とか認諾とかとするのは無理があると思います)。原告側の一部控訴を請求の減縮と位置づけると、被告側が敗訴部分の一部についてのみ控訴した場合は、それを法的にどう理解すればいいかわからなくなりますし、原告側の同意が問題となる余地はありません。
 そうすると、原告側の一部控訴も、請求の減縮(訴えの一部取下)ではなく、ただ控訴の範囲が限定されているだけで、控訴状の記載以上に何らの手続も相手方の同意も必要ないと解すべきなのではないかと思います。

 一部控訴の場合の控訴状の記載については、「一部控訴の控訴状」で検討しています。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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