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短くわかる民事裁判◆
控訴状の提出先を間違えたとき
  控訴は、控訴裁判所宛の控訴状を、判決書(調書判決の場合は判決書に代わる調書)の送達を受けた日から2週間の控訴期間内に、第1審裁判所の民事受付に提出して行います(民事訴訟法第286条第1項、第285条)。

 控訴状を間違って控訴裁判所(第1審判決が地裁の場合に高裁、第1審判決が簡裁の場合に地裁)に提出した場合、裁判所はどのように扱うでしょうか。
 控訴状を控訴裁判所の民事受付に持参して提出した場合は、窓口で正しい提出先を指示し、第1審裁判所に提出するということになるのがふつうです。
 窓口で正しい提出先に提出し直すよう指示してもこれに応じない場合や、郵送での提出の場合、裁判所は、標準的には、受付窓口では事件簿に記載するなどの立件(受付)の手続をして事務分配に従って担当部を決めて事件を配点し、受付窓口または配点を受けた担当部から第1審裁判所の担当部署に控訴状の提出があった旨の通知をし、あとは控訴裁判所の担当部の裁判官の判断とされるようです(1999年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版99ページ)。考え方としては、第1審裁判所に移送する、管轄違いを理由として控訴を却下する、立件を取り消して第1審裁判所に回送する等の考え方があるとされます(1999年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版99ページ。東京弁護士会の機関誌に掲載された東京高裁書記官の説明でも、控訴の場合に控訴状が誤って高裁に提出されたときは管轄違いを理由として控訴の却下という処理も考えられるとされています→こちらのファイルの6ページ右側参照)
 管轄違いの場合は移送すべきで却下はできないはずですが(この点については、「管轄のない裁判所に訴え提起したとき」で説明しています)、上訴の際の上訴状を提出する裁判所については、不適法な上訴として移送せずに却下できるという裁判例もあり(東京高裁1967年6月19日決定)、担当する裁判所の裁判官の考えによっては予断を許しません。

 移送の扱いとなったときは初めから移送先の裁判所に係属していたものとみなされます(民事訴訟法第22条第3項)ので適法な(少なくとも宛先と控訴期間を守ったという点では)控訴となるはずです。しかし、裁判所側で誤った提出を受理して移送することが法令上義務づけられているわけではないので、立件されなかったり立件が取り消された場合は、結果的に控訴期間を経過してしまい控訴が不適法却下されることになりかねません。

 さらに、控訴状の提出を受けた裁判所が移送決定をした場合でも、移送先の裁判所が控訴期間徒過を理由に控訴を却下することもあり得ます。
 東京地裁で請求棄却の第1審判決を受けた原告らが控訴期間内に無関係の地裁に控訴状を提出し、控訴状提出を受けた地裁が移送決定をしたが東京地裁に控訴状が送付された時点では控訴期間が経過していたケースで、東京地裁2023年3月17日決定は控訴期間徒過を理由に控訴が不適法でその不備を補正することができないとして控訴を却下しました。原告ら(控訴人ら)の即時抗告を受け、東京高裁2023年7月18日決定は、別の地裁(関係ない地裁)への控訴状提出は民事訴訟法第286条第1項に違反するものであり、その違法を安易に救済することは同規定の趣旨を没却するものであるから控訴は不適法と言わざるを得ないとしつつ、控訴状の提出を受けた地裁の書記官が控訴期間を徒過しないように立件して移送するのが通常である等の説明をしていたという即時抗告理由は控訴人らの責めに帰すべき事情がある旨の主張を解されるところこれについて検討せずに却下したのは違法として原決定を取り消しました。
 控訴人らが、移送決定がなされてもなお不適法とした点について抗告許可申立てをし許可されたのに対して、最高裁2024年3月28日第一小法廷決定は「所論の点に関する原審の判断は、是認することができる。論旨は採用することができない。」として抗告を棄却しました(以上につき、判例時報2369号10〜11ページ【4】)。
 この決定の解説記事(許可抗告事件の実情−令和6年度−)で最高裁調査官は、「控訴状が第一審裁判所でも控訴裁判所でもない無関係な裁判所に提出された場合に当該裁判所がとるべき措置については、直接的な議論が活発になされているわけではないが、従来の実務上の大勢は、第一審裁判所に移送することとし、控訴期間遵守の基準日は無関係な裁判所が控訴状を受け付けた日と解していたのではないかと思われる。しかし、このような取扱いは、現行民訴法が286条1項において控訴の方式を定めた趣旨を無にし、同項を空文化することになる上に、控訴状を無関係な裁判所に提出した者を控訴期間徒過の不利益から救済する必要性が高いともいい難い。」「原決定によれば、従来の実務の大勢とは必ずしも一致しない対応をすることになるが、無関係な裁判所に対する上訴状の提出の効力については十分な議論が尽くされていない状況の下で、本決定は、単に原審の判断を是認することができると判断したにとどめたものと考えられる。」としています(同上)。
 この最高裁調査官の解説は、実務の大勢は控訴状の提出を受けた裁判所が移送決定をすることで控訴期間は遵守したと救済するものであるが、この事件の原決定は移送決定で自動的に救済するのではなく、裁判所書記官が立件して移送決定をして救済されるのが通常であると説明したために控訴状を直ちに提出し直さなかったというような事情があるときのみ救済すべきとして従来の実務より厳しくしたものであるところ、最高裁は自らの積極的な判断を示すまでには至らず、下級審がそのような(従来の実務よりも厳しい)取扱いをすることも是認した(原決定のようにすべきとは言わないが原決定のようにしてもかまわない)ということです。


 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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