◆短くわかる民事裁判◆
訴訟行為の追完:不正な公示送達
被告の住所が知れないとして訴状が公示送達され、被告が裁判期日に出席することなく判決が言い渡されて判決も公示送達され、その後控訴期間経過後になって判決の公示送達を知り控訴したという場合、控訴人の責めに帰することができない事由によるものとして控訴が適法とされるでしょうか、どのような場合に適法とされるでしょうか。
本訴提起前から被告は母とともに、本籍地ではない住民票所在地に居住していたところ、原告と代理人(弁護士)は本訴提起前に被告とその母が本籍地ではない住民票所在地に居住していることを知り、1956年9月頃その住居に母を訪ねて本件訴訟内容の移転登記請求について交渉をしたが承諾しなかったため、登記簿上の被告住所地であった本籍地を被告住所であると称して被告に本訴を提起し、住所が不明であるとして公示送達の申立をし、被告が出席しないまま審理されて1957年3月22日判決が言い渡され、判決は3月26日に公示送達され翌27日に公示送達の効力が発生したが、その後長期間が経過した後に被告の母が判決の公示送達を知り1960年7月21日に控訴の申立をしたというケースで、最高裁1967年2月24日第二小法廷判決は、控訴人がその責に帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかつた場合として本件控訴提起を適法と解すべきであるとして、訴訟行為の追完を認め控訴は適法としました。
このケースは、原告と代理人が住所地を訪ねており、明らかに住所を知っていたのに、住所が知れないとして公示送達をしたもので、訴訟詐欺といってもよいような不正な公示送達の事案です。
類似の事案で、最高裁1992年4月28日第三小法廷判決は、一般論として「被告について送達をすべき場所が不明であるとして原告から公示送達の申立てがされ、一審判決正本の送達に至るまでのすべての書類の送達が公示送達によって行われた場合において、被告が、控訴期間の経過後に控訴を申し立てるとともにその追完を主張したときは、控訴期間を遵守することができなかったことについて民訴法159条にいう「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由」の存否を判断するに当たり、被告側の事情だけではなく、公示送達手続によらざるを得なかったことについての原告側の事情をも総合的に考慮すべきであると解するのが相当である。」と判示した上で、本訴提起直前まで継続して被告と交渉をしていて、被告が外国に行くという期間中に、住所地に不在であることを知りながら転居先不明として公示送達を申し立てたという事案で「被上告人の側には、公示送達制度を悪用したとの非難を免れない事情があるといわなければならない。」とも判示し、訴訟行為の追完を認め、控訴を適法としました。
被告側から見て不当な、実態にそぐわない公示送達が容易に救済されるというわけではありませんが、原告側が実際の住所を知っていた場合にはこのような方法で救われることがあることは注目しておきたいところです。
※不正な公示送達により判決を受けた被告の救済方法として、これが民事訴訟法第338条第1項第3号の再審事由に当たるとする主張も可能で、それを認めた判決もあります。もちろん、簡単ではなくレアケースといった方がいいですが。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
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