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短くわかる民事裁判◆
訴訟行為の追完:郵便の遅延
 控訴人(代理人:弁護士)が、通常であれば控訴期限に間に合うはずの時期に郵便で控訴状を発送したが郵便の遅延により控訴期限を過ぎて裁判所に到達したという場合、控訴人の責めに帰することができない事由によるものとして控訴が適法とされるでしょうか、どのような場合に適法とされるでしょうか。

 1962年3月15日に1審判決の送達を受けた代理人弁護士が3月27日に控訴状を書留速達郵便で大阪市内の郵便局に差し出したが、名古屋高裁に配達されたのが3月30日で、控訴期限を1日徒過した(遅れた)という事案で最高裁1965年3月15日第三小法廷判決は「速達郵便物は遅滞なく運送配達すべきことは、郵便規則100条、101条の規定により定められているにかかわらず、前記郵便物が、大阪市内から名古屋市内まで、実に、通じて4日を費して、ようやく配達されたのは、あるいは、控訴代理人の予想できない郵便物取扱事務上の誤りないし支障の事情があつたため、遅配されたものであつて、もし該事情がなかつたならば、前記郵便物が、遅くとも本件控訴期間満了の日である3月29日内には原審に配達された筈である。かかる控訴代理人の予知できない事情に基づく郵便物延着の疑いは、前記引受局の受付印等を検討すれば、常識上からもたやすく、挾みうるものといわなければならない。しかるに、原審が、右疑問を留めた形跡なく、そのため、訴訟代理人の控訴期間の不遵守がその責に帰すべからざる事由によるものであつて、期間後に申し立てた本件控訴が適法な訴訟行為の追完になるか否かにつき、控訴代理人を促して主張立証をなさしめ、これを解明する措置をとるべきであるにかからず、右措置に出ず、判文中にもこの点につき判示することなく、ただ控訴期間を徒過したとの理由により、本件控訴を不適法として却下したことは、審理を尽さないことによつて理由不備の違法に陥つたものといわざるをえない。」として原判決を破棄しています。

 1978年12月15日に1審判決正本の送達を受けた代理人弁護士が12月26日に控訴状を書留速達郵便で長崎市内の郵便局に差し出したが、福岡高裁に配達されたのは翌年1月1日で控訴期限を3日過ぎていたという事案で最高裁1980年10月28日第三小法廷判決は「このような事実関係のもとにおいては、右期間不遵守が年末年始における郵便業務の渋滞しがちな特殊事情等から生じたとしても、本件控訴状の配達の遅延は控訴代理人において予知することのできない程度のものであつた疑いがあり、本件控訴については、民訴法一五九条一項所定の追完事由のあることを認め、その追完を許したうえでこれを適法な控訴の申立として取り扱う余地があつたものというべきである。そうであるとすると、原審が、右追完の事由の存否について十分な職権調査を尽くすことなく、法定の控訴期間を経過したことにつき上告人の責に帰すべからざる事由の存したことをうかがい知る資料がないことを理由に本件控訴を不適法として却下したことは、右の点につき審理を尽くさない結果理由不備の違法を犯したものといわざるをえない」として原判決を破棄しています。
※この当時は12月29日、30日、31日が期間末日でも期間が延長されない扱いでした。
※この1978年年末って、全逓(当時の郵便局の最大労働組合)が反マル生闘争で年賀状配達を飛ばした大争議のときで、この配達遅れはきっとそのせいだろうと思いますが、判決ではそこは問題にされていませんね。その労働事件、私が担当した(勝訴した)のですが、それについてはこちら

※この2件の頃(1998年施行の民事訴訟法改正前)は、控訴状は控訴裁判所に提出しても1審裁判所に提出してもよいという制度でした。それでどちらの事件でも代理人は高裁宛に郵送しています。

 これらのケースで最高裁は、郵便が通常より相当程度遅れたということで当然に訴訟行為の追完を認めたというわけではありませんが、事情によってはその余地があり、その具体的な事情を調査した上で判断しろとしているものです。

 他方、8月5日に原判決の送達を受けた当事者が上告受理申立書を8月13日午前0時半頃に郵便局の夜間受付に16日必着の配達日指定郵便で提出したが郵便局の引受の際の行き違いにより郵便局員が誤った日を配達シールに記入したために8月23日に配達されたという事案で福岡高裁宮崎支部2010年8月26日決定が上告受理申立てを却下し、許可抗告に対し最高裁2011年3月17日第一小法廷決定が抗告棄却しています(判例時報2164号18ページ【18】)。この判例時報の記事の中で最高裁調査官が、配達シールの記入に関する事情の詳細は不明であるが、論旨がいうような事情があったとしても、少なくとも自ら正しく配達日指定がされたことを確認しなかった点において過失があったをいわざるを得ず、追完事由は認められないとした原審の判断は正当ということができようとコメントしています。
 先に紹介した2判決とは大きな温度差があり、それが時代の違いなのか人の違いなのかわかりませんが、近年こういう冷たい姿勢の判断がなされていて、楽観はできません。
 しかし、最高裁も上の2例のような判断をしていたことは注目しておきたいところです。

控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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