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短くわかる民事裁判◆
控訴裁判所への仮執行宣言申立て
 民事訴訟法第294条は、「控訴裁判所は、第1審判決について不服の申立がない部分に限り、申立てにより、決定で、仮執行の宣言をすることができる。」と定めています。

 仮執行宣言をつけることができない場合(財産権上の請求に関する判決でないとか、登記請求など)には、この規定によっても仮執行宣言をつけることはできず、第1審判決で既に仮執行宣言が付いているものについては申立ての利益がありませんし、最高裁1968年10月22日第三小法廷決定は、第1審判決が担保を条件とする仮執行宣言をつけている場合もこの規定による仮執行宣言はできないとしています(決定文自体からは何もわかりませんが、裁判要旨によれば)。
 そうすると、この規定によって控訴裁判所に仮執行宣言を求められるのは、その性質上は仮執行宣言をつけることができる請求であるが、第1審裁判所が仮執行宣言は相当でないから付さないと判断した部分で、被告(控訴人)がその部分は控訴対象から外した(一部控訴をした)ものに限られます。第1審裁判所が(性質上は仮執行宣言をつけることが可能であるが)仮執行宣言は不相当として付さないと判断するのは、仮執行されてしまうと被告に重大な損害(影響)があるときや第1審裁判所の裁判官が判断が微妙で上訴で覆る可能性がそれなりにあると考えるケースが多いと思われます。被告が敗訴判決に控訴しないのならともかく、控訴しているのに、そのような被告にとって重大な損害が生じそうな部分や控訴すれば判決が覆る可能性が相応にある部分をあえて控訴対象から外すということは、ふつうには考えられません。

 第1審裁判所が仮執行宣言をためらったとしても、当の被告が争わないなら控訴裁判所で仮執行宣言をしても構わないではないかという、この規定の趣旨は、理論的にはわかりますが、現実にはそういうことは考えにくいと、私は思います。裁判やその関係者が必ずしも合理的には動かず、世の中何があるかわからないので、そういう規定を用意しておくことが間違っているとかはいいませんが。

 控訴裁判所がした仮執行宣言に関する裁判には不服申立てはできません(民事訴訟法第295条本文)。
 ただし、控訴人に不服の申立がない部分についての仮執行宣言申立てを却下した決定に対しては即時抗告をすることができます(民事訴訟法第295条但し書き)。もっとも、控訴裁判所が地方裁判所の場合は、この規定で即時抗告ができますが、控訴裁判所が高等裁判所の場合は、高等裁判所の決定・命令に対しては即時抗告はできませんので(それについては「高裁の決定に対する不服申立て:許可抗告・特別抗告」で説明しています)ので、許可抗告か特別抗告しかできません。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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