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短くわかる民事裁判◆
訴訟記録が第1審裁判所にあるときの控訴理由書
 控訴理由書は、控訴提起の日から50日以内に、控訴裁判所に提出します(民事訴訟規則第182条)。控訴理由書は準備書面と同様の扱いですので、FAX送信でもかまいません(民事訴訟規則第3条)。

 通常は、控訴理由書提出期限(控訴提起から50日以内)より前(経験上は控訴提起後約1か月、控訴理由書提出期限の2〜3週間前が多い)に控訴裁判所からの照会書が、控訴人に代理人(弁護士)が付いていればその事務所にFAXで、そうでなければ控訴人の自宅(控訴状に「送達場所」を記載すればそこ)に郵送されてきますので、控訴裁判所の担当部・係がわかり、控訴裁判所に提出できますが、提出期限が来ても訴訟記録がまだ第1審裁判所にあるときはどうすればいいでしょうか。

 1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版では、「控訴理由書の提出先は、控訴裁判所である。」、「控訴裁判所に訴訟記録が送付される前に、控訴理由書が控訴裁判所に提出された場合は、第1審裁判所から訴訟記録の送付があるまで、他の訴訟記録と紛れないように保管する。」(同書117ページ)とされ、「控訴理由書が第1審裁判所に誤って提出された場合、訴訟記録が第1審裁判所に存するときは、第1審裁判所において控訴理由書を受理する。」(同書60ページ)としています。
 これによれば、控訴理由書提出期限が来てもなお訴訟記録が第1審裁判所に留まっているときであっても、本来は控訴裁判所に提出すべきであり、第1審裁判所への提出は「誤り」であるが、訴訟記録が存する第1審裁判所は、いわば控訴裁判所の機関として受理する権限があるので受理してもいいというような口ぶりです。
 しかし、控訴裁判所でまだ受け付けていない段階で控訴裁判所に提出するとなると、担当部ではなく民事受付に提出することになり、提出する側も戸惑いますし、提出された受付窓口側でも訴訟記録がないのに別置きで保管しておかねばならず面倒なだけです。

 2024年に、私の経験では初めてですが、控訴理由書提出期限の当日にまだ高裁からの照会書も来ないので、高裁の受付に電話を入れたところ、訴訟記録がまだ到着していないということでした。第1審裁判所の担当部に聞いたら、記録の整理に手間取っていてまだ地裁に記録があり、すぐには送れる状態ではないということでしたので、第1審裁判所(地裁)担当部の書記官と相談の上、第1審裁判所の担当部と被控訴人代理人(原審の代理人)にFAX送信しました。高裁の事件番号もないので、事件番号は控訴提起番号((ワネ)番号)で書きました。控訴理由書を控訴提起番号で書いたのは初めてです(上告理由書の場合は必ず上告提起番号で書くことになりますが)。
 ちなみに、そのとき、控訴理由書の宛先は、法令上は控訴裁判所宛にすべきですが、事件番号も地裁の番号だし、地裁に提出するので地裁宛にして提出しました。高裁からは、照会書で、控訴理由書は双方(双方控訴事件だったので)原審に提出済と記載されただけで、宛先を訂正しろ等の指示も依頼もありませんでした。
 たぶん、こういう事態に遭遇した場合、ふつうの弁護士は、これ幸いと提出を(高裁からの照会書が来るまで)先送りするだろうと思いますが。

 控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「控訴(民事裁判)」でも説明しています。

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