◆短くわかる民事裁判◆
控訴事件の訴訟物の価額
控訴提起手数料(その額の印紙を控訴状に貼って提出します)は、不服申立ての限度で算定した訴訟の目的の価額(訴訟物の価額:そしょうぶつのかがく ともいいます)に応じて定まります(「訴訟物の価額の算定基準について」:いわゆる訴額通知の備考(1)は、「上訴の場合は、不服を申し出た限度で訴訟物の価額を算定することとし、附帯上訴の場合も、同様とすること」としています)。
ここでいう不服申立ての限度は、通常は、敗訴した範囲と一致します。
例えば、1審で原告が500万円を請求した事件で、300万円を認容する(200万円を棄却した)判決に対して、原告が控訴する場合は、通常は、不服申立ての限度、したがって控訴の訴訟物の価額は200万円となります。この場合、原告は1審の訴え提起時には500万円分で3万円の訴え提起手数料を支払っていますが、控訴の際に200万円分の控訴提起手数料として2万2500円を支払うことになります。
この判決に対して、被告が控訴する場合は、通常は、不服申立ての限度、したがって控訴の訴訟物の価額は300万円となります。被告は、1審では訴え提起手数料を支払う必要はありませんでしたが、控訴の際には控訴提起手数料として300万円分3万円の控訴提起手数料を支払う必要があります。
控訴を、敗訴部分のうち一部だけについて行う場合に関しては、「一部の控訴」で検討します。
控訴の訴額算定の基準時は、控訴時ではなく、第1審の訴え提起時であるとされます(1991年度裁判所書記官実務研究報告書「訴額算定に関する書記官事務の研究」2002年補訂版20ページ)。
※同書では、訴額の算定の基準時について「訴額は、訴えの提起のときを標準として定める」とする5ページの記述で民事訴訟法第15条のみを引用し、控訴審での算定基準時に言及した20ページでは特に根拠を示していません。おそらくは、民事訴訟費用法第4条第1項が手数料の基礎となる訴訟物の価額は民事訴訟法第8条第1項及び第9条の規定により算定すると定め、民事訴訟法第8条第1項が管轄が訴訟の目的の価額により定まるときの算定方法を定め、民事訴訟法第15条が「裁判所の管轄は、訴え提起のときを標準として定める」と規定していることから、手数料算定の基礎となる訴訟物の価額もまた訴え提起時を基準とすると定められているものと解しているものかと思われます。
※1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版104ページも、控訴の訴額について「訴額算定の基準時は、第一審の訴え提起時であり、控訴時ではない。」としていますが、根拠は示されていません。
その結果、控訴事件の訴訟物の価額は、通常は、1審での訴訟物の価額(訴え提起時から請求の趣旨に変更がなければ訴状の請求の趣旨、変更があれば最終変更後の請求の趣旨:1審判決の「請求」の記載)と1審判決主文の認容の範囲を比較して、その差となる敗訴部分で算定し、控訴提起手数料はそれを早見表に当てはめるということになります。
訴え提起手数料については「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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