◆短くわかる民事裁判◆
一部棄却一部却下の場合の控訴提起手数料
控訴提起手数料(その額の印紙を控訴状に貼って提出します)は、通常の控訴の提起(1審の手数料額の1.5倍)と請求について判断をしなかつた判決に対する控訴の提起(却下判決に対する控訴:その2分の1=1審の手数料額の0.75倍)で手数料が別に定められています(その計算と早見表は、「控訴提起手数料:控訴状に貼る印紙」、「却下判決に対する控訴の手数料」のページで説明し、掲載しています)。
そうすると、請求の一部を棄却し一部を却下する判決に対して控訴する場合、どのように計算すればいいでしょうか。
例えば原告が被告による文書の偽造を主張して、その文書の真否確認請求と偽造の不法行為による損害賠償300万円の請求をして、文書の真否確認請求は(よくあるパターンとして、法律関係を称する書面に当たらないという理由で)不適法却下、損害賠償は不法行為が認められないとして請求棄却されたというケースを考えます。
真否確認請求部分は(対象文書が1つなら)訴額算定不能で160万円となります(ちなみに複数の文書を対象にすると1通あたり160万円と解されています)ので、全部に控訴するなら訴額の合計は460万円となります。
この場合に考え方は3つあるとされます(以下、1991年度裁判所書記官実務研究報告書「訴額算定に関する書記官事務の研究」2002年補訂版210〜213ページによります)。
第1の考え方は、各別に手数料を計算して合計します。上の例では却下部分は(訴額160万円に対応する)9750円、棄却部分は(訴額300万円に対応する)3万円となり、合計3万9750円となります。
第2の考え方は、訴額を合計した額の控訴提起手数料を各請求ごとに按分してから却下部分を2分の1にして合計します。上の例では合計460万円の訴額に対する通常の控訴提起手数料4万2000円を却下部分(160/460)1万4608.6円と棄却部分(300/460)2万7391.3円に分け、却下部分は2分の1で7304.3円と棄却部分の合計3万4782.6円の端数四捨五入(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第3条第1項)で3万4783円となります。
第3の考え方は、訴額を合計した額の控訴提起手数料から却下部分の通常の控訴手数料の半額を差し引きます。上の例では、合計460万円の訴額に対する通常の控訴提起手数料4万2000円から、却下部分160万円の通常の控訴提起手数料の2分の1の9750円を差し引いて3万2250円となります。
1991年度裁判所書記官実務研究報告書「訴額算定に関する書記官事務の研究」2002年補訂版は、アンケート結果では第2の考え方が多数であったが第3の考え方が相当であると結論づけています(212ページ)。
裁判所書記官は、通常、この種の書記官実務研究報告書に従って処理していますので、おそらく書記官の方から第3の考え方が示されると思いますが、もしそうでないときは書記官実務研究報告書で第3の考え方が相当とされていると主張すれば説得できる可能性が高いと思います。
訴え提起手数料については「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
控訴については「控訴の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「控訴(民事裁判)」でも説明しています。
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