◆短くわかる民事裁判◆
裁判官の除斥原因:前審の裁判への関与
裁判官の除斥原因とされる「不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき」について、最高裁は、「前審の裁判」とは、「当該事件の直接又は間接の下級審を指す」として、調停に関与した裁判官が認知請求事件の第1審判決をしても何ら違法はない(最高裁1955年3月29日第三小法廷判決)、再審請求の対象となっている裁判に関与した裁判官がその再審の裁判に関与してもこれに当たらない(最高裁1964年9月4日第二小法廷判決)としています。
また、最高裁は、「前審の裁判に関与した」というのは、「前審の裁判の評決に加わった」という趣旨であるとして、1審で口頭弁論を指揮し、証拠調べ(証人尋問)をした裁判官が(1審判決をしたのでなければ)その控訴審判決に関与しても違法でない(最高裁1953年6月26日第二小法廷判決)、1審で準備手続または準備的口頭弁論を行った裁判官がその控訴審判決に関与しても違法でない(最高裁1964年10月13日第三小法廷判決)としています。
この規定の趣旨について、裁判所は、既にその事件について判断をした裁判官は予断を持っているという観点ではなく、純粋に審級の利益(上級審で独立に判断を受ける利益)の観点で受け止めているようで、直接に上級審となるかを判断基準としているように見えます。
実質的にまさにその事件で判断をしていても、労働審判の審判官として審判に関与した裁判官が、異議申立てによる本訴移行の裁判で1審判決をしても違法でない(最高裁2010年5月25日第三小法廷判決)とされ、私の経験上も、解雇事件で賃金仮払い仮処分の決定をした裁判官が地位確認請求の本訴で出てきたということがあります。さすがに東京地裁ではそういうことはありませんが、地方の裁判所だと裁判官が少ないことから、そういう運用は稀とはいえないようです。
事件当事者の側から、特に前の手続で負けた側の当事者から見れば、ちょっと勘弁して欲しいという気持ちになるのですが。
民事裁判の手続全般については「民事裁判の審理」でも説明しています。
民事裁判の登場人物についてはモバイル新館の 「民事裁判の登場人物」でも説明しています。
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