◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:代表者の背任的訴訟活動
会社が金銭支払を命じられた確定判決に対し、その訴訟は代表者が原告と通謀してありもしない貸金を請求する訴訟を提起させて真実に反して原告の主張を認めたために被告(会社)が敗訴したものと主張して再審請求をした事案で、第1審は再審事由に当たらないとして却下しましたが、第2審(東京高裁1991年7月17日判決)は3号再審事由に当たるとして第1審判決を取り消しました。
最高裁1993年9月9日第一小法廷判決は、原判決について「原審は、会社の代表者が自己又は第三者の利益を図る意思で会社の代表者として訴訟行為をした場合において、相手方が右代表者の意思を知り又は知り得べきであったときは、右代表者の訴訟行為につき必要な授権が欠けていたのと同視することができ、このような事情の下に成立した確定判決には同号の事由があるものと解すべきであるとし、前記の被上告人の主張事実を同号の事由に当たるものと判断した。そして、原審は、被上告人の主張事実を同号の事由に当たらないものとして本件再審の訴えを却下した第一審判決を取り消した。しかしながら、原審の右判断は是認することができない。」とし、「訴訟の当事者である株式会社の代表者として訴訟行為をした者に代表権があった場合には、右代表者が自己又は第三者の利益を図る意思で訴訟行為をしたときであっても、民訴法420条1項3号の事由があるものと解することはできず、この理は、相手方において右代表者の意思を知り又は知り得べきであったとしても同様である。けだし、株式会社の代表者は、法に特別の規定がある場合を除き、当該会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(商法261条3項、78条1項)のであり、その代表権限は、右代表者の裁判上の行為をする際の意思又は当該行為の相手方における右代表者の意思の知不知によって消長を来すものではないからである。」として、原判決を破棄し、再審原告(会社)の控訴を棄却しました(その結果、再審請求を却下した第1審判決が確定)。(判決が引用している民事訴訟法及び商法の条項は当時のもので、現在の民事訴訟法、会社法とは条項が違います)
代表権がある代表者である以上、その代表者が会社の利益に反する、背任的な訴訟活動を行っても、それが訴訟の相手方と通謀したものであっても、代理権(代表権)がある者が訴訟活動を行ったのだから、3号再審事由の代理権や訴訟のための授権がなかったというのは無理ということですね。
※新株発行無効の訴えを認容する判決とそれにより権利を害される株主のケース(「3号再審事由:新株発行無効認容判決」で紹介しています)で最高裁は会社の訴訟活動が著しく信義に反している場合、なれ合い訴訟のような場合には3号再審事由に当たりうるとしましたが、そのケースとは異なり、著しく信義に反する訴訟活動をしたのが会社が適法に(有効に)選任した代表者であって、言い換えればそういう人を代表にしたのが悪いということでしょう。
※2020年4月1日施行の改正民法で新たに「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」という規定が設けられています(民法第107条)。その結果、現在では、代理人(代表者)の背任的訴訟活動は「代理権を有しない者がした行為と」みなされ、代理権がないか訴訟のための授権がなかったということになり、3号再審事由に該当すると解される可能性が高くなっていると考えられます。
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