◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:従業員でない者への訴状送達
法人に対する送達は、名宛て人は代表者ですが、民事訴訟法第106条第1項前段は「送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者(略)であって、書類の受領について相当のわきまえのあるものに、書類を交付することができる。」(補充送達:ほじゅうそうたつ)と定めていますので、法人の従業員に対して交付して行うことができます。
送達を受領できる資格があるのは「使用人その他の従業者」ですから、法人の事務所内で交付しても相手がその法人の従業員でなければ(例えば既に退職して雇用関係のない者)、送達は無効となります。
原告会社(再審被告)が、被告会社(再審原告)に対し、請負代金請求の訴訟を提起し、訴状副本と期日呼出状は、被告会社の本店に常駐する者に交付され、「従業者○○に渡した」という郵便配達報告書が作成され、第1回口頭弁論期日に被告は欠席して弁論は終結され、原告の請求を認容する(被告敗訴の)判決が言い渡され、判決正本も被告の本店で常駐している同じ者に交付され、「従業者○○に渡した」という郵便配達報告書が作成され、控訴なく判決が確定しました。
被告会社は、別会社と本店をともにしており、郵便受けには両会社の表示が併記され、被告会社の本店勤務の従業員は1名で不在がちであり、被告会社宛の郵便物は常駐している別会社の従業員が事実上受領していました。訴状副本、判決正本を受領した者は、被告会社の(不在がちな)従業員の机の上にそれらを置いたけれども被告会社の従業員は他の書類とともに机の引き出しに入れたまま放置していました。
そういう経緯で知らないままに判決を受けた被告会社は、原告との別の裁判で判決を証拠に出されて調査してその経緯を知り、3号再審事由があるとして再審請求をし、第1審(大津地裁2005年7月20日決定)も第2審(大阪高裁2005年11月8日決定)も、再審原告の主張を認め、再審を開始する決定をしました。
原決定の理由は、判例時報の記事の中で最高裁調査官による要約によれば、訴状副本、判決正本の交付を受けたのは別会社の従業員であって被告会社の従業員ではないから被告会社の「使用人その他の従業者」には当たらない、被告会社が別会社の従業員に被告会社宛の郵便物を受領する権限を与えていたと認めるに足りる的確な証拠はない、別会社と被告会社は緊密な関係にあることが窺われるが同族会社や親子会社ではなく被告会社の法人格が形骸化しているとまで認めるに足りる証拠はない、したがって訴状副本、判決正本の送達は受領権限のない者にされた瑕疵のある補充送達であるから無効であり、被告会社の従業員は机の上に置かれた訴状副本等を引き出しに入れたまま失念したという落ち度があるが、机の上に置かれた書類につき裁判所から特別送達された書類であるという認識を持たなかったとしても不自然ではないから、被告会社が送達の瑕疵を主張することが信義則上許されないとはいえないということです。
最高裁2006年2月16日決定は、「所論の点に関する原審の判断、正当として是認することができる。」として許可抗告を棄却しました。(判例時報1972号22〜23ページ【13】)
かなり微妙なところで、勤務の実態や郵便物の受領権限、両会社の関係の認定・評価で結論が変わる可能性を孕むように思えますが、訴状副本が有効に送達されていない以上は3号再審事由があるということになります。
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