◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:受送達能力のない子への訴状送達
被告(再審原告)の妻が1979年頃に夫(被告)名義で購入した商品の代金について信販会社が立替金請求の訴訟を提起し、1980年10月4日、その訴状と期日呼出状が当時7歳9か月の娘に手渡されて送達(補充送達:民事訴訟法第106条第1項)されたがその子は訴状を被告に渡さず、被告は訴訟係属を知らず第1回口頭弁論期日を欠席し、判決言い渡し期日(第2回口頭弁論期日)の呼出状が1980年11月3日に被告の妻に手渡されて送達されたが妻はそれを被告に知らせず、欠席判決が言い渡され、判決正本が1980年11月17日に被告の妻に手渡されて送達されたが妻は被告にそれを知らせなかったため控訴もなく判決が確定し、1989年5月になり信販会社から請求を受けた被告が調査した結果確定判決を知り、再審請求をしたという事案で、最高裁1992年9月10日第一小法廷判決は、「民訴法171条1項に規定する「事理ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具フル者」とは、送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力を有する者をいうものと解され」、「当時七歳九月の女子であった上告人の四女は右能力を備える者とは認められない」とした上で、「有効に訴状の送達がされず、その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合には、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、民訴法420条1項3号の事由があるものと解するのが相当である。」としました(判決で引用している民事訴訟法の条項は当時のもので現行民事訴訟法の条項とは違います)。
※この事件では、連帯保証人であり共同被告である妻が第2回期日呼出状と判決正本を受け取って、被告には交付せずにいました。その点、主債務者であり共同被告である義父が訴状を受け取っていて訴訟についての利害対立があるために訴状等を速やかに交付することができず実際にも交付を受けていないとして訴訟手続に関与する機会を与えられたことにならないとされた最高裁2007年3月20日第三小法廷決定と同様の事情がありますが、最高裁1992年9月10日第一小法廷判決では、被告と妻の利害対立は認定も言及もされていません。訴状送達が無効でそのために訴訟に関与する機会が与えられないままに判決がされたこと自体が3号再審事由とされて、第2回口頭弁論期日呼出状と判決正本の妻への交付は再審事由としては考慮されていないと評価してよいでしょう。
その上で、この判決では、民事訴訟法第338条第1項但し書きの解釈として再審請求が許されない事情(再審の補充性:さいしんのほじゅうせい)の1つとしての「知りながら控訴しなかった」ことになるかについて、第2回期日呼出状及び判決正本の補充送達(妻への送達)が法的に有効であっても現実に知らなかったのだから知りながらに当たらないとして、「上告人に対して前訴の判決正本が有効に送達されたことのみを理由に、上告人が控訴による不服申立てを怠ったものとして、本件再審請求を排斥した原審の判断には、民訴法420条1項ただし書の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決に影響することは明らかである」として、原判決を破棄して差し戻しました(判決で引用している民事訴訟法の条項は当時のもので現行民事訴訟法の条項とは違います)。
※最高裁が、知りながらの対象として「上告人は、前訴の訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの前記再審事由を現実に了知することができなかった」という判示をしている点も興味深いところです。
この点については、「3号再審事由と控訴・上告対応」でより詳しく説明しています。
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