◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:代表者の訴訟委任状の偽造
訴訟代理権を欠いたことという民事訴訟法第338条第1項第3号の再審事由の典型的なケースは、本人(法人の場合代表者)の知らないうちに訴訟委任状が偽造され、委任していない訴訟代理人(弁護士)により訴訟が行われて判決が言い渡され確定したというものです。
手形訴訟の被告とされた会社の代表者が訴状副本の送達を受けたが、取締役が自分が訴訟の対応をすると言って訴状副本を持って行ったため、訴訟について特段の対応を取らなかったが、取締役が勝手に会社名義の訴訟委任状を作成して(勝手に代表者印を押捺し)訴訟委任状に記載された弁護士が訴訟活動を行い、会社が一部敗訴した判決が言い渡されて判決正本はその弁護士に交付され判決が確定しました。弁護士は取締役から会社のための訴訟代理を依頼されたが代表者とは直接連絡を取らず判決正本も取締役に渡したとされています。
その後、会社は、手形訴訟(確定判決)の原告に対し、第三者(代表者でない取締役)が偽造した会社(代表者)名義の訴訟委任状による代理人の訴訟行為によって判決がなされ確定したものであるから民事訴訟法第338条第1項第3号の再審事由(訴訟代理権を欠いたこと)があるとして再審請求(再審の訴えを提起)しました。
第1審(大阪地裁2008年7月9日決定)及び第2審(大阪高裁2008年10月14日決定)は、会社(代表者)の訴訟委任状は偽造されたものであり訴訟行為をした弁護士は有効な代理権がないこと、代表者が訴状を受領しながら取締役から訴訟対応をすると言われた以降何もしなかったという対応を取締役に訴訟対応を委ねたとか訴訟委任状作成の権限を与えたと評価することは困難であること、代表者が有効に訴状の送達を受けながら何もしなかったのであるからそのような場合に再審請求を認めることは訴状の送達を受けながら欠席して敗訴判決を受ける場合と比較して均衡を欠くようにも思えるが民事訴訟法第338条第1項第3号は訴状が送達されていないことを要件としていない(訴状が送達された場合を排除していない)し実質的にも本件のように代表者以外の者が委任状を偽造しその委任状により選任された訴訟代理人が訴訟追行して敗訴判決正本の送達を受けそれを代表者以外の者に交付してしまった場合には控訴を申し立てる機会が付与されていないから再審を認めることが直ちに欠席判決との対比において均衡を失するとは言い難いこと、代表者が訴訟の結果について裁判所に問い合わせるなどして調査すべきであるとまでは言えないことなどを理由に再審開始の決定をしました。
再審被告の許可抗告に対し、最高裁2009年2月24日第三小法廷決定は抗告を棄却しました(判例時報2085号10ページ【14】)。
代表者が訴状副本の送達を受けて現にそれを見ていながら、そして取締役から自分が対応すると言われていながら、その後なにもせず、訴訟の進行について確認しないということは、その取締役に訴訟対応を任せたのではないかとも思えますし、代表者がその後のことを何も知らなかったといわれても簡単には信用できないようにも思えます。そういうところ、どうかなとは思いますが、このようなケースでも再審請求が認められた例があることは頭に置いておく必要がありそうです。
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