◆短くわかる民事裁判◆
3号再審事由:訴訟能力を欠く被告の代理人不在
代理権を欠いたことという民事訴訟法第338条第1項第3号の再審事由の最も典型的なものとして想定されるのは、未成年者や成年後見がなされるべき状態にある者(判断能力がない常態にある者)のような訴訟能力を欠く被告に、法定代理人(親権者、後見人等)がいない場合です。
このような被告に対して訴訟提起された場合、裁判所は原告に対して訴状に法定代理人を記載するよう(法定代理人がある場合には、法定代理人は訴状の必要的記載事項です:民事訴訟法第133条第2項第1号)補正を命じ(民事訴訟法第137条第1項:訴状の補正命令については「訴状の補正命令」で説明しています)、原告が補正しない場合には訴状を却下すべきことになり(民事訴訟法第137条第2項)、被告に法定代理人がない場合には、原告側で可能な対応としては(成年後見人選任の申立てもあり得ますが)特別代理人選任の申立て(民事訴訟法第35条)で、それをしない場合は、訴え却下の判決がなされることになります(民事訴訟法第140条)。
しかし、そのことを見過ごして判決を言い渡し確定してしまった場合は、(被告が成人するとか訴訟能力を回復するか、法定代理人がつくかした後に)3号再審事由により再審請求をすれば認められるということになります。
裁判所Web掲載判決でその事例を見つけましたので紹介します。
2002年12月11日に被告2名(双子の兄弟:判決に明示はされていませんが母親がいるけれども法定代理人がいないということですから成人の年齢なのだと思われます)に対して立替金請求の訴訟が提起され、その訴状は同月16日に母親が受領し第1回口頭弁論期日が2003年1月16日に開かれたけれども被告両名は欠席し、その日に原告勝訴(被告ら敗訴)の判決が言い渡され、判決正本は同月28日に母親が受領し、同年2月13日に判決が確定しました。
名古屋簡易裁判所2005年3月29日決定は、再審原告ら(被告ら)の確定判決当時の訴訟能力について次のように認定しました。「記録及び再審原告ら代理人審尋の結果によれば、再審原告らは双生児として生まれ、両名ともに小学校高学年になって学校から知恵の遅れを指摘され、中学校では養護学級に在籍したが、成績は最低であったこと、平成16年7月30日時点では前頭葉に軽度の脳萎縮が認められ、兄Aは、3品目の記銘再生力や場所、時間、人の見当識には問題ないものの計算力については、一桁の引き算をする計算能力すらなく、理解力、判断力にも欠けており、知能指数50精神年齢8歳0月(平成15年10月10日に実施した鈴木・ビネー式知能検査による。)であって中等度の知的障害を有し言語疎通も十分ではなかったことが、また、弟Bは、4品目までの記銘再生力はあるものの場所や時間の見当識に問題が窺われ一桁の足し算引き算をする計算力すらなく、簡単な漢字の読みや理解力、判断力にも欠けており、知能指数43精神年齢6歳10ヶ月(平成16年2月26日に実施した鈴木・ビネー式知能検査による。)であって中等度の知的障害を有し言語疎通も十分ではなかったこと、再審原告ら両名に対して平成16年9月6日大津家庭裁判所長浜支部で保佐開始の審判がなされ同審判は平成16年9月25日に確定していることが、いずれも認められるのであって、再審原告らの病状は前訴の訴状が送達された平成14年12月16日当時も同様であったことが推認される。」
その上で、「以上認定した事実によれば、再審原告らはいずれも前訴訴状送達時において、訴状の意味を理解し、自己の権利を擁護するために適切な行為をなす意思能力に欠けていたものと認められ、訴訟能力を有していなかったものと認めるのが相当である。そうすると、前訴での訴状の送達は無効であって、現実には再審原告らの母親が訴状の交付を受けていることを考慮に入れても再審原告らに訴訟に関与する機会が与えられたとは言えず、その機会が与えられないままなされた前訴判決には民事訴訟法338条1項3号の再審事由があるものと解するのが相当である。」として再審開始を決定しました。
なお決定の主文は「本件再審を開始する。」です。
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再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
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