◆短くわかる民事裁判◆
特別代理人の選任
未成年者、成年被後見人は法定代理人によらずに訴訟行為を行うことができません(民事訴訟法第31条)。原告は被告が未成年者または成年被後見人であるときは、訴状にその法定代理人を記載しなければならず、裁判所はその法定代理人の資格を示す書類(戸籍謄本、成年後見人登記事項証明書等)を訴状に添付することを求めます。
そうすると、未成年者や成年被後見人に法定代理人がいないときやいても代理できないとき(利益相反があるときなど)には、未成年者や成年被後見人を被告とする裁判を起こせないことにもなりかねません。
そこで民事訴訟法は、「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。」と定めています(民事訴訟法第35条)。認知症や精神障害により判断能力が欠ける常態にあるのに成年後見開始の審判がなされていない者も同様と解されています。
また会社などの法人や法人でない社団の代表者がいないときも同様に特別代理人の選任を申し立てることができます(民事訴訟法第37条)。
特別代理人選任の申立てがあると、少なくとも東京では、裁判所から弁護士会に特別代理人推薦の要請がなされ、弁護士会で候補者を探して推薦し、裁判所がその弁護士を選任することになります。
昔は、少なくとも第二東京弁護士会では、希望者は少なく、弁護士会の事務局が推薦に困っていました。そういう時期(もうほとんど覚えていませんが、そういう事情からして20世紀のうちのはずです)に、第二東京弁護士会の法律相談センター運営委員だった(考えてみれば、今でも一応運営委員のようですが)私は、事務局から頼まれて1件特別代理人を務めたことがあります。銀行が原告で、借主がほとんど話もできない状態の貸金請求の事件でした。訴状と原告提出の甲号証を検討すると、訴え提起が時効成立が微妙な時期になされていて、原告主張の最後の返済が被告本人の口座からの送金ではなく、もしその返済が借主が行ったものでなければ消滅時効成立と時系列だったと思います(正確に覚えているわけではないですが)。私の方は、被告本人から話が聞けないのですから、論理的にあり得ることは追求するしかなく、最後の返済を本人が行ったという証明はない、消滅時効を援用すると主張しました。しかし、もちろん、こちらにも最後の返済を他の者が行ったということを裏付ける資料もなく、また銀行側が虚偽の資料を作成したという証拠もなく、結局は、原告主張通りの判決になりました。原告側からすれば、自分が選任申立てして弁護士報酬(10万円でしたが)も原告が払うのになんでそんなに頑張ると、不満たらたらの様子でしたし、被告本人から感謝されるわけでもなし(本人は状況が理解できていない)、バカバカしくてその後特別代理人は受けていません。
その後しばらくして、第二東京弁護士会でもとにかく事件を受けたいという弁護士が増え、事務局がやってくれる弁護士を探すのに困ることもなくなりましたから、やってくれといわれることもなくなりましたが。
訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
モバイル新館の 「訴えの提起(民事裁判の始まり)」でも説明しています。
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