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6号再審事由認容例:最高裁1972年5月30日第三小法廷判決
 判決の証拠となった文書が偽造されたものであったことという6号再審事由による再審請求(再審の訴え)が認容された典型的な事例を紹介します。

 原告(再審被告)は、被告(再審原告)との間で土地建物の売買が成立しているとして被告に対し土地建物明渡請求の訴えを提起し、第1審判決は原告の請求を棄却したが、第2審判決(東京高裁1955年8月27日判決)は、第1審判決を取り消し原告(控訴人)の請求を認容し、被告(被控訴人)が上告しましたが1957年7月19日上告棄却の判決が言い渡されて確定しました。
 その後、原告(再審被告)は公正証書原本不実記載・同行使、偽証教唆等の罪により1959年11月10日東京地方裁判所で懲役4年の判決を受け、証人Eは偽証の罪により同日東京地方裁判所で懲役1年の有罪判決を受け、上訴しましたが最終的に1963年12月5日に上告棄却され同月15日に確定しました。

 再審原告(確定判決被告)の6号再審事由及び7号再審事由を理由とする再審請求に対し、東京高裁1968年12月21日判決は、6号再審事由の判決の証拠となった文書の偽造について、「本件の本案に関する当事者双方の後記各主張によると、昭和二六年一一月一九日に、売主再審原告F(代理人同H)買主再審被告間において、別紙目録記載の土地建物を対象とする売買契約が成立したか否かの点が本件における唯一の争点になつていると認められるところ、原判決が右の争点の判断について右甲第一・二号証を証拠として採用していることは、同判決書の理由の記載により明かである。そして、右甲第一・二号証の記載内容をみると、それはいずれも右売買契約につき作成された契約書として、売買契約の成立を直接に立証する資料となるものであるから、これらの書証の成立の真否は、原判決の結論に最も重要な影響をおよぼすことが明かである。」、「再審被告に対する前記刑事判決の甲(一)の記載と右甲第一・二号証の記載とを対照すると、両判決が、再審被告においてほしいままに金額、作成年月日、名宛人の記入をして作成した、と認定した文書二通が、右甲第一・二号証であることが明かである。」と判示しました。
 民事訴訟法第338条第2項の有罪判決要件については、この判決は確定判決の証拠となった売渡証書(甲第1、2号証)の私文書偽造については起訴猶予とされたことを理由に要件を満たすとし、上告審の最高裁1972年5月30日第三小法廷判決は私文書偽造と起訴されて有罪になった公正証書原本不実記載・同行使は目的と手段の関係にあり(法律用語では最高裁判決が使っている「牽連犯(けんれんぱん)」)一体の関係(法律用語では最高裁判決が使っている「科刑上一罪(かけいじょういちざい)」)なので公正証書原本不実記載・同行使が有罪判決を受けて確定するとその後に私文書偽造を別に起訴することが法律上不可能なため要件を満たすと、違う理由をつけていますが、いずれも有罪判決要件を満たすことは認めています。
 以上のような判示の上で、東京高裁1968年12月21日判決は、甲第1・2号証が偽造文書であること(6号再審事由)による再審請求を認めました(なお、この判決は証人Eの証言が偽証であったという7号再審事由も認めています。それについては「7号再審事由の具体的判断:東京高裁1968年12月21日判決」で説明しています)。
 上告審の最高裁1972年5月30日第三小法廷判決は、以上の東京高裁1968年12月21日判決の再審事由の認定判断については「所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができ、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。」として是認しています。

 このケースでは、確定判決の結論を直接決した当該土地建物の売買の成立という中心的な論点の直接的な証拠である売渡証書が偽造であったことを、偽造した売渡証書により所有権移転登記をした(登記簿原本に不実の記載をさせた)という公正証書原本不実記載罪について有罪判決により立証したもので、これだけそろえば裁判官も偽造の主張を認め、また再審請求も認めるというお手本のような事例といってよいでしょう。

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 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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