◆短くわかる民事裁判◆
7号再審事由と虚偽の陳述が判決の証拠となったこと
証人の虚偽の陳述が判決の証拠となったことという7号再審事由による再審請求(再審の訴え)について具体的に判断され、一部が認められ、一部が認められなかった判決を紹介します。7号再審事由に当たるかを判断する上で実務上とても参考になるものと思われます。
原告(再審被告)は、被告(再審原告)との間で土地建物の売買が成立しているとして被告に対し土地建物明渡請求の訴えを提起し、第1審判決は原告の請求を棄却したが、第2審判決(東京高裁1955年8月27日判決)は、第1審判決を取り消し原告(控訴人)の請求を認容し、被告(被控訴人)が上告しましたが1957年7月19日上告棄却の判決が言い渡されて確定しました。
その後、原告(再審被告)は公正証書原本不実記載・同行使、偽証教唆等の罪により1959年11月10日東京地方裁判所で懲役4年の判決を受け、証人Eは偽証の罪により同日東京地方裁判所で懲役1年の有罪判決を受け、上訴しましたが最終的に1963年12月5日に上告棄却され同月15日に確定しました。また、この事件で証言した証人A、B、C、Dは、検察官に対し偽証を自白し起訴猶予処分を受け、これらの証人の証言が虚偽の陳述であることは原告(再審被告)の刑事事件判決中で認定されました。
再審原告(確定判決被告)の6号再審事由及び7号再審事由を理由とする再審請求に対し、東京高裁1968年12月21日判決は、7号再審事由の虚偽の陳述が判決の証拠となったことについて、次のように判示しています。
証人A(確定判決第1審で証言)の虚偽の陳述については「原判決を仔細に検討しても同判決が右証人の証言を証拠として採用した形跡が見当らないから、同証言について再審事由の存在をいう再審原告らの主張は採用しえない。」
証人B、C、D(確定判決第2審で証言)の虚偽の陳述については「再審被告に対する前記刑事判決が、同被告の偽証教唆罪成立の前提事実として、右証人B、同Cが『昭和二六年一二月四日頃右Bが再審原告F及び訴外Jから右F所有の本件土地建物につき、同被告名義に所有権移転の登記をするために必要な保証人になつて貰い旨の依頼をうけたことがないのに、Bが右依頼に基づいてその保証人となつた』という趣旨の、また右証人Dが『昭和二六年一一月頃再審原告Fが再審被告より二〇万円を借受け自宅に帰る途中当時右Dが同居していたJ方に立ち寄つた事実および同月一九日再審原告Hが右J方に立ち寄り同人に対し、再審原告F所有の本件土地建物を再審被告に売渡したと述べた事実がないのに、右のような事実があり、これを右証人Dが見聞した』という趣旨の、各偽証をした事実を認定していることは、前記のとおりである。そして同証人らが右各偽証の罪について東京地方検察庁検察官から起訴猶予処分を受けたことは当事者間に争がない。しかし、右B、同Cの証言は、本件の本案における争点である『昭和二六年二月一九日再審原告Fと再審被告間に別紙目録記録の土地建物を対象とする売買契約が成立』したか否かの主要事実に関するものではなく、右主要事実を推認する資料となる間接事実に関するものにすぎず、右の間接事実自体は原判決の認定した事実の中に示されてはいない。そして、原判決が右事実認定について採用した他の証拠を仔細に検討してみると、右両証人の証言が、原判決の心証形成の一資料となつたことはもとより否定しえないけれども、その結論を左右する程の重要性をもつていたとは到底断言することができない。また、原判決が証人Dの証言を証拠として採用したのは、再審原告らの、甲第一・二号証が偽造であるとの主張を排斥する資料として『再審原告らと共に再審被告に対し連帯債務を負担していたJが右債務弁済のため同人所有の家屋を再審被告に売渡し、その登記手続および家屋の明渡をすませていた』との、および『再審被告が昭和二七年二月八日再審原告両名にあて本件土地建物を同年同月一八日正午までに明渡すことを求める書面を作成し、これをDをして再審原告H方に持参せしめたが、Hはこれを受け取らなかつたので同日右趣旨を記載した郵便はがきを再審原告らあてに発送した』との各事実認定をするについてであつて、前者は本件の主要事実の認定に関する事情(間接事情)にすぎず、原判決の理由の記載を検討してみると、右事実の有無が主要事実の認定について、これを左右する程の重要性を持つていたとは考えられないし、後者は本件の附帯の請求(損害金の請求)に関するものであり、しかも右事実のうちこの請求に関して必要なのは、再審被告が再審原告らに対し、郵便はがきで明渡を求めた事実だけで、これよりさき再審被告が、Dを使として、再審原告らに明渡を求める書面を持参せしめた、との点は右に至る事情にすぎないと考えられるのであるが、証人Dの証言中に、再審被告が郵便はがきで右の明渡を求めた事実の認定の資料となるような部分は見当らない。されば、右証人B、同C、同Dの証言が虚偽のものであつたことは、この点に関するその余の主張について判断するまでもなく、本件につき再審事由たりえないといわざるをえない。」と判示して、これらの証人の虚偽の陳述が「判決の証拠となった」とはいえないとしました。
証人E(第2審で証言)の虚偽の陳述については、「同証人の証言が虚偽の陳述として有罪となつたのは『昭和二六年一一月二一日にAと共に再審原告H方を訪れ、再審原告Fより同人所有の別紙目録記載の土地建物に関する売渡証書等の交付を受けた事実がないのに拘らず、右日時にAと同行してH方に到り、右Fより前記証書等の交付を受けた旨虚偽の陳述をした』との点に関するものであつて、原判決は甲第一・二号証中の不動産の表示、本文及び再審原告Fの署名部分以外の部分、ならびに甲第五・六号証の署名部分以外の部分の各成立の真正を認定するにつき、唯一の証拠として右Eの証言を採用し、更に本件の請求原因事実を認定するについて、他の証拠とともに、右証言を採用し、その事実認定中に、本件売買契約の締結につき当事者(再審原告Fの代理人の同Hと再審被告)間に合意の成立した事実を認定したのち『両者の間に売渡証等(甲第一・二号証、甲第五・六号証、甲第二七号証)が作成されたが、Hは右書類をFに示したいからと言つて一旦持ち帰つた。その後再審被告は右書類をFからEを通じて受け取り、これを使用して右売買による所有権移転登記を了した』という趣旨の認定をし、その一部にEの右証言内容をそのまま採用したと思われる事実認定をしている。右甲第一・二号証および甲第五・六号証は、いずれも本件の主要事実の立証につき、直接の最も重要な資料となるものであり、また右証言内容である、再審原告Fが任意に、前記売渡証などの書類を再審被告の使のEに交付した事実の存在は、再審原告らが右売買契約の締結を承諾していた事実を推認させる重要な間接事実たる意義をもつわけである。以上のように考えると、証人Eの前記証言が虚偽であつたことは、本件について民事訴訟法第四二〇条第一項七号第二項前段に該当するものとして、再審の事由となると解すべきである。」と判示して、「判決の証拠となった」としました。
以上のような判示の上で、東京高裁1968年12月21日判決は、虚偽の陳述が判決の証拠となったこと(7号再審事由)による再審請求は、証人A、B、C、Dの偽証については理由がないが、証人Eの偽証については理由があるとしました(なお、この判決は売渡証書(甲第1・2号証)が偽造であったという6号再審事由も認めています。それについては「6号再審事由認容例:最高裁1972年5月30日第三小法廷判決」で説明しています)。
上告審の最高裁1972年5月30日第三小法廷判決は、以上の東京高裁1968年12月21日判決の再審事由の認定判断については「所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができ、右認定判断の過程に所論の違法は認められない。」として是認しています。
このケースでは、同じく偽証と立証された証人の虚偽の陳述が「判決の証拠となったこと」について、裁判所の判断が分かれています。その違いは、確定判決が認定した主要事実である売買契約の成立の認定に直接用いられているか(判決文で引用されているか)、主要事実を推認する材料となっている間接事実の主張事実への近さ(重要性)とその証言がその間接事実の認定に使われている度合いの評価に基づいています。判決で言われるとなるほどと思えるところと、どう違うのかそれほど決定的な違いといえるかと思うところがあるかと思いますが、再審事由として裁判所に認めさせるという観点からは、とても重要な判断になります。
証人Eの証言(虚偽の陳述)は、売買契約の成立という中心的な争点についての直接の証拠である売渡証書が真正に成立した(偽造ではない)という「唯一の証拠」であり確定判決が判決文でそのことを記載していること、その売渡証書を被告(再審原告)で所有者・売主である者がEに渡したという証言も売渡証書が偽造でない(売主たる再審被告が作成した、少なくとも疑念を持たなかった)ことを推認させる重要なものであることが、再審事由を認めるに当たって特に重視されているものです。
これくらい確定判決の中で重要性を持つ証言が虚偽なら裁判官が再審事由を認めるという典型例として、逆に証人B、C、Dの証言の虚偽の陳述と認定された部分程度では裁判所は再審事由を認めてくれないという厳しさを、学んでおきたいところです。
私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。
再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の「再審請求」でも説明しています。
**_****_**