◆短くわかる民事裁判◆
7号再審事由と虚偽の陳述が判決の証拠となったこと
「証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。」という7号再審事由による再審請求(再審の訴え)では、証人等の法廷での陳述が虚偽のものであることを立証する必要があり、その虚偽の陳述と立証できた部分が、判決の証拠となっていて、その虚偽の陳述による認定があるかないかで判決主文に影響を及ぼすような場合である必要があります。(そのほかに、民事訴訟法第338条第2項の有罪判決要件、民事訴訟法第338条第1項但し書きの再審の補充性、民事訴訟法第342条の再審期間の問題もクリアする必要があります)
最高裁1958年7月18日第二小法廷判決は、「本件確定判決は、本件自転車の売買契約の売主がAであるか訴外D機械工業株式会社であるかの争点につき判断をなすに当り、証人Eの証言のほか挙示の証拠により、右売買契約の成立するに至つた経緯、契約書中の売主および売買物件の荷送人の各表示、売買代金の受領者、農林省が従来自転車を購入するにつき採つて来た方法およびそれと本件契約との関係等諸般の事情を判示のように認定した上、これらの事情に基いて本件売買契約の売主を前記訴外会社と認めたのである。したがつて、証人Eの証言に所論のような虚偽の陳述がなかつたとしても、『Eは当時AがD機械工業が解散して清算中であることを告げなかつたため右事実を全く知らなかつた』旨の認定が変更されることあるは格別、前記の諸事情によれば、本件契約の相手方が訴外会社であるとの事実認定はとうてい変更されうべくもないというべきである。されば、結局右と同趣旨の見解に立つて、前記虚偽の陳述がなされなかつたとしても右確定判決の結論と異る判断のなされる見込ないし可能性が全くないかあつても微弱でとるに足らないとし、右は民訴420条1項7号にいう『判決ノ証拠ト為リタルトキ』に当らないとした原判決の判断は、これを正当として維持することができ、この点において原判決に所論のような違法は認められない」と判示し、判決要旨では「確定判決における事実認定の資料にされた証人の証言に虚偽の陳述があつたとしても、結論の異なる判決のなされる見込のない場合は、民訴第420条第1項第7号にいう『判決ノ証拠ト為リタルトキ』にあたらないと解すべきである。」とされています。(旧民事訴訟法第420条は現在の民事訴訟法第338条に当たります)
最高裁1959年11月19日第一小法廷判決は、「原審が『本件手形は訴外H株式会社が昭和二五年八月七日(白地の補充も裏書もしないで)単なる交付によつて控訴人に譲渡したものである』旨の認定をしたのは、甲一号証の一(本件手形)および甲一一号証並びに第一審および原審における被上告人(控訴人)本人の供述によつたものであることは判文上明らかであり所論Gの偽証部分は右認定に何らの影響はないし、その余の事実認定に、Gの証言を採用しているものがないではないが、いずれも他の証拠とともにその一部として採用しているに過ぎず、しかも所論偽証部分は、それら認定に全然関係がないか、もしくは単なる事情に関するものに過ぎないから原判決の結論に何らの影響も及ぼすものではない。それゆえこの点に関する論旨も採用できない。」と判示しています。
この判決文からは、何についての判断かわかりませんが、判決要旨には「綜合認定に供された証言中に、偽証の証言があつても、偽証の証言が認定に全然関係がないか、もしくは主要事実の認定に影響を及ぼさない事情に関するものに過ぎないときは、民訴第420条第1項7号の再審事由とならない。」と記載されていますので7号再審事由についての判断ということになります(旧民事訴訟法第420条は現在の民事訴訟法第338条に当たります)。
そうすると、判決が判決の結論に影響する重要な事実を認定した根拠として判決文上挙げていることの中にその虚偽の陳述が含まれていなくてその重要な事実の認定に影響していない場合や、判決の事実認定でその証人等の証言が用いられていても他の証拠とともにその一部として採用しているに過ぎなかったり、その証言等の中の虚偽の陳述部分が認定に関係ないか単なる事情(主要な事実ではない事実)に過ぎず、判決の結論に影響を及ぼすものでないときは、証言等が虚偽の陳述であると立証されても、7号再審事由とならない(判決の証拠となったといえない)ということになります。
再審請求を希望する当事者は、相手方当事者や証人の供述に虚偽の点があると立証できれば直ちに再審事由になると考えがちですが(そして虚偽の陳述と立証すること自体かなり高いハードルですが)、裁判所に再審事由を認めさせるためには、その虚偽の陳述が判決理由の中心的な部分の認定の重要な根拠となっているような場合である必要があります。
この問題についてのより具体的な判断については、「7号再審事由の具体的判断:東京高裁1968年12月21日判決」で事例を示して説明しています。
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