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短くわかる民事裁判◆
8号再審事由と判決の基礎となったの判断
 「判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。」という民事訴訟法第338条第1項第8号の再審事由では、後に変更(取消等)された裁判等が、確定判決の「基礎となった」ものであることが必要です。

 この「判決の基礎となった」の判断基準を示した裁判例をを紹介します。

 労働者が職場でいじめを受け、体調不良により出勤しなくなり、医師からうつ病と診断され、使用者から休職を命じられ、休職期間満了により解雇されました。
 労働者は休業補償給付等の労災申請をしましたが、業務上の理由による発病とは認められず、不支給決定がなされ、審査請求、再審査請求も棄却され、不支給決定の取消請求の行政訴訟を提起しました。
 労働者は、職場でのいじめが原因で休職を余儀なくされたとして使用者に対して損害賠償請求の訴訟を提起しましたが、第1審判決も控訴審判決も原告の請求を認めず確定しました。
 その後、労災不支給決定の取消訴訟で不支給決定を取り消す判決が言い渡され確定しました。
 この労災不支給決定取消訴訟の判決を受けて、労働者が損害賠償請求を棄却した確定判決に8号再審事由があるとして再審請求をしました。
 大阪高裁2021年10月29日決定は、この再審請求に対して概ね次のような判断を示しました(判例時報2570号の記事記載の最高裁調査官による要約による)。
 民訴法338条1項8号において、行政処分が確定判決の基礎となったというのは当該確定判決が、@行政処分の成立・効力を前提としている場合だけでなく、A行政処分の認定事実を採用して同一の事実又はこれに基づく別の事実を認定している場合も含むものと解するのが相当である。@については、本件確定判決及びその引用に係る1審判決の認定や説示の中に本件行政処分の存在に関する記載はないから、本件確定判決は、本件行政処分の成立・効力を前提としてされたものとはいえない。Aについては、本件確定判決及びその引用に係る1審判決の認定事実には、本件処分の処分庁所属の調査官作成に係る調査復命書中の被告及びその関係者の聴取書に基づいて事実を認定した部分があるが、同部分は、本件行政処分の認定事実ではないから、同部分の存在をもって、本件確定判決が本件行政処分の認定事実を採用して同一の事実又はこれに基づく別の事実を認定しているとはいえない。したがって、本件行政処分が本件確定判決の基礎となったとはいえないから、本件確定判決について、民訴法338条1項8号所定の再審事由を認めることはできない。
 これに対する労働者の許可抗告に対して、最高裁2022年3月15日第三小法廷決定(判例時報2570号8ページ【3】)は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる」として抗告を棄却しました。

 別件の裁判や行政処分が、確定判決の基礎となった、というのは確定判決が別件の裁判や行政処分がなされたこと自体から一定の結論(法的効果)を導いている場合や、別件の裁判書きや処分通知・裁決書の記載から事実認定をしている場合をいうということは、そうだろうと思うのですが、明確に判示しているものが見当たらないのでこの決定が参考になります(調査官による要約じゃなくて、決定全文を掲載してくれているとよかったのですが)。

 このケースについては、具体的な事情はわかりませんが、一般的にいえば、ハラスメントを理由とした損害賠償ではなくて、休職期間満了による解雇の方を争っていれば、業務上の理由による疾病かどうかが直接の争点になり、不支給決定の取消=業務上の疾病という判断がなされたことで解雇無効や再審請求につながりやすかったと思います。

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 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
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