庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

短くわかる民事裁判◆
高裁判決に対する再審請求と上告対応
 民事訴訟法第338条第1項但し書きは、確定判決に再審事由がある場合でも、「当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったとき」は再審請求ができないことを定めています。裁判・民事訴訟法業界では、これを再審の補充性(さいしんのほじゅうせい)などと呼んでいます。
 この知りながら主張しなかったときには、上訴を提起しながら上訴審においてこれを主張しない場合のみならず、上訴をしないで判決を確定させた場合も含むと解されています(最高裁1966年12月22日第一小法廷判決)。

 現行民事訴訟法(1998年1月1日施行)は、旧民事訴訟法が上告理由としていた(旧民事訴訟法第394条)「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」を、最高裁への上告理由から外し、職権破棄事由としました(民事訴訟法第325条第2項。なお高裁への上告では上告理由となります:民事訴訟法第312条第3項)。最高裁は、旧民事訴訟法時代に、再審事由があると認めるときには、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反として原判決を破棄してきましたし、現行民事訴訟法の下でもそのような破棄事例が見られます(「判断の遺脱を理由とする原判決破棄」で、最高裁が現行民事訴訟法の下で判断の遺脱を理由として原判決を破棄した事例を紹介しています)。しかし、現行民事訴訟法の下では、それは最高裁が職権で破棄することができるに止まり、(1号〜3号の再審事由を覗き)上告理由に当たるわけではなく、最高裁の判決上も上告理由があるとは判示されません(民事訴訟法第338条○号の再審事由があり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというように判示されます)。
 最高裁も、特に9号再審事由である判断の遺脱と絶対的上告理由である理由不備の関係について上告理由とはなり得ないことを明示しています最高裁1999年6月29日第三小法廷判決「絶対的上告理由:理由不備」で詳しく説明しています)。

 そのような、現行民事訴訟法施行後の最高裁の姿勢から、絶対的上告理由と同じである1号〜3号の再審事由以外、つまり4号〜10号の再審事由については、最高裁への上告理由にならない以上、最高裁への上告に関しては、上告・上告受理申立てで再審事由を主張したが最高裁が明示の判断を示さなかった場合や、再審事由を知りつつ上告・上告受理申立てで主張しなかったり上告・上告受理申立てをしなかった場合に、民事訴訟法第338条第1項但し書きにより再審請求ができなくなると解すべきではないということが学説上主張されています(コンメンタール民事訴訟法Z14〜15ページ、21ページ等)。
 そして、現行民事訴訟法施行後、高裁判決に対する4号〜10号再審事由を理由とする再審請求について、民事訴訟法第338条第1項但書の再審の補充性を満たしているかどうかに関して最高裁の判断が示された例は見当たりません。
 したがって、高裁判決に対する4号〜10号再審事由の主張の場合に、最高裁への上告で主張したが単に適法な上告理由に当たらないとして再審事由の主張に対する明示の判断がなかった場合や、上告受理申立て理由で主張したが単に不受理となり再審事由について明示の判断がない場合、上告・上告受理申立て理由で主張しなかったり、上告・上告受理申立てをしなかった場合に、民事訴訟法第338条第1項但し書き(再審の補充性)の適用により再審請求が許されなくなるかについては、現在は明確ではないと考えておくべきでしょう。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

**_**区切り線**_**

短くわかる民事裁判に戻る

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ

民事裁判の話民事裁判の話へ   もばいるモバイル新館 民事裁判の話