◆短くわかる民事裁判◆
判断の遺脱を理由とする原判決破棄
「絶対的上告理由:理由不備」で説明したように、最高裁1999年6月29日第三小法廷判決以降、最高裁は、判断の遺脱は絶対的上告理由の1つである理由不備(民事訴訟法第312条第2項第6号)には当たらないとし、判断の遺脱自体が上告理由とはせずに、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反(民事訴訟法第325条第2項)として職権破棄するようになっています。上告との関係では結論として破棄するのならば同じとも考えられますが、判断の遺脱は再審事由(民事訴訟法第338条第1項第9号)でもあり、最高裁の姿勢は上告での対応に関して再審の補充性(民事訴訟法第338条第1項但し書き)がどう扱われるか(その点は「9号再審事由(判断の遺脱)と控訴・上告対応」で説明しています)、またどのような場合に再審事由に該当するのかという関心もあり、最高裁の判断の遺脱に関する判断は注目しておきたいところです。
現在の最高裁の判断の遺脱とこれを上告・再審でどう扱うかについての考え方を理解するためにも、実際に判断の遺脱に該当するとされたケースを検討しておくことは重要で、意味があることと思います。
現行民事訴訟法施行(1998年1月1日)後、最高裁が、判断の遺脱があるとして、それを理由に原判決を破棄した判決で、私が見つけることができたものは次のとおりです。それぞれの事案と何がなぜ判断の遺脱とされたかを別ページで詳しく紹介しています。
●未払い賃料請求の事案で借主の貸主の賃借人としての地位喪失の主張を判断せずにその時期の後の賃料請求を認容したことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2000年3月3日第二小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2000年3月3日第二小法廷判決
●境界紛争の事案で被告の時効取得の主張を判断せずに原告の所有権を認めたことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2000年9月7日第一小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2000年9月7日第一小法廷判決
●金銭請求の事案で被告の既払い(弁済)の主張について控訴審での主張額を変更したのにそれを判断せずに請求を認めたことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2001年4月10日第三小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2001年4月10日第三小法廷判決
●請負代金請求で、原告請求額の合意は認められないが、被告がより低い額での合意を認めているのにそれを判断せずに原告の請求を棄却したことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2003年6月10日第三小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2003年6月10日第三小法廷判決
●相続財産の郵便貯金を勝手に解約して払戻を受けたことについての損害賠償請求の事案で、生前贈与の主張を主位的請求とした者がしている相続財産の勝手な払戻の予備的主張、複数の相続財産の勝手な払戻のうち特定の郵便貯金の払い戻しの主張を判断しなかったことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2004年1月16日第二小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2004年1月16日第二小法廷判決
●借地権確認請求の事案で、原告の主張する範囲全体の借地権が認められないとするだけで、その一部について借地権が認められないかを判断せずに請求棄却したことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2006年3月16日第二小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2006年3月16日第二小法廷判決
●金銭請求の事案で、原告の主張の前提となる合意を否認して請求棄却を求める被告が、仮に原告主張の合意が認められるなら自分も被告大して債権があるとして相殺の予備的抗弁を主張したのに、原告主張の合意を認定しつつ被告の予備的相殺の主張について判断せずに原告の請求を認容したことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2007年2月20日第三小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2007年2月20日第三小法廷判決
●未払い賃料請求の事案で、被告の請求期間中の賃料支払の主張について判断せずに、原告の請求を全部認容したことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2014年11月4日第三小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2014年11月4日第三小法廷判決
●有期雇用期間中の労働者の解雇の事案で、解雇の無効のみを判断して、その後の契約期間満了について判断せずに(現在の)労働契約上の権利を有する地位を認めたことが判断の遺脱とされたもの:最高裁2019年11月7日第一小法廷判決
→判断の遺脱による原判決破棄:最高裁2019年11月7日第一小法廷判決
上告については「まだ最高裁がある?(民事編)」でも説明しています。
モバイル新館の「最高裁への上告(民事裁判)」、
「高裁への上告(民事裁判)」でも説明しています。
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