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短くわかる民事裁判◆
最高裁判決に対する再審請求
 再審の訴え(再審請求)の対象は、確定した終局判決です(民事訴訟法第338条第1項柱書)。第1審判決は、控訴審判決で取り消されれば(控訴が認容されれば)確定判決でない(判決自体がない)ことになり、控訴が棄却されても控訴審で本案判決がなされれば第1審判決は再審の対象となりません(民事訴訟法第338条第3項)が、上告審判決は必ず確定判決として残りますし、再審請求の対象から外れることは、ありません。
 したがって、最高裁判決は、その最高裁判決に再審事由があるのであれば、理論上は常に再審請求の対象となります。

 ただし、最高裁判決に再審事由があると考えられるケースは稀です。
 まず最高裁は法律審で直接に事実認定をしません(判決では原則として原審が適法に確定した事実によればというように判示され、事実認定をしたのは原判決だという前提です)ので、6号再審事由(判決の証拠となった書証等が偽造されたものであったこと)や7号再審事由(証人、当事者等の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと)については最高裁判決に対する再審事由とはならず、それを主張する再審請求は不適法なものとして却下されます(最高裁1964年3月6日第二小法廷判決)。
 9号再審事由(判断の遺脱)については、最高裁判決に判断の遺脱がある場合、民事訴訟法第338条第1項但し書きの制約(上訴で主張したか、知りながら主張しなかった場合は再審請求できない:再審の補充性)はありませんが、最高裁判決では最高裁が明示的に取り上げて判断した論点以外について、まとめて「所論は」とするか、「その余の論点について判断するまでもなく」などとするのが通例で、一応すべてについて判断はした、あるいは判断しない点は判決の結論に影響を及ぼさないという体裁を取っていて、判断の遺脱があるというのは難しいと思われます。それを主張するとしても、再審期間は、最高裁判決の場合は言渡の日から30日(言渡の日に確定するので:最高裁1970年12月22日第三小法廷判決は、上告審判決正本送達によって確定したという主張を「取りえないことは、言をまたない」と判示しています)になります(最高裁1970年10月1日第一小法廷判決は、7号再審事由をめぐって証人の偽証罪の有罪判決確定と上告理由書提出期限が絡んだやや特異な事案ですが、言渡の日から30日以内に再審の訴えを提起したということを判示していて、このように考えているものと思われます。確定日は言渡の日としても、言渡を聞きに行かない限りは、この判決がいう再審事由を知ったことになる上告判決で取り上げてもらえず裁判所の判断を受けられないことを「知った日」は判決書の送達を受けた日ではないかという疑問はありますが)。
※最高裁の上告棄却決定に対する準再審(決定・命令に対する再審:民事訴訟法第349条。規定上は即時抗告の申立てができる決定・命令に限定されていますが、最高裁1955年7月20日大法廷決定は、終局的裁判である決定・命令については広く準再審の対象となり上告審の裁判も例外ではないと判示しています)に関していうと、定型の棄却決定では「所論は」○○をいうがその実質は××であり適法な上告理由に当たらないというように記載され、一応すべての上告理由に対して判断しているという体裁なので、判断の遺脱があるというのは無理だろうと思います。またこの場合再審期間は決定を受け取った日から30日(決定は告知により効力を生じる:民事訴訟法第119条ので、最高裁の決定の場合は決定を受け取った日に確定します)になります。
 3号再審事由のうち、知らないうちに判決が言い渡され手続に関与する機会がなかったというパターンは、控訴・上告の余地がない(控訴できるなら、判決を知っていたわけですし)ので最高裁判決に至らないはずです。
 ということで、再審請求を希望する人が通常主張する再審事由は、最高裁判決に対して使える可能性はほとんどありません。

 それに、再審請求を希望する人は、判決の内容が見直されることを希望しているのですが、仮に最高裁判決に対する再審が認められたとしても、事実認定に影響するような再審事由が認められる余地がない(上述)以上、最高裁が同じ事実を前提に結論を変えることは考えにくく、最高裁が改めて上告棄却の決定をするだけということがふつうに予想されます。
 判決の内容を見直すためにも、事実審の第1審か、控訴審で本案判決がされているために第1審に対する再審請求ができないときには控訴審判決について、再審事由を探して再審請求するのが適切だろうと思います。

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 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
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