◆短くわかる民事裁判◆
本案判決とは
原告が主張した権利や法律関係(専門用語というか裁判業界の用語では「訴訟物(そしょうぶつ)」についてその有無、内容を判断した判決を本案判決(ほんあんはんけつ)と呼んでいます。
原告の請求を(理由があるとして)認容する判決、原告の請求に理由がないとして請求を棄却する判決、請求の一部を認める(残りを棄却する)判決は、いずれも本案判決です。
これに対して、訴えがその適法要件を満たさず、原告が主張している権利や法律関係の有無自体を判断するまでもなく、「不適法」であるとした判決は、本案判決ではありません。このような判決を、裁判業界の用語では「訴訟判決(そしょうはんけつ)」などと呼んでいます(ちょっと、一般の感覚ではなじめない用語法ですね)。通常の民事訴訟では、例えば、被告が存在しない、被告が特定されていない、請求の趣旨(求めている内容を判決主文の形で表現したもの)が特定されていない、訴え提起が訴訟法上許されていない、民事訴訟によっては請求できない(行政訴訟等によらねばならない)、訴え提起手数料を納付していない、補正命令が出されたが補正しないなどの場合がこれに当たります。
第1審の場合は、訴えが不適法と判断されると、訴えを却下する裁判(判決、決定、命令)がなされます(第1審が訴え却下決定、訴状却下命令の場合、不服申立ては即時抗告等の抗告手続になります)。第2審では、控訴手続自体が不適法な場合(控訴状の記載が、被控訴人が特定されていない、控訴状が送達できない、控訴提起手数料を納付しない等)、第1審判決が本案判決でも訴訟判決でも、控訴が却下されることになります(この場合も、却下判決、却下決定、控訴状却下命令があり得ます)。判決で控訴を却下した場合、第2審判決は(第1審判決が本案判決であった場合でも)訴訟判決ということになります。第1審が訴訟判決で、それに対する控訴は適法だけれども、第2審でも訴えは不適法と判断された場合、主文としては控訴棄却ですが、原告の主張した権利や法律関係そのものについては判断しないので、訴訟判決ということになります。上告審でも同じです。
その結果、訴訟判決には、原告の訴えを却下した第1審判決、原告の訴えを却下した第1審判決に対する控訴を棄却した第2審判決、本案判決に対する控訴を却下した第2審判決、これらに対する上告を棄却した上告審判決、上告を却下した上告審判決(上告審は不適法な場合決定で却下できるので判決をすることは稀ですが)がありうることになります。
このように訴訟判決は、主文が「却下」とは限らないので、例えば民事訴訟費用法などでは「請求について判断をしなかつた判決」というような表現をしています。
訴訟判決(本案判決でない判決)の場合、訴えや控訴の手続が不適法と判断されただけで原告の主張した権利や法律関係の有無については判断されていませんので、原告は改めて訴えを提起することができます(ただし、第1審判決が本案判決で、控訴が却下されたという場合は、控訴期間が経過しているでしょうから改めて控訴するというわけにはいきません)。
関連する話題を「判決主文:棄却と却下」でも説明しています。
本案判決をすべきでないとされる場合については、「本案前の答弁」でも説明しています
判決については、モバイル新館の「弁論の終結と判決」でも説明しています。
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