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短くわかる民事裁判◆
本案前の答弁
 原告の請求について審理判断する前提として法的に必要な要件がいくつかあり、それを裁判業界では「訴訟要件(そしょうようけん)」と呼び、これが欠けている場合は、訴えが不適法なものとして、原告が主張する事実の有無にかかわらず、その内容について審理判断した判決(裁判業界では「本案判決(ほんあんはんけつ)」と呼びます)をすることなく、訴えを却下(きゃっか)する(裁判業界では「訴訟判決(そしょうはんけつ)」とか「形式判決(けいしきはんけつ)」などと呼んでいます)などで終わらせてしまいます。報道では「門前払い(もんぜんばらい)」判決などと呼ばれます。
 この訴訟要件は、特に行政訴訟では、原告適格(誰が裁判を起こせるか)、処分性(行政のその行為が「処分」と言えるか、一連の手続の中で行政のどの行為が裁判の対象となるか)、出訴期間(行政処分の告知を受けてから一定期間しか裁判を起こせない)、訴えの利益(さまざまに問題になりますが、行政処分が期限があって更新されると裁判を続けられないなどがよく問題になります)など、行政側から多数の法的な主張がなされます。

 民事裁判では、訴訟要件が現実に問題とされることは多くありませんが、学問上、議論上は、さまざまな訴訟要件があります。例えば日本の裁判所が裁判権・管轄権を持つ問題か(被告が外国政府とか外交官とか国際機関などの場合、現実に問題となります)、法律上の争訟(そうしょう)と言えるか(宗教団体の宗教上の地位:例えば教祖の承継とか、ご神体が真正かとかは、法的に解決できる問題ではないとされます)、裁判管轄当事者能力(未成年者とか被後見人、任意団体の当事者資格など)、未成年や被後見人の場合に代理権を有する代理人が代理しているか、二重起訴再訴禁止(蒸し返し)に当たらないか、裁判をしないという合意(不起訴合意)がなされていないかなどが指摘されています。

 こういった問題がある場合は、被告は、答弁書で、請求の原因に対する認否反論をする以前に「本案前の答弁」としてその問題を指摘し、原告が訴状で主張する事実の審理に入るまでもなく訴訟を終わらせるべきことを主張することになります。
 その場合、被告は、通常は、答弁書
第1 本案前の答弁
 本件訴えを却下する
との判決を求める。
というように記載するのがふつうです(ただし、管轄違いの主張の場合は、却下ではなく移送を求めることになります)。

 当事者能力の問題については、「当事者能力」「法人でない社団の当事者能力」で説明しています。
 二重起訴・再訴禁止の問題については、「二重起訴・再訴禁止」で説明しています。
 不起訴合意の問題については、「不起訴合意」で説明しています。
 管轄違いの主張については、「管轄違いの主張」などで説明しています。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
  

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