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短くわかる民事裁判◆
有罪判決に代わるもの:公訴時効待ちは許されない
 民事訴訟法第338条第2項が4号〜7号の再審事由については、「罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。」と定めていて、後者の「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないとき」には、公訴時効が成立した場合が含まれるとされています(最高裁1968年3月15日第二小法廷判決等)。
 そうすると、私の経験上、それを聞いた相談者が、それなら公訴時効成立まで待って再審請求をすればいいのですねと言い出すことが少なくありません。

 この問題については、最高裁1999年11月30日第三小法廷判決が、「右の有罪の確定判決等を得ることができないときとは、右事由の存在を知った時点では既に公訴時効期間が経過していた場合又は告訴等の手続を執ったとしても捜査機関が公訴の提起をするに足りる期間がない場合等をいい、公訴時効が完成するまでに相当の期間があり、かつ、やむを得ない事由がないのに、告訴等の手続を執らないまま公訴時効期間を経過させた場合は含まれないと解するのが相当である。」と判示していて、4号〜7号再審事由を知った時点で公訴時効が成立しておらず公訴時効完成までに相当な期間があるのにやむを得ない事由がないのに告訴等の手続を取らずにいた場合は公訴時効が成立しても民事訴訟法第338条第2項の要件(有罪判決要件)を満たさないとされています。
※この判決自体は、株券の除権判決(効力を失わせる手続)に対する不服の訴えについてのものです(したがって手続としては「再審の訴え」ではありません)が、当時の「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」が民事訴訟法の再審の規定を準用していたので、民事訴訟法第338条第1項第5号と同条第2項の解釈を示しています(なお、現在は非訟事件手続法に除権決定とそれに対する再審の規定があり、やはり民事訴訟法の再審の規定を準用しています)。

 もっとも、公訴時効の成立により「証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないとき」の要件(民事訴訟法第338条第2項)を満たすためには公訴時効等がなければ「有罪の判決を得たであろうと思わせるに足りる証拠」を入手し、提出できることが必要です(それについては「有罪判決に代わるものと控訴・上告対応」等で説明しています)。
 そして最高裁1994年10月25日第三小法廷判決は、「これらの証拠は、右文書偽造について有罪の確定判決を得ることを可能にするものであるが、それが得られた時点で既に行為の時から7年が経過し、公訴時効の期間が満了していたというのである。そうすると、本件再審の訴えは、民訴法420条2項の前記の要件を具備しており」と判示しています(判決が引用している民事訴訟法の条項は当時のものであり、現行法とは条項が異なります)。
 そういうことからすると、公訴時効成立の相当前から偽造や偽証の事実は知っていた(その疑いを持っていた)が、有罪の判決を得られるような証拠がないために告訴等の手続を取らずにいて公訴時効が成立し、その後に公訴時効でなければ有罪の判決を得たであろうと思わせる証拠を入手したという場合は、民事訴訟法第338条第2項の要件(有罪判決要件)を満たすということになると考えられます。

 私に再審の相談をしたい方は、「再審メール相談」のページをお読みください。

 再審については「再審請求の話(民事裁判)」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる「再審請求」でも説明しています。

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