◆短くわかる民事裁判◆
債権回収業者からの請求
貸金業者や保証会社からの支払の督促を長らく放置していると、貸金業者や保証会社が貸金や求償金を別会社に売り渡し、これを買い受けた債権回収業者(サービサーとも言われます。法務大臣の許可が必要です)が、借主に請求や訴訟提起をしてくることがあります。銀行のカードローンやクレジットカードのキャッシング・ショッピングが長らく支払えないと、そういうケースが割と出てきます。
債権回収業者は、貸金業者から債権譲渡を受ける(買い取る)場合も、回収の代行(取立)を請け負っている場合もあります。この場合は、保証会社とは違い、どちらの場合でも消滅時効はもともとの貸金等(ショッピングは貸金ではなく「立替金(たてかえきん)」)の最終の返済や借入から5年のままで、債権回収業者が買い取ったからといって消滅時効の成立にはまったく影響しません。
さて、消滅時効の成立時点には影響しないとして、借主がまったくあずかり知らぬところで、債権がまったく知らない業者に譲渡され、まったく知らない業者から支払請求を受けるというのは納得できないところがあるかと思います。
民法上は、債権者は、契約上債権譲渡を禁止する条項がなければ、債権を第三者に譲渡することができますが、譲受人(ゆずりうけにん:債権回収業者)が借主に対して譲渡を主張できる(法律用語上は「対抗(たいこう)できる」ためには、譲渡人(じょうとにん)からの債権譲渡通知が借主に送付されることが必要です(民法第467条)。実務上、この通知は譲渡人(銀行、クレジットカード会社)と譲受人(債権回収業者)の連名の文書を、譲受人の債権回収業者が送りつけるということが多いのです(譲渡人の銀行やカード会社が面倒がって自分で送らない)。そうすると、借主は、まったく知らない業者からの郵便(封筒には債権回収業者の名前しかない)が来ても怪しんで開封もせずに捨てるということが生じます。今どきさまざまな債権回収を名乗る怪しい業者の詐欺郵便があふれかえっていますから、そういうこともやむを得ないご時世だと思います。
銀行等は、借入時の契約書といいますか、約款で、銀行等が発する通知は「発信」すればそれで効力がある(つまり借主に届かなくても有効)という条項を設けていたりします。銀行等の大企業が作る約款や契約書というのは実に大企業側の都合よいように作られているものです。しかし、この点については、少なくとも債権譲渡通知については債務者(借主)に届かなければ意味がないとして、この種の条項を無効と判断した裁判例(東京高裁2015年3月24日判決:判例時報2298号47ページ)があります。もっとも、裁判所は、通知が届くというのは、受取人の領域に入ったこと(郵便受けに入ったこと)で足りると解するのがふつうなので、来たけど読まずに(開封せずに)捨てたということだと、債権譲渡通知は有効とされかねません。
実際、本人はそんな郵便が来たという記憶がないということだったので、債権譲渡通知が来たという立証がない、だから債権回収業者は債権譲り受けを債務者に対抗できず、この裁判を起こす資格がないと主張し、ただ保証人の方が闘えない事案だったこともあり、かなり低い金額の支払いで和解したことがあります。和解水準については口外禁止条項があるので書けません (*^-^*)。債権回収業者は、銀行等から不良債権を二束三文で譲り受けている(その買い取り価格は企業秘密だそうです)ので、都合の悪い事情があったり、強制執行の当てがない事案では、低額和解にはそれほどの抵抗がないものと思います。
借金の消滅時効については「消滅時効の話」で詳しく説明しています。
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