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 消滅時効の話

ここがポイント
 貸金業者からの借金は、最後の取引(借入・返済)から5年たつと原則として時効消滅
 その間に裁判を起こされたりすると時効が成立しない
 借り主が、一部でも支払ったり、支払うから待ってくれというと時効が成立しない
 時効成立後でも支払ったり、支払うから待ってくれというと時効の主張ができなくなる
 5年以上お金のやりとりのない貸金業者から請求が来たときは、自分で対応せずに、まず弁護士に相談した方がいい
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 貸金業者からお金を借りていても、長い間新たな借入や返済がない状態が続いて、その間に貸金業者から裁判を起こされたりしていなければ、貸金の返還請求権が時効(じこう)となって消滅し、支払義務がなくなります。
 しかし、時効が成立した後でも、貸金業者に支払をしたり債務があることを認める文書を書いてしまったり(そういう文書に署名してしまったり)すると支払義務が復活してしまいますので注意しましょう。

  時効の期間

 貸金業者からの借金の時効期間は原則として5年です。ただし、貸金業者との間で裁判になり、判決を受けたり、裁判手続の中で和解をしたときは、時効の期間は10年になってしまいます。
 正確に言えば、貸金業者のうち、会社になっているものだけが時効期間が5年です。しかし、会社ではない個人の貸金業者は、現実的にはほとんどヤミ金融(出資法違反の高金利:以前は年29.2%を超える金利、現在は年20%を超える金利で貸している業者)ですので、そもそも支払義務がありません(そのことについては「ヤミ金融には返す必要はない」を見てください)。ですから、時効を考える必要がある貸金業者について言えば時効期間は5年と考えておいていいのです。

※2020年4月1日から民法の規定が変わり(2017年に行われた民法改正が、2020年4月1日に施行されました)、時効に関しては、さまざまな改正がありました。大きくは、債権者(貸金業者)が会社かどうかに関係なく、@債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年、A権利を行使することができるときから10年のどちらかが経過したときに時効が成立することになりました。
 しかし、貸金業者からの借金の時効については、概ね上の説明で変わりないと考えておいていいと思います。
 まず第1に、2020年3月31日までに生じた債権、つまり借金で言えば、2020年3月31日までに借りたものについては、改正前の法律が適用されますから、まさしく上の説明通りです。第2に、2020年4月1日以降に借りたものについては新しい規定が適用されることになりますが、貸金業者が自分でお金を貸しておいて「権利を行使することができることを」知らないということは基本的にはあり得ませんから、現実的には貸したときから5年で、それが追加貸付や返済で時効が更新されていき、最終取引(最後の借入か最後の返済)から5年ということになります。
 上の説明では、会社でない貸金業者について信用金庫等(住宅金融支援機構:旧住宅金融公庫、日本学生支援機構:旧日本育英会等)を挙げていませんでした。これらからの借金の時効は民法改正前は10年でした(2020年3月31日までの借入については、これまでと同じように10年です)が、2020年4月1日以降の借入については、5年になる(時効期間が短くなる)ことになります。

  時効はいつから進行するか

 さて、いつから5年たてば時効が成立するか(これを「時効の起算点(きさんてん)」といいます)です。消費者金融の多くは、一定の枠の範囲内で追加の借入が自由にできる上に返済額も一定額以上であればいいということで決まっていません。こういう場合の消滅時効がいつからどの範囲で進行するのかは、厳密に考えると、けっこう難しい問題があります。
 しかし、現実的には、最後の借入か返済から5年と考えておけばよいでしょう。

※「時効の期間」の項目で説明したとおり、2020年4月1日以降に借りたものについては、時効が@債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年、A権利を行使することができるときから10年のどちらかが経過したときに成立することになり、「債権者が権利を行使することができることを知ったとき」が5年の時効の起算点となりますが、弁済期(返済をすべき日)が不確定な事情の生じたときとされていてそれを債権者が容易に知り得ないというようなかなり特殊な条件で貸付がなされた場合でなければ、貸金業者が権利を行使することができることを知らないことはありえませんので、貸金業者からの借金に関しては、時効の起算点については考え方は変わらないとみていいと思います。

  時効の中断

 時効の進行は、裁判上の請求(さいばんじょうのせいきゅう)、差押え(さしおさえ)、債務の承認(さいむのしょうにん)があると中断します。時効の中断があると、時効の進行はゼロに戻り、また5年間の時効期間がたたないと時効が成立しません。「中断」というと一時停止のようなニュアンスもありますが、そうではなくて時効の進行はご破算になってしまうのです。
 裁判上の請求というのは、普通の民事裁判の他に、簡易裁判所の「支払督促(しはらいとくそく)」手続や即決和解(そっけつわかい)手続(当事者の間でこの内容で話し合いができたということを裁判官に確認してもらって和解調書を作る手続。貸金業者が使うことはまれです)や調停も含みます。しかし、即決和解手続や調停は借り主が呼出に応じないか、応じても話し合いが成立しないときはそれから1か月以内に普通の民事裁判を起こさなければ時効中断しませんから、少なくとも知らない間に時効が中断しているということはありません。
 裁判上の請求で一番の問題は本人が知らないうちにとか、よくわからないうちに判決などが出て時効が中断してしまうことがあることです。裁判所から訴状が送られてきてこれを放っておくと欠席判決になります。簡易裁判所の「支払督促」を放っておいた場合も(厳密には貸金業者がもう一度「仮執行宣言付き支払督促(かりしっこうせんげんつきしはらいとくそく)」を申し立ててそれが送られてきても放っておいたときですけど)同じです。本人が訴状や「支払督促」を受け取っていなくても家族が受け取ってしまうと裁判所は本人が受け取ったものと扱います。そうなると本人が知らないうちに判決などが出てしまうわけです(詳しくは「裁判所の呼出を無視すると」を見てください)。そして、裁判を起こされて本人が行方不明の場合は、訴状が届かないということで裁判所が原告(この場合貸金業者)に連絡して原告が被告(この場合借り主)が住民票所在地に住んでいないことの報告書などを作成して公示送達(こうじそうたつ)の申立をすると、公示送達による判決が出てしまい、やはり本人が知らないうちに判決が出てしまうわけです(これについても詳しくは「裁判所の呼出を無視すると」を見てください)。
 裁判上の請求によって中断された場合は、判決か和解で終了するのが通常ですので、その後は時効期間が10年になってしまいます。貸金業者が訴訟を起こしても訴訟が手続上の問題があって却下されたり、訴えが取り下げられた場合は時効中断の効果がありません。
 差押えには、判決や和解、担保権や公正証書による差押えと、そういうものがなくてもできる仮差押えがあります(詳しくは「仮差押えと強制執行」を見てください)。
 債務の承認は、借り主が債務があることを認めたり、それを前提とした行動を取ることです。現実的には貸金業者に支払をすることです。そうでなくても貸金業者から債務があることを認めるという書類に署名するように求められてこれに応じたり、自分から払うけど待ってくれというような手紙を書いたりしても、債務を承認したことになります。
 要するに、ここで書いた時効の中断に当たるできごとがない状態で5年を過ぎれば、時効が成立するということになります。
 ただ、最後に一つ、時効を伸ばす手段があります。裁判を起こさなくても支払の請求をしてその請求の日から6か月以内に裁判上の請求か差押えをすれば、その請求をしたときに時効が中断します。貸金業者から最後の支払から5年がたつ直前に請求書(督促状)が来るのはそういうことなんです。ですから、請求書(督促状)が来ている場合は5年6か月(正確には、5年か、5年たつ前の最後の請求書が来たときから6か月の遅い方)たつまで待つ必要があります。

※2020年4月1日施行の改正民法では、時効の中断については「完成猶予」と「更新」という概念で整理されましたが、その内容は、上で説明しているのとほぼ同じです。

  時効成立後の支払など

 さて、さらにやっかいな問題は、時効が成立した後でも、借り主が先程説明した「債務の承認」に当たる態度を取ると、時効の主張ができなくなると考えられていることです。時効の成立を知っていてそうすれば時効の利益を放棄したことになります。時効の成立を知らない場合でも、債務があることを自分で認めた以上はそれと矛盾する行動は許されないというわけです。
 そのために貸金業者は、時効が成立している場合でも、少しでいいから支払ってくれとか、この書類にサインしたら有利な内容で和解する(支払額を負けてやる)とかいってくるわけです。それに応じたら、時効の主張ができなくなり、約束した額を支払う義務を負ってしまいます。

  請求の実情

 住民票を移さないままでどこかに逃げていた人が、再就職とか生活保護を受けるとかのために実際の住所に住民票を移すと、ほどなく貸金業者から郵便で督促状が送られてきます。別に貸金業者が特殊な手段を持っているわけではありません。役所は貸金業者が借り主を捜すからという理由で住民票を請求したら応じますし、住民基本台帳は名簿業者が写しています。
 ずっと昔に物を買って支払をしなかったとか、お金を借りてそのままになっていたものについて、聞き覚えのない業者から、「債権を譲り受けた」といって請求してくることもあります。こういう業者は、時効にかかった債権を二束三文で譲り受けて(実際に譲り受けているかどうかもはっきりしないことがありますが)一律に請求し、払ってくれたら儲けという商売をしているわけです。
 もちろん、今時では「債権を譲り受けた」という請求は架空請求の方が多いですけど。

  業者の請求にどう対応するか

 業者からの請求書が来た場合、最もよくないのは、あわてて書かれている先に自分で電話をすることです。身を隠していて住民票を移したために請求書が来た場合、貸金業者は住民票で住所を知っただけで電話番号も勤務先も知らないはずです。電話をかけるとナンバーディスプレイで電話番号が表示されますから、電話番号を教えてやることになります。放っておけば手紙が来るだけなのに、電話をかけたためにその後は電話での督促が加わることになります。その電話で勤務先を教えるのは最悪です。貸金業者からの手紙には「強制執行をする」とよく書いてありますが、身を隠している人が資産を持っていることはまずないでしょうから現実に困るのは給料の差押えだけです。給料の差押えは勤務先がわからなければできません。勤務先を教えてやるのは給料の差押えをしてくれと言っているようなものです。勤務先から電話したりすると一辺に両方をしてしまうことになりますね。
 もちろん、業者から送られてきたり、業者の店舗に呼びつけられて差し出される書類に署名をすることは、絶対にやめておくべきです。その中身は債務があることを認めるもので、それに署名したら時効は主張できなくなるものに決まっていますから。そして、ほんの少しでいいから払ってくれという要求に応じると、その支払額だけでなく、債務全体を認めたことになりますから、長い間の遅延損害金を含めて膨大な額の支払義務を負うことになります(貸金業者のやり方がかなりあくどいときは、それでも時効を主張できるとしたケースもありますが、それに賭けるのはリスクが大き過ぎます)。
 ただし、時効が成立しているかどうかの判断は、難しい場合があります。特に身を隠していた場合には、本人が知らない間に判決を受けたりして時効が中断している可能性もあります。
 身を隠していて住民票を移したら請求書が来たというような場合、自分で業者とやりとりしないでまず弁護士に相談した方がいいでしょう。
 債権を譲り受けたという業者については、無視するか、無視するのが不安だったら弁護士に相談してみてください。

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