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   ◆民事裁判の話(民事訴訟の話)庶民の弁護士 伊東良徳のサイト モバイル新館

 裁判所の呼出を無視すると

ここがポイント
 裁判所から「訴状」が送られてきた場合、答弁書を出さずに期日に欠席すると原告の言い分通りの内容で「欠席判決」をされる可能性が高い
 裁判所から「支払督促」が送られてきた場合、異議を出さないと「仮執行宣言付き支払督促」が出されそれで強制執行される可能性がある
 裁判所から書類が来たときは、放置しないで、まずは弁護士に相談した方がいい
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  裁判所からの呼出が来ましたが、行かなかったらどうなりますか

 民事裁判では、訴えを起こされた被告が争わなければ、それ以上言い分を聞いたり証拠調べをせずに、訴えを起こした原告の請求を認めます。
 被告が積極的に原告の請求を認めて承諾したときは、認諾(にんだく)といって、裁判所はそれ以上審理をしないで「認諾調書(にんだくちょうしょ)」を作成して裁判を終わります。認諾調書には判決と同じ効力があり、被告がその内容に従わないと強制執行をすることができます。
訴状を受け取ったが、答弁書も出さずに、第1回口頭弁論を欠席した場合
 被告が訴状を受け取っていながら、第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書も出さない場合は、訴状に対して反論がないからそうしていると考えられてしまいます。その場合、裁判所は、被告が原告の請求を争わないものと認めて原告の請求を認める判決を出すことができます。これを欠席判決(けっせきはんけつ)と呼んでいます。欠席判決の場合、裁判所は普通は原告の請求を全部認めます(原告の請求が法律上の理屈に合わないような場合は原告の請求と違う判決をすることもありますが)。
 欠席判決を避けるためには、自分か代理人(弁護士)が口頭弁論期日に出席するか、出席できない場合でも答弁書を出しておく必要があります。出席するつもりでいても当日突発的な事情(急病とか)で行けなくなることもありえますので、どちらにしても答弁書は事前に出しておいた方が安全です。急病のときは、裁判所に電話をして事情を説明すれば、欠席判決にはしないで次の期日を指定してはくれますが(すぐに診断書を送るべきでしょう)。

 なお、答弁書の作成に関して私が考えていることは、「答弁書の作成」で説明しています。

  第2回以降の期日の欠席

第1回口頭弁論期日は無事に済んだけれども、第2回以降の期日も欠席した場合
 地方裁判所の場合、被告側は第1回口頭弁論期日は、裁判所に行かなくても(欠席しても)答弁書を出しておけば、それを裁判所で陳述したという扱いになります(「擬制陳述(ぎせいちんじゅつ)」といいます。このあたりは「民事裁判の審理」でも説明しています)。第1回口頭弁論期日は、被告側の日程の都合を聞かないで指定しますから、(答弁書を出している限りは)出席しないこと自体には特に問題はありません。被告側に弁護士が付く場合は、第1回はその弁護士(被告代理人)も出席しないのがむしろふつうです。
 しかし、第2回以降の口頭弁論期日では擬制陳述の扱いができませんので、準備書面や証拠書類を裁判所に出しておいても、裁判上正式に提出されたことにはできません(判決の資料とすることができません)。原告の請求について「争う」趣旨の答弁書を出していれば(それが陳述か「擬制陳述」されれば)、第2回口頭弁論期日以降は欠席しても、それで原告の主張を認めたという扱いにはなりません(「欠席判決」にはなりません)が、被告側の積極的な主張が裁判に出ないということになりますので、原告側の立証をさせてその主張に近い判決になる可能性が高くなります。被告がその後の口頭弁論期日に出席すれば、それまでの欠席していた期日に提出された被告側の準備書面をまとめて陳述した扱いとし、出されていた証拠もまとめて提出された扱いになります。ただし、第2回口頭弁論期日以降被告が欠席していた場合に、次の口頭弁論期日が指定される保証はなく、弁論終結となるリスクも、もちろんあります。
※近年は、第2回以降の期日は法廷で行う口頭弁論期日ではなく、法廷外の部屋やWeb会議で行う弁論準備期日となるのがふつうですが、弁論準備期日の場合でも理屈は同じです。

 簡易裁判所の場合は、第2回以降の期日も、擬制陳述の扱いをすることができます。ですから、簡易裁判所の場合は、被告は欠席し続けても、準備書面等を出しておけば、ふつうに裁判を継続することができます。このあたりは「簡易裁判所での民事裁判の審理」で説明しています。
 ただし、期日に行かないと、期日にどういうやりとりがなされたか、裁判官がどういう姿勢かがわかりませんので、原告側の主張が明らかにおかしくて負けようがないとよほど自信が持てるのでなければ(素人の場合、その判断自体正しいかどうかわからないですが)、私は原則として期日には出席した方がいいと思います。

  訴状の受け取りを拒否したらどうなりますか

 訴状や判決は、被告の家の郵便受けに入れるのではなく、郵便配達人が直接手渡すことになっています。これを「特別送達(とくべつそうたつ)」と呼んでいます。ただし、家族や従業員がいればその人に渡してもよいことになっています。
 郵便配達人が来ても無視して受け取らなかったらどうなるでしょう。近年は郵便配達人が来た時に不在だと、不在連絡票が郵便受け等に入れられます。不在連絡票は、裁判所用の特別のものではありませんが、差出人が裁判所となっていて、種類が「特別送達」とされていることで、裁判所から送られてきた訴状や判決であることがわかります。不在連絡票の書式は郵便局によって異なる場合があり、郵便物の種類の欄は、チェックマークで示されていることも、番号で表示されていることもあります。郵便配達人が来たとき(昼間)は不在でも、不在連絡票に書かれている指示に従って電話して再配達してもらうなり郵便局に取りに行くなりすれば、訴状や判決を受け取ることができます。しかし、その不在連絡票も無視して放置して、保管期限(通常は、不在連絡票を入れた日から1週間)が過ぎて、裁判所に訴状等が戻った場合には、その後どのようなことが起こるでしょうか。
 訴状の場合、ふつうは、裁判所から原告(代理人が付いていれば原告代理人の弁護士)に連絡が来て、被告に訴状の送達ができなかったがどうするか聞かれます。通常はまず夜間・休日配達か勤務先への配達になります。いても受け取らないと判断すると、「郵便に付する送達(ゆうびんにふするそうたつ)」といって書留郵便等で発送することで届いたと扱う(裁判所が発送した時に送達されたもの=届いたものとして扱う。郵便に付する送達にしたことは別に普通郵便で通知する)という手段を使うことになります。郵便に付する送達をするためには、原告側が、被告が訴状に書かれている住所に住んでいるという報告書を裁判所に提出します。どの程度の調査と根拠で、裁判所がそれを認めてくれるかは、担当裁判官・書記官によってばらつきがあるように感じます。
 郵便に付する送達にされた場合も、郵便配達人が来ても出ない(応対しない:留守の場合も同じ)と、不在連絡票と、普通郵便の通知(郵便に付する送達にしたという通知:書留郵便で送った書類を受け取らない場合でも送達されたものとして手続が進行し不利益を受けることがあるので必ず受け取ってくださいなどの記載がなされます)が郵便受けに残されます。不在連絡票を見て連絡して再配達してもらうか郵便局に取りに行かないと、訴状の内容は見ることができませんが、裁判手続上は(裁判所を発した時点で)すでに訴状は送達されたという扱いになります。
 訴状が郵便に付する送達にされて、保管期限が過ぎた後でも、付郵便の通知書に書かれている担当書記官(裁判所の係、書記官名、電話番号は通知書に書かれています)に連絡して訴状を受け取りたいといえば、受け取ることはできます。その場合は、裁判所に取りに行くのが安全です。もう1回送達してくれと言えばやってくれるかも知れませんが、すでに法的には送達済ですから、裁判所には再度送達する義務もないですし、やってくれる保証はありません。第1回口頭弁論期日前に訴状を受け取ることができれば、遅くとも判決前に訴状を受け取って裁判所に連絡すれば、被告の主張を聞かないで判決に行くルートから、通常の裁判のルートに戻すことができます。
 訴状が家や事業所に送られているのに受け取らない(不在連絡票が入っていても放置する)と、最終的には「郵便に付する送達」にされて、被告が参加しないままに裁判が行われることになります。そうなると、通常は欠席判決になりますし、欠席判決にしなかった場合でも、被告の反論・反証もないわけですから、原告側の主張に沿った判決になります。
 ネット上は、訴状を受け取らなければ裁判が進まないなどと言って受取拒否を勧めている記載も見られますが、弁護士の目には、信じがたい愚かな(「最悪の」と言ってもよい)選択に思えます。

  訴状が知らない間に届く(届いたと扱われる)ことはないのですか

 被告が、裁判所から訴状が送られていることを知りながら受取を拒否した(不在連絡票を見て放置した)場合は、それで自分に不利な(原告側の主張に沿った)判決がなされても、自業自得と言えます。しかし、被告が知らないうちに、裁判所が被告に訴状が送達されていると扱って、被告に不利な判決がなされてしまったら、被告にとってはあまりにも理不尽です。ところが、裁判制度も人がやることですから、そういうことがないわけではありません。ここでは、どういうときにそういうことが起こるか、その場合、被告が救済される途はないのかについて説明します。
家族や従業員が受け取って黙っているとき
 先ほども説明しましたように、訴状や判決は、被告の家の郵便受けに入れるのではなく、郵便配達人が直接手渡すことになっていますが、家族や従業員がいればその人に渡してもよいことになっています。ですから受け取った家族が忘れていたり隠していたりすると、知らないうちに欠席判決ということもあり得ます。

 こういう場合、被告が救済される余地はないでしょうか。受け取ったのが子ども(小学生)の場合、送達自体が無効とされ、判決も無効とされたことがあります。また受け取った家族が債務者(商品を購入してその代金を払うべき義務があるのに払わず裁判を起こされた)で、同居の家族を勝手に保証人にしていて、その保証人宛の訴状を受け取りながら隠していたというケースで再審が認められたことがあります。
 そういう特殊なケースでは、被告が救済されたことがありますが、そうでない場合は、家族や従業員が訴状を受け取って黙っていて(隠していたか忘れていたかを問わず)被告本人が知らなかった場合でも、原則として救済されません。家族や従業員とは仲良くしておく必要がありますね。
訴状記載の住所に被告が住んでいなくて、所在不明のとき
 訴状に書かれた被告住所地に被告が住んでいないときは、原告側で、被告の住民票上の住所の現地の様子や近所の人の話などから被告がそこには住んでいないと判断できることを調査して、裁判所に「公示送達(こうじそうたつ)」の申立をします。公示送達が認められると、そのことを裁判所の掲示板に掲示して2週間たつと訴状が届いたと扱います。この場合、当然、被告の知らないうちに裁判が行われることになります。

 この場合でも、被告の所在(住所とか居所)が「知れない」ということが公示送達の要件なので、その「知れない」という判断に誤りがあった場合には、理屈としては公示送達が無効だということになります。実際には、原告側の報告書の記載から居住していないとは言い切れない事情が読み取れるのに書記官がその点について原告側にさらに確認すべきことを促さずに公示送達をしたとか、報告書にはそのような記載がないが訴状とともに提出された書証に電話番号等の記載があるのに報告書でそれにまったく触れていないことについて書記官が調査を促すべきなのにそれをせずに公示送達をしたとか、原告側が被告の所在(連絡先)を知っていたのに知らないふりをして公示送達の申立をしたとか、調べれば簡単に分かったはずなのに調べなかったというような場合に、公示送達が無効とされる可能性があります。しかし、実際に公示送達が無効だとされることは稀です。
 公示送達が無効とされた事例として、名古屋高裁2015年7月30日判決(判例時報2276号38ページ)の例があります。この事案では、被告が住民票を移さないまま転居したが電話番号には変更がなく、また郵便物転送届けを出していたので郵便物は転送されていた(しかし、訴状はその転送期限切れ直後に発送されたため転送されずに裁判所に戻された)し、転居前から経営している店舗は移動しておらず、提訴の前後に原告と店舗のファックスでやりとりをしており、原告が提訴直後に郵送した暑中見舞いも無事に配達されて原告の元には戻っていなかったという事情で、原告は被告とファックスでやりとりできていた上郵便物が戻ってきていないことから転送されて届いているということが容易に推測できていたにもかかわらず、公示送達を申し立てる以前に取るべき種々の調査手段があったのにそれを一切しないで申し立てたものであり、裁判所の書記官も電話番号やファックス番号が記載された書証が出ているのに公示送達申立てに関する報告書でそれらについて言及されていないのであるからその点を原告に調査させるか自ら調査すべきであったがそれもなされていないので「本件における公示送達は、その要件を満たさない申立てに基づき、しかも要件の有無を十分調査せずにされたもの」であるから無効とされました。公示送達が無効とされた結果、原判決が適式に送達されていないから判決言渡から3か月あまりしてなされた控訴について今なお控訴期間内であるとして控訴を認め、原判決は訴状が適式に送達されないまま審理判断された点で訴訟手続に法令違反があるとして原判決を破棄して差し戻しました。
 原告側が被告の所在(連絡先)を知っていたのに知らないふりをして公示送達の申立をしたとか、調べれば簡単に分かったはずなのに調べなかった場合には、それが再審理由になるという可能性もあります。しかし、抽象的・理論的にはその可能性を指摘する判決はありますが、実際にその理由で再審請求を認めた判決は見当たりません(その点については「再審請求の話」で説明しています)。

 公示送達がなされた場合に、後からそれを覆す(違法無効だったと認めさせる)ことは、現実には非常に困難です。
 公示送達で知らない間に判決を受けるというリスクを避けるためには、転居するときは住民票もきちんと移しましょう。
訴状記載の住所に被告が住んでいないのに郵便に付する送達がなされたとき
 訴状に書かれた被告住所地に、実際には被告が住んでいない(転居しているなど)にもかかわらず、原告側が被告は訴状記載の被告住所地に住んでいるという報告書・上申書を提出して、裁判所が(書記官が)それに基づいて(それを信じて)、訴状等を「郵便に付する送達」をした場合、どうなるでしょうか。被告は訴状等を受け取っていませんので、当然、第1回口頭弁論期日に答弁書を出さずに欠席し、欠席判決がなされ、その判決も通常は「郵便に付する送達」となります。
 判決が郵便に付する送達をされてから2週間以上たって、被告がそのことに気づいた(転居前の住所を訪れて裁判所からの「郵便に付する送達」の通知を見つけたとか、原告側がその後に被告の現実の住所を探索して連絡してきたとか)という場合、どうすればいいでしょうか。
 このようなケースについては、違法な公示送達について説明したのと同様に@訴状や判決の送達自体が無効として、判決送達から2週間以上を過ぎてもまだ判決は確定していないと扱って、被告が気づいた時点でまだ控訴ができるとする、A判決が被告が訴訟に関与する機会が与えられないままになされたことを理由に再審請求を認めるという2つの救済手段があります。
 @の控訴を認めた事例としては、仙台高裁秋田支部2017年2月1日判決(判例時報2336号80ページ)の例があります。報告書を信じた書記官に落ち度がなくても、送達はあくまでも送達発送時点での送達を受ける者の住居所に対して行わなければならず、住居所は送達を受ける者が現にそこに居住または現在しているなどの実体を伴うものであることを要するから、現実の住居所以外に宛ててなされた訴状等の郵便に付する送達は効力がなく、原審の口頭弁論手続、原判決のすべてに訴訟手続の法令違反(控訴理由)があるから、原判決は破棄されるべき(判決が有効に送達されていないから、控訴期間も進行しておらず、あとからなされた控訴も有効)というのです。この判決によれば、このようなケースでは、あとから気が付いた時点で「控訴」をすれば、原判決(1審判決)は確定もしていないし訴状が有効に送達されていないことからその内容にかかわらず訴訟手続の法令違反があるので破棄されることになり、訴状等が送られたことを知らないうちに「郵便に付する送達」をされて敗訴した被告は救済されることになります。
 Aの再審開始を認めた例としては、大阪地裁2012年5月7日決定(再審開始決定)があります(大阪高裁2012年6月25日決定により再審開始決定に対する即時抗告が棄却され、最高裁2012年11月8日第1小法廷決定で許可抗告も棄却され、開始決定が維持されました。判例集には掲載されておらず、判例時報2206号9〜10ページの記事で紹介されています)

  裁判所から支払督促という書類が来たときはどうですか

 支払督促(しはらいとくそく)というのは、正式の裁判ではなく、裁判所が申し立てた人の言い分だけでまずお金を払うように命じるものです。この支払督促が届いたら、2週間以内に異議(いぎ)を出さないと、仮執行宣言付支払督促(かりしっこうせんげんつきしはらいとくそく)が出されます。仮執行宣言がつくと、それにより直ちに強制執行をすることができます。これも、こういうものが届いているのに異議が出ないということは、内容に反論がないからだと考えられるからです。
 異議には理由はいりません。つまり相手の主張が完全に正しくても異議は出せます。
 異議が出ると、自動的に通常の裁判になります。

  「裁判所」と書いた文書が来たらすぐ弁護士に見せましょう

 最近、ありもしない借金を返せとか料金を支払えという手紙を無差別に出してくる詐欺がはやっていて、その種の手紙は無視しなさいというアドバイスがよくなされています。それはその通りなのですが、裁判所からの郵便は、本物だった場合、無視すると相手の言い分通りの命令や判決が出るおそれがあります。そして、詐欺師の中には、裁判所を名乗るケースもあります。素人には本物かどうかわからないこともあります。ですから、少なくとも裁判所と書かれた手紙を受け取ったときは、すぐ弁護士に見せることをお薦めします。

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