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短くわかる民事裁判◆
損害賠償請求の請求の趣旨
 交通事故に遭い、負傷した被害者が、治療費や勤務先を休業してその間賃金が支払われなかったことによる損害(休業損害:勤務先がその間も賃金全額を払ってくれた場合は損害なし)、慰謝料を加害者に請求する場合の例を考えます。交通事故以外でも、誰かに殴られて怪我をさせられたとか、ハラスメントを受けて適応障害(てきおうしょうがい)などの診断を受けたとかの場合も、基本的に同じです。
 2024年10月1日に交通事故に遭い、入院治療した被害者が、治療費300万円、休業損害250万円、慰謝料300万円と弁護士費用を請求する場合の請求の趣旨は、
1.被告は、原告に対し、金935万円及びこれに対する令和6年10月1日から支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2.訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
となります。
 交通事故のように、違法な行為によって損害が生じた場合、法的には「不法行為(ふほうこうい)」として、被害者は加害者に対して、その加害者の違法行為によって生じた損害の賠償を請求できます(民法第709条)。
 不法行為の場合は、弁護士費用も損害として加害者に請求できます(最高裁1969年2月27日第一小法廷判決)が、裁判所が認める弁護士費用は、現実に支払った額とは関係なく、弁護士費用以外に認められる損害額の10%とされるのがふつうです。そこで、通常は、他の損害の請求額の10%を請求し、この場合は、請求する治療費、休業損害、慰謝料の合計が850万円なので、その10%の85万円を請求しています。
 不法行為による損害については、発生日に直ちに遅滞(ちたい)に陥ると考えられています(最高裁1962年9月4日第三小法廷判決)ので、遅延損害金は(事故発生日の翌日からではなく)事故発生日から請求するのがふつうです。

 交通事故の場合、運転者と自動車の所有者が別人の場合、運転者が勤務先の業務として運転していた場合など、運転者だけではなく、自動車の所有者、勤務先の会社も被告にするのがふつうです。その場合の請求の趣旨は、
1.被告らは、原告に対し、連帯して金935万円及びこれに対する令和6年10月1日から支払い済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2.訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
となります。
 私が司法修習生の時(1980年代半ば)は、請求の趣旨や判決主文に「連帯して」という法的評価を示す文言は入れるべきでないと指導されました。その頃は「連帯して」ではなく「各自」と書けと言われていました。しかし、近年は、「連帯して」と書くことが裁判所からも求められているようです。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「訴えの提起(民事裁判の始まり」でも説明しています。
  

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