◆短くわかる民事裁判◆
控訴審・上告審と訴訟費用の負担
民事訴訟法は、「上級の裁判所が本案の裁判を変更する場合には、訴訟の総費用について、その負担の裁判をしなければならない。事件の差戻し又は移送を受けた裁判所がその事件を完結する裁判をする場合も、同様とする。」と定めています(民事訴訟法第67条第2項)。それに基づいて、控訴審・上告審で訴訟費用の負担の裁判がどのようになされるかを整理しておきます。
控訴審・控訴棄却の場合
この場合、1審の訴訟費用についての裁判は維持されているので、控訴審の訴訟費用についてのみ裁判をします。通常の文例は、
「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」
となります。
控訴審・原判決取消の場合
この場合、1審の訴訟費用についての裁判は維持されず、1審と2審の訴訟費用について裁判をします。基本的な文例は、
冒頭に「原判決を取り消す。」、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。」、「原判決中次の部分を取り消す。」、または「原判決を次のとおり変更する。」
訴訟費用については「訴訟費用は、1審、2審を通じて…」または「訴訟の総費用は…」
という組み合わせになるのがふつうです。
上告審・上告棄却の場合
この場合、2審までの訴訟費用についての裁判は維持されていますので、上告審の訴訟費用についてのみ裁判をします。最高裁の場合、通常の文例は、
「本件上告を棄却する。本件を上告審として受理しない。上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。」
となります。
高裁の場合は、上告受理申立てがないので、通常の文例は、
「本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。
となります。
上告審・破棄自判の場合
この場合、原判決を破棄して控訴を棄却するケースでは1審の訴訟費用の負担の裁判が維持されるので控訴と上告の訴訟費用について判断します。その場合の文例は、
「原判決を破棄する。被上告人の控訴を棄却する。控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。」、「原判決中上告人敗訴部分を破棄する。前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。」、「原判決中上告人敗訴部分を破棄する。前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。」
などになります。
原判決を破棄して1審判決が変更される場合は、訴訟の総費用について裁判をします。その場合の文例は、
「原判決を破棄し、1審判決を取り消す。訴訟の総費用は…」、「原判決を破棄し、1審判決中○○の部分を取り消す。訴訟の総費用は…」
などのようになります(原判決の破棄部分や「次のとおり変更する」。1審判決の取り消し部分などでさまざまなバリエーションがあります)。
上告審・破棄差し戻しの場合
この場合、上告審での訴訟費用については裁判をしません。上告審での訴訟費用については差し戻し審で併せて裁判をします(民事訴訟法第67条第2項はその趣旨です)。
基本的な文例は、「原判決を破棄する。本件を○○裁判所に差し戻す。」、「原判決中上告人敗訴部分を破棄する。前項の部分につき、本件を○○裁判所に差し戻す。」、「原判決中、次の部分を破棄する。前項の破棄部分につき、本件を○○裁判所に差し戻す。」、「原判決中、○○の請求に関する部分を破棄する。前項の部分を○○裁判所に差し戻す。」などです。
差し戻し審では、結論がどうであれ、差し戻し前の判決は取消・破棄されていますので、差し戻し前、上訴審(差し戻し)、差し戻し審の訴訟費用の負担については裁判をせざるを得ず、訴訟の総費用について負担を決定することになります。
訴訟費用とその取り立てについては「訴訟費用の取り立て(民事裁判)」でも説明しています。
モバイル新館の 「裁判所に納める費用(民事裁判)」でも説明しています。
**_****_**