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短くわかる民事裁判◆
請求の原因に対する認否

 請求の原因に対する認否は、訴状の請求の原因に記載された事実関係について、できるだけ細かく区分してこの部分は認める、この部分は否認する、この部分は知らない(不知)という形で行います。

 「知らない」という認否は、原則として被告自身が体験していない事実(被告がいない場、関与しない場で行われた行為等)について行うものです。被告自身の行為や被告がいた場で行われた(と主張されている)事実について「知らない」と認否すると、裁判官から不信感を持たれます。

 そして、否認する場合は、その理由(根拠、別の「真実」等)を記載する必要があります(民事訴訟規則第79条第3項)。このように理由を記載した否認を、裁判業界では「理由付き否認」とか「積極否認」と呼んでいます。
 経験上は、細かく区分しないで、「請求の原因第○項は否認しまたは争う」というレベルの大雑把な認否をする弁護士が少なくありませんし、単純否認(否認する理由を記載しない否認)は、現在では民事訴訟規則(第79条第3項)で明確に禁止されているのですが、それを守らない弁護士が少なくありません。
 裁判官は、民事訴訟法上相手方が認めた(「認める」と認否した)事実は立証を要せず主張通りに認定しなければならないことから、認否には気を遣っています。こういう雑な認否、民訴規則違反の単純否認には、いい心証は持たないと思います。

 他方で、異常に長々しく、請求に必要がない事情が書き連ねられた訴状に逐一認否していくと、請求の原因に対する認否だけで十数ページとかそれ以上になってしまうことがあります。それもまた裁判官に不要の苦痛を与えるものですので、重要性がないところは軽い応答にする工夫が必要になります。
 請求に関係しない悪口が書かれていることもままあります。私の経験上、代理人(弁護士)が書いたもので、被告の親族が障害者だとか請求に関係なく裁判官に偏見を生じさせようとする記載があり、驚いたこともあります。そういうものについては本件請求と関係ない事情であり認否の要を見ないと応答しました。
 被告が複数で、代理人が共通でない場合の他の被告に関する部分は、自分に対する請求に関係するところは認否する必要がありますが、他の被告に対する請求のために記載されている自分の請求に関係しないところは、他の被告に対する請求に関する事項であるので認否しないとか、認否の必要がないとすることになります。
 認否を要しないとして認否しない点は、裁判官に認否を避けている、何か答えたくない事情があるのかと思われては困りますので、そのリスクがないかを十分考えて、裁判官が認否して欲しい要素が少しでもあるときは、不要に思えても念のために認否しておく方が安全です。 

 請求の原因に対する認否で、認める部分は後日争うことが基本的にはできないこと、否認する部分はその理由の記載が、被告の積極的な主張と関連することが多いことから、認否は、被告側の主張全体、被告側のストーリー、被告側の訴訟戦略と密接に関係します。そういうことを考えれば、被告側のストーリーが確立する(主張の基礎となる事実を確認し、その裏付けとなる証拠を確認して、これで行けると判断する)前に請求の原因に対する認否をすることは、被告側にとって大きなリスクとなります。
 ですから、私は、「被告の主張」がまだ書けない段階で「請求の趣旨に対する答弁」と「請求の原因に対する認否」だけを記載した答弁書を作成することは、避けるべきだと考えています。

 訴えの提起については「民事裁判の始まり」でも説明しています。
 モバイル新館のもばいる 「第1回口頭弁論まで」でも説明しています。
  

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