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短くわかる民事裁判◆
土地管轄:どこの裁判所に訴えるか
 民事裁判をどこにある裁判所に提起すべきかは、土地管轄(とちかんかつ)の問題です。法律上の原則は、被告の「普通裁判籍(ふつうさいばんせき)」の所在地とされています(民事訴訟法第4条)。普通裁判籍というのは耳慣れない用語ですが、人(会社とか団体ではないという意味です)の普通裁判籍は原則として住所(民事訴訟法第4条第2項)、法人の普通裁判籍は主たる事務所または営業所(民事訴訟法第4条第4項)、会社の場合本店のことですから、要するに被告が個人なら被告の住所、被告が会社なら被告の本店の所在地の裁判所ということになります。

 被告の住所・本店所在地の裁判所が原則ならほとんどの民事裁判は被告の住所地の裁判所で行われることになりそうですが、実際には、原告の住所地の裁判所に提起されることが多いのです。
 それは、被告の住所地の裁判所以外に、次のような裁判所に土地管轄があり、原告がその中から選択できるからです。

 財産権上の訴えについては、原告が裁判上主張する請求について被告がその義務を履行すべき地(義務履行地:ぎむりこうち)の裁判所にも管轄があります(民事訴訟法第5条第1号)。民法は、特定物の引渡債務(債権発生時にその物が存在した場所)以外は、別段の意思表示がないときは、債権者の現在の住所で弁済(べんさい:債務の履行)をすべきと定めています(民法第484条)ので、この規定によって、ほとんどの請求については、債権者である原告の現在の住所に土地管轄があることになります(原告に法律上債権があるのか、言い換えれば被告に義務があるのかは、裁判の結果判断されることです。その裁判をする前提となる管轄は、真実がどうかではなく、原告の主張を基準にして決まります)。
※原告の住所地が義務履行地と解されないケースとしては、特定物引渡(建物明渡とか土地明渡、動産の引き渡し請求)以外に、賃金請求があります。→「土地管轄:解雇事件」

 事務所または営業所を持つ者に対する訴えでその事務所または営業所の業務に関するものについては、その事務所または営業所の所在地の裁判所にも管轄があります(民事訴訟法第5条第5号)。

 不法行為に関する訴えについては不法行為があった地の裁判所にも管轄があります(民事訴訟法第5条第9号)。不法行為地は、原因行為(加害行為)が行われた地と結果(損害)が発生した地のどちらも含まれます。

 不動産に関する訴えについては、その不動産の所在地の裁判所にも管轄があります(民事訴訟法第5条第12号)。

 相続権の確認、遺留分に関する訴え、遺贈や遺言に関する訴え等については被相続人の死亡時の住所(住所がないときは居所:入院先等)地の裁判所にも管轄があります(民事訴訟法第5条第14号、15号)。

 これらの民事訴訟法が定める複数の管轄裁判所のうちどこの裁判所に訴えを提起するかは原告が選択し、原告が訴えを提起した裁判所に管轄が認められるかは訴状に記載された原告の主張を基準に判断します(その主張に証拠の裏付けがあるか、それが真実かは問題になりません)。
 そういう事情で、特に「義務履行地」の管轄を用いることで、通常の民事裁判の多くは、原告の住所地の裁判所に提起されているのです。

 管轄についてはモバイル新館のもばいる 「どの裁判所に訴えるか」でも説明しています。
  

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