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短くわかる民事裁判◆
原裁判所での手続(特別抗告)
 「特別抗告の申立て」で説明したように、特別抗告は、最高裁判所宛の特別抗告状(こうこくじょう)を原裁判所(原決定が高裁なら高裁、地裁なら地裁、簡裁なら簡裁)の民事受付に提出して行います。
※特別抗告の場合、原裁判所は高裁とは限らず、地裁・簡裁の場合もあります。

 特別抗告状が提出されると、高裁の場合は民事受付で事件記録符号(ラク)の事件番号、地裁の場合は民事事件であれば事件記録符号(ソラ)、行政事件であれば(行カ)、家裁の場合は(家ニ)、簡裁の場合は(ハソ)の事件番号を振って、原決定・命令をした担当部に特別抗告状を回します(1999年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版308ページ、395ページ)。

 特別抗告状の審査の権限は、原裁判所にあります(民事訴訟法第336条第3項、第314条第2項)。
 特別抗告状の記載などの不備があったり、抗告手数料の納付がない場合は、原裁判所の裁判長が特別抗告人に対して相当の期間を定めた補正命令を出し、特別抗告人が補正しない場合は、特別抗告状の却下命令を出すことになります(民事訴訟法第336条第3項、第314条第2項、第288条、第137条第1項、第2項)
 原裁判所の裁判長が特別抗告状を却下したときは、その命令に対してまた即時抗告をすることができます(民事訴訟法第137条第3項)。原裁判所の裁判長の却下命令に対する即時抗告は、「抗告裁判所の決定」に対するものではないので、再抗告ではなく、通常の(最初の)即時抗告になります。
 特別抗告が不適法でその不備を補正することができないときには、原裁判所が決定で特別抗告を却下します(民事訴訟法第336条第3項、第316条第1項)。特別抗告ができない場合になされた特別抗告や特別抗告期間経過後の申立てなどの場合がこれに当たります。
 この場合も、その却下決定に対して即時抗告をすることができます(民事訴訟法第316条第2項)。この原裁判所の却下決定に対する即時抗告は、「抗告裁判所の決定」に対するものではないので、再抗告ではなく通常の(最初の)即時抗告になります。

 特別抗告を受けた原裁判所の担当部は、裁判長の特別抗告状却下命令や特別抗告却下決定をする場合を除き、特別抗告人に対して特別抗告提起通知書を送達します(民事訴訟規則第208条、第189条第1項)。原裁判所は、特別抗告の相手方に対しても特別抗告提起通知書を送達し、その際には特別抗告状副本も送達します(民事訴訟規則第208条、第189条第1項、第2項)。
 特別抗告理由書の提出期限は、特別抗告人に特別抗告提起通知書が送達された日から14日間となります(民事訴訟規則第210条第1項)。特別抗告人が期限内に特別抗告理由書を提出しなかったときは原裁判所が特別抗告を決定で却下することになります(民事訴訟法第336条第3項、第316条第1項第2号)。その期間を確定するため、特別抗告人に対する特別抗告提起通知書の送達は特別送達でなされます。

 特別抗告については、即時抗告・通常抗告・再抗告と同様に、抗告の対象である決定をした原裁判所あるいは抗告の対象である命令をした裁判長が、抗告に理由があると認める場合に、自ら原決定・命令を更生(こうせい:内容を改めること)しなければならないとする民事訴訟法第333条(裁判業界では「再度の考案(さいどのこうあん)」と呼んでいます)の準用があるかどうかについて学者間では意見の対立があるそうです(「新・コンメンタール民事訴訟法[第2版]:2013年、日本評論社」1120ページ)が、裁判所は準用はないという立場のようです(1999年度裁判所書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版401ページ:ないと言い切っています。根拠は示されていませんが)(「抗告・異議申立ての実務:2021年、新日本法規」170ページは、「原決定等は既に確定しているから、当別抗告を契機として、原裁判所が再度の考案(民訴333)により更正することもできないと解されている」としています:執筆者は大阪地裁部総括判事)。

 原裁判所が高等裁判所で、特別抗告と抗告許可申立てがともに申し立てられた場合には、原則として、両事件についての高等裁判所における手続が終了してから、両事件の記録を一括して同時に最高裁に送付するが、一方の事件の都合により、送付可能な状態にある他方の事件の送付が1か月以上遅れる見込みのときは個別に最高裁判所訟廷事務室民事事件係に相談して指示を受けるという扱いだそうです(1999年度書記官実務研究報告書「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」2019年補訂版401ページ)。

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