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【給料の減額を通告されたら】
 賃金は労働条件の中でもかなり重要なものです。これは労働契約によって定めるのが原則で、使用者と労働者の合意以外によって変更することは原則としてできません。
 使用者側からの一方的な通告で賃金の切り下げがいわれる場合には、個別の労働者に対する切り下げの通告、就業規則の変更による全体的な切り下げ、降格等の人事異動に伴う切り下げの通告等が考えられますが、裁判所は賃金の切り下げについては比較的高いハードルをもうける傾向にあります。
 しかし、他方において、労働者が同意して賃金を切り下げた労働契約書が作成されている場合にはその合意が無効だとすることは難しく、労働者が契約書等に署名していなくても長期間にわたり切り下げられた賃金を文句を言わずに受領していると「黙示の承諾」があったなどと認定されてしまうこともあります。

結局、賃金切り下げを通告されたらどうしたらいいの。
すぐ裁判を起こせればいいけど、少なくとも契約書に署名しない、文句を言い記録する、それで弁護士に相談ですね。

《賃金切り下げ通告の効果》
 裁判所は、使用者が経営難等を理由に労働者に対して一方的に賃金の切り下げを通告したという場合、それを理由に賃金切り下げを有効とすることはまずありません。
 就業規則の変更を行った場合、一般的には、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更にかかる事情に照らして合理的であれば、労働条件が変更後の就業規則のとおりに変更されるとされています(労働契約法10条)。しかし、裁判所は、これまでこの就業規則の不利益変更の事案で、賃金の切り下げについては「高度の合理性」を要求しています。使用者側の必要性が相当高く労働者側への代償措置(不利益緩和措置)などが相当程度ないと就業規則で賃金を切り下げることは認められないと考えられます。
 降格の事案でも、降格自体は人事上の裁量として認められた場合でも、それに伴って賃金を切り下げることは、降格と賃金減額が就業規則上明確に関連づけられていなければ賃金切り下げは認められないとされることがあります。例えば降格に伴って役職を外されたり低い役職に変えられた場合に役職手当がなくなったり減額されるのは正当化されても基本給を下げるのは無効とされるということはあります。
 成果主義賃金とか能力給などと呼ばれる賃金の一部または全体が毎年の査定によって定まる(上下する)という賃金体系では、査定により賃金の切り下げがなされることがままあります。このような場合、使用者側からは、もともと査定によって額が定まるもので、減額ではないなどと主張されたりもします。この場合は、その査定内容が査定基準に照らして合理的かという問題になり、個別の事情によりますが、労働者側が争うハードルは高くなりがちです。

《労働者の承諾・黙示の承諾》
 このように、使用者側から賃金切り下げを一方的に通告された場合は、成果主義賃金等での査定のケース以外では、労働者側が賃金切り下げを拒否して訴訟提起すれば勝訴の見込みはそれなりにあると考えられます。
 しかし、労働者がそれに同意するような書類(契約書等)に署名してしまうと、賃金切り下げの合意があったということになってしまいますし、契約書等を作成していなくても、職場では文句を言えないまま、切り下げられた賃金を長期間受け取っていると、その後になって裁判を起こしても裁判所は労働者が賃金切り下げに「黙示の承諾」をしたと認定してしまうことがあります。
 そのようなことがまかり通ると、理論上は使用者側の一方的な通告で賃金切り下げは認められないといっても、実質的には職場の力関係で勤務継続中は文句が言えない労働者にとっては使用者の一方的な通告で賃金切り下げもやり放題というのと変わらないことになってしまいます。
 現実の裁判では、労働者がしかたなく承諾をしてしまった場合でもその同意が労働者の自由な意思によるものかを問題としたり、明確な承諾がないような場合には、比較的長期間黙って賃金を受領していても特に黙示の承諾を論点として挙げなかったり、明確な論点とした場合でもその要件を厳しくしようという試みもあります。
 最高裁は、2016年2月19日の判決で、事例としては退職金を切り下げる規定への同意について、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」という判断を示しました。労働者が同意してしまっていても、それが「自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか」を検討する必要があり、それがなければ、労働者の同意はないものと考えるべきだというのです。この判決がどこまで影響を及ぼすかは注目されるところですが、賃金の切り下げに対する労働者の承諾については、この基準が適用されることになりますので、同意者や契約書を取られてもあきらめずに闘う武器となります。

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