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【解雇との闘い方】
 解雇された労働者が、使用者に対して闘い、請求するパターンとしては、大きく分けて、解雇が無効だと主張して復職(解雇後の賃金も)を請求する、解雇が無効だと主張して金銭(慰謝料等)を請求する、解雇の効力自体は争わず解雇予告手当や退職金の支払を請求するという3つに分けられます。
 復職を請求した場合でも、現実には裁判で勝っても使用者側が復職に抵抗することが多く、復職の強制執行はできないので、賃金の支払を受けられるということにとどまるということもありますし、そういう事情もあって裁判等の中で金銭の支払を受けて和解することが多いのが実情です。他方、復職の請求をしないで金銭請求をした場合、日本の裁判所では慰謝料の額が低く評価される傾向にありますので、かなり低い水準に終わる可能性が高いです。その結果、解雇された労働者がある程度の額の金銭解決を希望する場合、弁護士としては、復職請求をした上で金銭解決の和解をする方針を勧めることになります。
 労働者が次の職場で働いている場合でも、それは生活のためのアルバイトに過ぎず、裁判等で勝ったらそこはやめて元の職場に復帰するということなら復職請求をすることに問題はありません。
あんな会社には絶対戻りたくないんですが、形だけ戻りたいというわけですね。
まれに、なら戻ってこいということもあり、そのときは戻りたくないというと和解も惨敗です。

 解雇された労働者自身が、復職したいのか、金銭解決をしたいのか、その解決レベルはどれくらいなのか、早期解決を望むのかどうかにより、どのようなパターンで争うのか、どの手続を使うのかを判断してゆくことになります。

《復職したい場合》
 本当に復職したい場合は、地位確認請求の裁判を起こすことになります。

労働審判では復職請求はできないの?
理論上はできますが、労働審判だと裁判所も相手方も本音は金銭解決と踏んできます。

 地位確認請求というのは、従業員としての地位を確認することを求めるというものです。ふつうの感覚では解雇の無効を確認するという請求の方が素直に思えますが、裁判所は過去の事実の確認請求は認めないという強い独特の考えを持っていますので、こういうパターンになるのです。
 裁判は1審判決までに1年弱程度かかりますので、収入・資産がない場合は、裁判の前に賃金仮払い仮処分を申し立てます。
 
賃金仮払い仮処分は、地位確認請求の裁判と同じ内容を法廷ではない部屋で証人尋問等はしないで書類(主張を書いた準備書面と証拠書類)の提出と出席した当事者への事実上の質問だけで早期に判断し、解雇が無効だと「一応認められる」と使用者に対して「仮に」労働者の生活に必要な範囲で賃金を支払えと命じるものです。東京地裁労働部の場合、2週間おきくらいに期日を入れて概ね3か月くらいで判断されます。東京地裁労働部の場合、「保全の必要性」(仮処分を出す必要性)の判断が厳しく、収入や預貯金が乏しいことを確認するのはもちろんのこと、仮処分を出す場合でも賃金全額の支払が命じられることは稀で必要な生活費を証明する書類を提出させられて裁判所が生活に必要と認めた額の範囲で、期間も1年とされるのがふつうです。裁判に1年以上かかるときは、その時点で改めて賃金仮払い仮処分を申し立てることになります。
 さて、賃金仮払い仮処分で、事実上解雇が有効か無効か判断されるなら、同時に「地位保全の仮処分」(従業員である地位を仮に定めるという仮処分)も認められてよさそうに、労働者側の弁護士としては思います。労働者側の弁護士としては、賃金仮払い仮処分を申し立てる際に、地位保全の仮処分も申立をすることが多いですが、裁判所は(少なくとも東京地裁は、大昔はさておき近年では)頑として認めません。地位保全の仮処分を出す「保全の必要性」が認められないというのです。
 賃金仮払い仮処分が認められると、続いて地位確認請求の裁判を起こします。賃金仮払い仮処分が出た以上は、そこで既に解雇は無効と判断されていますので、使用者側がよほど強力な証拠や証言を新たに出してくるのでなければ、そのまま勝訴することになります。そういう事情から、裁判所の和解勧告でもそれなりの和解金の勧告がありそこで和解することもよくあります(もちろん、賃金仮処分の審理過程でも和解の勧告はあり、それでまとまることもあります)。
不当解雇だから、和解の話を蹴り続けて勝訴判決を取れば復職できますね。
ケースバイケースですが、現実には組合の支援と鉄の意志がないと…

 本当に復職したい労働者の場合、問題は、地位確認の勝訴判決を受けても、使用者側が拒否すると強制執行する手段がないことです。
 大企業の場合、コンプライアンスの観点から判決が確定すれば復職させるということもあります。また、小さな企業の場合、復職を拒否しても地位確認の判決が出れば賃金は支払わなければならない(理屈としては定年までずっと)ことから、ただで賃金を支払うくらいなら仕事をさせようということで復職させることもあります。でも、それでも就労拒否といわれれば、賃金の支払は受けられても(支払わなければ強制執行はできます)復職の実現は難しいということになります。
 また、復職しても、使用者との関係は当然に悪化していますから、使用者や使用者の意を受けた上司・同僚などから陰に陽にさまざまな嫌がらせが続くことも想定されます。
 そういうことも考慮して、本当に復職を貫くかということは、考えておく必要があります。

 本当に復職を求める労働者の場合、家族の収入や預貯金等で充分に生活できるときは、直接に地位確認請求の裁判、生活費に困る場合は、とりあえずは雇用保険(失業保険)の仮受給→賃金仮払い仮処分→地位確認請求の裁判という手順になります。

 
雇用保険の仮受給についてここで説明しておきます。
 仮受給というのは、法律上の規定はないのですが、実務上行われているもので、裁判等を起こす場合に、通常の雇用保険の失業手当と同じ内容で仮に給付し、裁判等で勝訴して賃金の支払を受けた場合はその限度で返還すると約束させるものです。ハローワークで訴状、仮処分申立書、労働審判申立書などの写しを提出して手続します。
 仮受給で通常の受給と違うところは失業認定(求職活動)が不要な点くらいです。待機期間でも有利な扱いはなく、離職票で重責解雇(懲戒解雇の場合、そう書かれます)とされていると、手当の受給開始は3か月後になります。

それなら何のために仮受給するんだい
現実には、解雇を争っているんだという筋を通すため、くらいですね。

《金銭解決を希望するとき》
 労働者が金銭解決を希望している場合は、賃金仮払い仮処分→地位確認請求の裁判のコース以外に、労働審判等の選択肢が増えます。
 労働審判については「労働審判という選択」で説明しています。
 どの手続を取るのかについては、さまざまな考慮事項がありますが、まずは労働者が希望する解決水準とかけられる期間を聞いて仕分けすることになります。
 解決金が賃金の1か月分〜3か月分程度でいいということであれば、自分で個別労働紛争あっせん手続をすることをお勧めします。
 労働者が労働審判で現実的に可能なレベル(解雇が無効と評価できる、つまり裁判なら労働者が勝つ場合で、6か月分が標準と明言する裁判官も1年分が標準と明言する裁判官もいます)の解決金を希望する場合は、私は、事案の内容に応じて労働審判か賃金仮払い仮処分を選択します。
 解決金としてそれを超える水準を希望される場合は、地位確認請求の裁判(生活費に困るときはその前に賃金仮払い仮処分)をすることになります。
 労働審判で現実的に見込める程度では納得できないが3か月以上かけるのはいやだといわれたら、基本的には金額か期間かどちらかをあきらめないと難しいですよと説明しつつ、とりあえず労働審判か仮処分をやってみて出て来た和解案を見て考えましょうということになります。

 賃金仮払い仮処分→地位確認請求の裁判のコースの場合、やることは、本当に復職したい場合と同じですが、仮処分の審理の過程でも、裁判の過程でも、金銭解決による和解の打診があるのがふつうですので、金銭解決を希望する場合は、ここで和解条件(和解金の額)の交渉になっていくことになります。一般的には、仮処分段階では、解雇が無効と判断される場合でも、東京地裁労働部では、和解金は労働審判の場合と同レベルということが多いように思えます。地位確認請求の裁判段階では、既に仮処分で解雇無効の判断がなされていることや解雇から時間が経過していることで、和解金はより高くなることが多いということになります。

 個別労働関係紛争の
あっせん手続について説明しておきます。個別労働関係紛争のあっせん手続は、通常、弁護士は関与しません(弁護士が代理してもかまわないのですが、依頼者が弁護士費用を払うと割に合わないことが多いので、本人申立で行うのがふつうです)。ですから、この説明は、私の経験ではなく、第二東京弁護士会の「新・労働事件法律相談ガイドブック」を作成するときに東京労働局、中央労基署、東京都産業労働局などに2011年夏に取材した際の情報によるものです。
 個別労働関係紛争のあっせん手続には、都道府県労働局、都道府県、都道府県労働委員会のものがありますが、都道府県と都道府県労働委員会は地域によって行っていない場合があります。東京の場合、東京労働局と東京都が行っています(東京都労働委員会は行っていません)。
 東京では、行政による労働相談の窓口として、労働基準監督署などにある「総合労働相談コーナー」と、東京都が運営する「労働相談情報センター」(旧労政事務所)があります。ややこしいですが、前者は国の出先機関、後者は東京都の機関です。
 「総合労働相談コーナー」に相談に行くと(相談する側の意識でいえば労働基準監督署に相談に行くと)、労働基準法違反の内容ならば違反申告、それ以外ならば労働基準監督署の助言・指導かあっせん手続へと振り分けられます。相談内容が「不当解雇」だというと、労働基準法違反にはならないのであっせん手続へと振り分けられるのが通常です。この場合、東京労働局のあっせん手続となり、2時間前後のあっせん期日が開かれます。あっせん期日は原則1回で、そこで示される調停案は、解雇無効の心証の場合でも賃金1か月〜3か月分程度が多いといわれており、示された調停案にその期日で合意できない場合打ち切りになります。
 「労働相談情報センター」に相談に行くと、やはり「不当解雇」だといえば東京都のあっせん手続に振り分けられるのが通常です。東京都のあっせん手続の場合は、期日は開かず、東京都の相談員が仲介して双方から随時言い分を聞いて進めます。
 あっせん手続は、相手方があっせん手続に応じないと進めることができず、打ち切りになります。

《退職金の請求》
 退職金は、法律上当然に請求権があるという制度ではありません。勤務先に退職金の制度がある(就業規則で定められているか、慣例として現実に退職者が一定の基準で支払を受けている)場合に初めて請求できるものです。
 退職金制度がある場合、解雇であっても退職金は受け取れるはずですが、使用者側が、懲戒解雇の場合には退職金を支払わないとか減額する/できるという規定を置いていることが少なくありません。
 解雇のケースで、退職金が支払われないのは、多くは懲戒解雇で退職金の減免条項がある場合です。
 この場合は、裁判では、その勤務先の退職金制度の性質、懲戒解雇事由の存否・性質、勤務先への実害の有無・程度などを考慮して、長年にわたる勤続の功が抹消・減殺されるほどのものかを判断して、退職金の支払を命じるか、どの程度の支払を命じるかが決められることになります。
 退職金請求の場合、仮処分の利用は考えにくいですから、裁判か労働審判かということになります。使用者が退職金の支払を拒否している事案では、事案が簡単ではなく調停の成立も簡単ではないと思えますので、裁判を選択することが多いと思います。

《解雇予告手当の請求》
 解雇予告手当の制度については「解雇を通告されたら」の中で一番最後の《解雇予告手当は?》で説明しています。
 解雇は争わず、解雇予告手当の支払を求める場合、解雇予告手当は全額でも賃金30日分ですから、弁護士に依頼して割に合う結果を得ることは期待できません。
 そうすると、あっせん手続か、労働審判の本人申立かということになりそうです。
 しかし、解雇予告手当の場合、使用者が任意に支払わないときは、裁判所が解雇予告手当と同額(まで)の付加金という制裁金の支払を命じることができます(付加金の支払を命じるかどうかは裁判所の判断に任されていて、必ず命令されるというわけではありません)。それを考えると、簡易裁判所に少額訴訟(請求額60万円まで)を本人で起こすのがベストの選択かなと思います。

労働審判では付加金の支払は命じられないの?
付加金は「裁判所」が命じるもので、労働審判は「労働審判委員会」だからダメだって。

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