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【雇い止めを通告されたら】
期限を決めて雇われている労働者(有期契約労働者)に対して、使用者側が、契約の期間が終了したところで契約の更新をせず打ち切ることを「雇い止め」(やといどめ:お役所用語では「雇止め」と表記します)と呼んでいます。
契約の理論上は、もともと雇うのはそこまでということで期限を決めていたのだから、その期限が来れば労働契約が終了するのは当然で、解雇とも違い雇い止めには理由もいらないということになりそうですが、それでは賃金で暮らしている労働者にあまりに不利な結果になります。
そこで、契約が何度も更新されているなどして、契約の更新を合理的に期待できるような場合は、理由なしでは雇い止めにできず、解雇の場合と同じように合理的な理由がなく社会通念上相当と認められない場合は雇い止めは無効とされる(それまでの労働契約が更新されたと扱う)ことになっています。以前は裁判所の判例でそういう扱いがされていたのですが、現在では労働契約法(19条)にそういう規定が設けられています。
労働契約法(19条)では、契約更新の合理的期待があり、労働者が契約更新の申込みを期間満了前か満了後遅滞なく行えば、合理的理由がなく社会通念上相当と認められない雇い止めは無効としています。
《雇い止め予告と理由証明書等》
現在では、使用者は有期契約労働者を雇用する際には、契約更新の有無及び契約更新の基準を労働者に書面で明らかにすることが義務づけられています。使用者が示す更新の基準はたいていの場合かなりあいまいですが、更新の基準に合致していれば、使用者は雇い止めできないことになります。
また、行政指導上、1年を超えて継続勤務しているか1年以内でも3回以上更新している有期労働契約を使用者が更新しない場合、労働者に対して30日前までにその予告をする必要があり、不更新の予告後に労働者がその理由の証明書を請求したとき、また不更新後に労働者がその理由の証明書を請求したときは遅滞なく証明書を交付しなければならず、かつその理由は「契約期間の満了とは別の理由を明示することを要する」とされています。
つまり、1年を超えて継続して勤務している契約社員の場合(更新が3回以上、例えば2か月契約を3回更新して8か月経過時点で使用者が更新しないなどの場合は、1年未満でも)、使用者が雇い止めをするときは、労働者がその理由の証明書を求めれば、単に期限が来たというだけではなくそれ以外の理由を証明書に書かなければならず、使用者が雇い止め理由の証明書を出さなかったり、期間が満了した以外の理由を書いていないときは、労働基準監督署に申告すれば労働基準監督署が指導するということになるわけです。
このように、現在では、何度も更新を繰り返した場合でなくても、使用者がまったくフリーハンドで雇い止めをすることはできない状況にあります。その意味で、更新を繰り返していない労働者でも闘える部分がありますし、このレベルのことも守らない使用者には労働基準監督署の指導を利用することも可能です。
今では何度も更新した後の人でなくても、無条件の雇い止めなんてできない訳ね。
まともな会社ならね。でも、けっこう大手の会社でもわかってないところがあります。
《契約更新の合理的期待》
有期契約労働者が契約の更新について合理的期待を持っているかどうかは、業務内容が基幹的・恒常的なものか臨時的なものか(前者の方が合理的期待あり)、更新の回数(多い方が合理的期待あり)、通算した勤務期間(長い方が合理的期待あり)、更新の都度期間満了前に契約書が作成されているか(契約書が作成されなかったり期間満了後にずれ込んだりしていれば合理的期待あり方向)、雇用継続を期待させる使用者側の言動(みんな長く勤めてもらっている、○年間は勤めてもらう等)、他の労働者の雇い止めの有無(雇い止めの前例がない、一定年齢までは雇い止めの前例がないようなときは合理的期待あり方向)というようなことを総合的に判断します。
《契約更新/締結の申込み》
労働契約法(19条)の規定では、労働者が、期間満了前に更新の申込みをするか、期間満了後遅滞なく労働契約締結の申込みをすることが求められています。行政通達では、労働者が雇い止めに異議があることが例えば訴訟提起等によって直接間接に使用者に伝えられたときは申込みと解されるとしています。
雇い止めの通告を受けた場合には、使用者側に雇い止めには応じられないことを伝えた上で、早めに裁判や労働審判等の手続を取った方が安全です。
《リストラと合理的理由》
さて、契約更新の合理的期待と申込みをクリアすれば、使用者は雇い止めができないというわけではありません。この場合、解雇と同様に合理的な理由がなく社会通念上相当と認められない雇い止めが無効とされるだけです。逆に言えば、合理的な理由があり社会通念上相当と認められれば、契約更新の合理的期待を持ち更新の申込みをした有期契約労働者に対しても、雇い止めができるのです。この点を間違えて、契約更新の合理的期待がある労働者に対しては雇い止めはできないと思っている人が時々いますが、注意が必要です。
そして、使用者側に人員削減の必要性がある場合、つまり整理解雇と似たような場合については、有期契約労働者の雇い止めには正社員の解雇ほどの強い合理的理由を必要としないというのが、裁判所の立場です。
ですから、人員削減の必要性があるという理由がつけられた雇い止めの場合、雇い止めを無効とできるかどうかの判断には注意が必要です。
《不更新条項》
契約更新を繰り返して更新の合理的期待が生じると簡単には雇い止めできないということが浸透したため、使用者側が契約更新にあたり、次は更新しない、この契約で終了という趣旨の条項(不更新条項)を入れた契約書を作成するケースが増えてきました。2013年4月1日施行の労働契約法改正で(2013年4月1日以降の労働契約だけをカウントしてですが)通算5年を超えて契約した有期契約労働者に無期契約への転換権(労働者が申込みさえすれば期間の定めのない労働契約になる)が与えられたことから、使用者側が更新回数の上限を定めたり途中から不更新条項を入れてくるというやり方をすることが多くなっています。
労働者からすれば、拒否すればもうその契約で雇い止めをされかねません(その時点で既に契約更新の合理的期待があると判断すれば、雇い止めされても闘えますが、自信を持って判断できるかという問題と、闘えば勝てるとしてもできればすぐには闘いたくないのが人情ともいえます)。そうやって、事実上、無理強いされて署名しても、その不更新条項は有効なのでしょうか。
裁判所は、署名をしてしまうと、なかなか簡単には不更新条項が無効だとはいってくれません。しかし、使用者側が不更新条項を設ける合理的理由があるか、労働者は十分な説明を受けた上で署名したのか、労働者側が異議を述べていないかなどが裁判では考慮されています。労働者側が負けた裁判では、労働者が例年と異なり有給休暇を全部消化していた事実や、一度も不満を示さず使用者側の求めに応じて退職届も書いていた事実が、労働者側も更新しないことを納得していた理由とされたりしています。
最高裁は、賃金や退職金の減額への同意について、「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」という、労働者が労働条件を不利益に変更することへの同意の有効性を簡単には認めてはいけないという法理を打ち出しています。この法理は、当初は発生済みの賃金・退職金の放棄等に限定されたものでしたが、最高裁は、近年、将来の残業代請求権の放棄、妊娠中の軽易業務への転換を契機とした降格への同意、賃金・退職金の減額への同意へと対象を広げてきました。現時点では、まだ不更新条項への同意への適用は明言されていませんが、今後は不更新条項へのこの法理の適用が争われると予想できます。
しかたなく署名する場合でも、使用者側の説明資料は手元に残しておき、どこかの段階で不満だということを使用者側に伝え、記録に残しておいた方がいいでしょう。
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