私の読書日記 2026年4月
19.落日 湊かなえ 角川春樹事務所
幼稚園児のときに父が映画を見てくるといって出かけたまま帰らずに海で遺体となって見つかり自殺とされ母が精神を病み父方の祖父母に引き取られ育ち葛藤しながら映画監督となって3人の自殺者の自殺直前を描いた映画「1時間前」で国際的な賞を受賞して注目を集めている長谷部香が、父が死ぬ前に母にベランダに閉め出されていたときにベランダの仕切り板越しに無言で励まし合い交流した子どもを含むアパートの隣人の立石家で起こった「笹塚町一家殺害事件」を取り上げた映画を撮りたいと、姉が事件被害者と同級生だったくすぶっている脚本家甲斐千尋こと甲斐真尋に脚本を依頼し、甲斐真尋が15年前の事件を調査して真相に迫るというミステリー。
交互に配置された「エピソード○」が長谷部香の過去を、「第○章」甲斐真尋サイドを中心とした現在を描き、挟まれている「エピソード」の人物が誰かを伏せてミスリードさせて驚かせるような試みはなされず、比較的素直な展開です。湊かなえというと「イヤミスの女王」というイメージが先立ちますが、素直なむしろ爽やかと言ってもよいラストでした。湊かなえが苦手な人にお勧めしたい/イヤミスを期待する読者にはお勧めしにくい作品かなと思いました。
18.生活保護の受け方がわかる本[第4版] 法律知識普及会企画・執筆 自由国民社
生活保護の制度、受給要件、受けられる扶助の種類と受給額、申請等の手続などを解説した本。
「やさしく案内 最後の頼り 生活保護の受け方がわかる本」というタイトル、冒頭の「取材特集」では「生活保護は施しや憐れみではありません。憲法に保障された私たち国民の権利なのです」(9ページ)と述べ、福祉事務所の申請拒否(水際作戦)を批判し、保護費切り下げを違法とした最高裁判決を紹介しそれに素直に従わない厚労省を批判していますので、生活保護を申請する側受給する側のためにいかに行政と闘い保護を勝ち取るか、そのノウハウも含めて書いているものと期待しました。しかし、申請者側の目線で書かれているのは最初の「取材特集」と巻末のQ&A(121~123ページ)だけで、制度等を解説している本体部分の第1章から第3章はまるまるお役所の立場からの説明に終始しています。
その点で一番驚いたのが、生活保護の申請をしたときの扶養照会の説明で「離婚した母が生活保護を受けようとする場合、母が養育している子がいれば、別れた夫(子の扶養義務者)にも通知がいきます」とだけ書いて、「夫の暴力から逃れてきた母子、虐待等の経緯がある者等の当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者」については照会することは適切でないとされていること(厚労省の生活保護要領)に触れていないことです(113ページ)。こういう書き方では配偶者の暴力から逃げてきた者が生活保護の申請をすることを思いとどまらせることになります。これ自体が水際作戦と同列じゃないかと思います。さすがにQ&Aでは「DVから逃げてきたなどの場合の相手方に対しては照会はなされません」と書いています(123ページ)が、それをなぜ本文の解説部分で書かないのでしょうか。
受給の要件とか扶助の支給内容、計算などは、それなりに手堅く説明されていて、制度についての知識を増やすことはできます。
しかし、法律用語の使い方にあまり正確でないところがあるように感じられ、誤記や脱字等も目につきます。厚労省の「生活保護要領」の抜粋照会で、「扶養義務者としての『兄弟姉妹』とは、父母の一方のみを同じくするものであること。」(54ページ)という記述を見て目をむきました。この本の記載に従えば、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(いわゆる半血の兄弟姉妹)のみが扶養義務者で、父母の双方を同じくする兄弟姉妹(いわゆる全血の兄弟姉妹)は扶養義務者でないことになります。もちろんそれは誤りで、生活保護要領の記載は「扶養義務者としての『兄弟姉妹』とは、父母の一方のみを同じくするものを含むものであること」です。これ、ふつうに読めば間違いだと誰でも気づくはずです。しかも、この記述、第3版では正しく引用されていた(第3版53ページ)のに、第4版で間違った記述に変更されたのです。生活保護要領の記載も変わっていないのにどうしてわざわざ手を入れて間違った記述にしたのでしょう。放射線障害者加算の要件で「原始爆弾被爆者」(80ページ)とか書いているのも理解を超えます。そういった杜撰さをなんとかして欲しいなというのが、結局は一番の読後感となってしまいました。
17.ハムネット マギー・オファーレル 新潮クレスト・ブックス
シェイクスピアの妻アグネスの視点から見た家族の物語。
全体の7割近くを占める第1部は、11歳の娘ジュディスがペストに罹患して寝込み家人が皆留守で双子の兄ハムネットがオロオロ歩きアグネスが帰ってきて看病を始めるがハムネットの方が死んでしまう1596年の数日間とアグネスが夫と結婚した1583年からの13年間の家庭生活を交互に配置し、第2部でハムネットの死後のアグネスの落胆と夫への感情等を描いています。作品の中ではシェイクスピアという名前は1度も登場せず、アグネスの夫がシェイクスピアであることがわかる記述もずいぶんと後の方です。また1596年の数日間を1583年からの13年間と並行させるため1596年の方は展開をスローにし、ハムネットの死は第1部の最後に持ち越されます。作者は、読者がシェイクスピアの妻の物語であることを意識せずに読みそれが終盤でわかるというのが望ましい、またジュディスではなくハムネットが死ぬことは終盤まで伏せておきたいと考えているように感じました。しかし、私は映画を見てから読んだので当然最初からシェイクスピアの妻の話でハムネットの死がテーマの作品として読んだのですが、そうでなくても、裏表紙に「シェイクスピアは、なぜ亡き息子の名前を戯曲の題にしたのか?」と大きな字で書かれていて、夫がシェイクスピアであることも、ハムネットが死ぬことも、読む前からわかってしまいます。まぁ、シェイクスピアの話で、有名な「ハムレット」に関する話だと思うから本が手にとられるわけで、そう書かないと売れないでしょうから、仕方ないのだと思いますが…
自由で自立した意識のあるアグネスが、なぜうだつの上がらないラテン語家庭教師と結婚する気になったのか、結婚してふつうの家庭の主婦になったのかが、今ひとつストンと落ちませんでした。この作品の中ではアグネスは「これまで会った誰よりもたくさんのものを内側に隠してる」と評価した(176ページ)というのですが。アグネスにものを見る目(霊感?)があり、実際劇作家・文学者として大成したのですから正解だったということなんでしょうけど。映画の監督が原作を読んでなぜアグネスがウィリアムに魅力を感じたのか理解できなかったので映画では原作にないウィリアムがアグネスにオルフェウスの物語を語って聞かせるシーンを挿入したと言っているのに思いを同じくしました。それとも、いかに自立心があっても女がそれを通せない時代だったという読み方をすべきでしょうか。
16.図解でわかる!パーキンソン病との付き合い方 服部信孝監修 法研
中脳の「黒質」の神経細胞が減少して神経伝達物質のドパミンの量が減少することによって(39ページ)動作が小さくなったり動き始まりがゆっくりになったり震えが生じるなどするパーキンソン病について、症状と検査・診断、治療、リハビリ、日常生活や歩行時の環境整備などを解説した本。
パーキンソン病で生じうる症状が多数列挙され(12~31ページ)、それは人それぞれで、「当てはまる症状があったからといって必ずしもパーキンソン病というわけでもなく、また、不安な症状があっても当てはまらないものが多ければ大丈夫ということでもありません」(33ページ)とされています。自分のことを考えると、頻尿とか疲れやすいとか腰痛とか当てはまりますし、大量に汗をかくとか胃の調子が悪いとか躓きやすいとか片側の手が震えるとかもたまにあります。これまでパーキンソン病は疑ったことなかったですが、当てはまらないものが多ければ大丈夫ということではないと言われると、不安になります。その次に検査の方法が多数書かれ、専門医でも症状だけでは断定できず多数の検査から総合判断するのだというのですが(66~81ページ)。
検査方法や薬剤、外科治療などに関していろいろ紹介されていて、知らなかった新しい技術が生まれているのだなと勉強になりました。私としては、神経細胞にドパミンと勘違いさせてドパミンからの刺激と同じような電気信号を出させるという治療薬「ドパミンアゴニスト」(98~99ページ)に感心し興味を持ちました。
15.パーキンソン病の進行を遅らせる大逆転の1分習慣 小川順也著、霜田里絵監修 秀和システム新社
進行性の難病であるパーキンソン病について進行を遅らせるための運動等の必要性と方法などを解説した本。
パーキンソン病では、症状(手足の震え、動きが遅くなる、体のこわばり等)が左右のどちらかに強く出ることが多いため、筋トレを左右で同じ回数・同じ負荷で行うと力が入りにくい発症側よりもそうでない非発症側ばかりに負荷が集中して左右の力の差がさらに大きくなる(56ページ)、頑張るとかえって悪化しかねないという問題があるそうです。これは驚き。
パーキンソン病の本当の大敵は低体重・低栄養状態なので、生活習慣病予防の考えから切り替えて油脂とタンパク質を積極的に摂るべきで、痩せ型よりもややふくよかな方が進行が緩やかなケースが多いとのことです(62~65ページ)。
そして優しすぎる配偶者や家族が何でもお世話してしまうと本人が体を動かさなくなって症状が進むとも指摘されています(152~153ページ)。
言われるとそうだなと思いますが、気づきにくい錯覚しがちなことがいろいろあり、勉強になりました。
14.はるを呼ぶ 実石沙枝子 ポプラ社
10年前の小学2年生の冬に当時18歳の高校3年生だった姉小春が行方不明になり、しばらくして父親が家を出、家に引きこもり泣き続けている母と2人で、地域の実力者豊原水産の主の差し金で町内の人々から無視され手を差し伸べられることなく、荒れた家で暮らす高校3年生になった深川春奈が、1人歩いていると公衆電話の電話が鳴り、受話器を取ったことから止まっていた日々が動き出し…という小説。
さまざまな重圧に押しつぶされる子ども/高校生の春奈の心情と、小春の元彼豊原学、父親深川義宏、担任教師などの周囲の大人たちの認識の浅さ・軽さの落差を、春奈(と同級生の豊原美久)の視点で暴き読ませる作品かと思います。大人たち側の悪意のなさ、したがって罪の意識のなさ/軽さを、実際問題その大人側で生きている者としてどう受け止めるべきかに悲しさと痛みと戸惑いを感じます。
13.高齢者とがん 健康管理、診断・治療から心と暮らしのケアまで 山口建 中公新書
がんに罹患した本人と家族が知っておきたいことを多方面から解説した本。
多くの項目について書いているので、より詳しくは別の本や引用・紹介されている資料を当たるべきなのでしょうけれども、それでも治療法について、基本は手術、放射線療法、薬物療法であることに変わりなくてもそれぞれの中でさまざまなものが開発されているのだということ、暮らしの支援についてもさまざまなものがあるということを、概括的にではありますが知ることができました。
随所に患者の声が、ごく短くですが紹介されていて、読みながら胸に迫るものがありました。私が、高齢者となり、涙もろくなり、またそれぞれの患者の境遇に感じ入るところが増えたということでしょうけれども。
がん予防のための食生活に関して、野菜や果物を積極的に摂取するというのはいいのですが、「1日におおよそ握りこぶし7つ分、食すれば十分量を摂取することができる」(58ページ)って…私はかなり意識的に野菜を食べているつもりですが、1日に握りこぶし3~4個分くらいがいいところだと思います。どうやったらそんなに食べられる?と、ちょっと途方に暮れました。
12.国立がん研究センターのがんになったら手にとるガイド 国立がん研究センターがん対策研究所編 小学館クリエイティブ
がんになったときにがんについての情報収集・相談先、検査方法、治療法、副作用や症状緩和、就労や日常生活、患者会等、治療後の経過観察と再発、費用と公的な支給・保険などについて解説した本。
治療法関係では、標準治療(保険医療)が科学的根拠に基づく現在利用できる最良の治療であり、サプリメントや民間療法が当てにならないということを繰り返しています(17ページ、25ページ、61ページ、118ページ等)。医師の立場、国立がん研究センターの立場ではそう言うしかないんでしょうけど。
がん治療・療養を支える制度(がん治療とお金)についての第7章に一番関心があったのですが、さまざまな/いくつかの制度で費用の軽減や支給があるということが書かれていても、利用できる条件とか具体的にどれだけの援助になるのかなどは読んでも今ひとつイメージできませんでした。そこは制度が複雑というか適用条件や援助額が行政等の都合・思惑で絞られているためなのだと思いますが。著者側でも十分な説明は無理とあきらめてか、まずはここにこれを問い合わせろというまとめがあり(178~179ページ)、現実には問い合わせる中で認識し納得しあきらめていくしかないのだろうと思いました。
11.「がん活」のすすめ 科学と名言でつくる「がんを寄せつけない習慣」 川口知哉 講談社ブルーバックス
呼吸器内科医でがんを専門としてきた著者が、主として欧米の賢人たちの名言を取り上げて、がん予防のための生活習慣を実行するよう論じた本。
がん予防のための生活習慣に関して、予防効果があると考えられる根拠や機序、研究によるエビデンス(効果のほど)などを説明する医学的な記述と、それを大半はがん予防はもちろん医学的な背景や意図もない「名言」と結びつけ、その「名言」の経緯や「賢人」の業績等を説明する哲学史・文化史的な記述が混合されています。それを混乱・冗長とみるか、こじつけぶりも含めて説明の繰り返しや多方面の情報があることで読みやすく飽きないとみるかで評価が分かれそうな気がします。講談社ブルーバックスにしては異例に文系的な本と言え、それをふさわしくないとも、親しみやすいとも評価できるかと思います。
推奨する生活習慣では、がん予防という1点に限れば酒は飲まない方が望ましいと結論づけ、少量であれば体によいはずという意見を退け(心血管リスクについては留保)、飲酒の量や頻度を少しでも控えるべきとしている(184~192ページ)のが目につきます。食の間隔に関して空腹時間を確保する/飢えを感じてから食べることを推奨しています(116~119ページ)が、1日2食がいいか、3食がいいかには触れられていません。両論を聞くところなので、私としてはそこも論じて欲しかったのですが。
「おわりに」で、貝原益軒の養生訓を挙げて「科学が進んだ今日でも、その知恵は色褪せない」としています(271ページ)。この本の姿勢・流れからは自然な記述ですが、先日読んだ「日本人はいかにして毒と薬を食べてきたのか?」で「たとえば、驚いてしまうが、つい近年に至るまで、日本人は本当に長い間、江戸時代に提唱された貝原益軒の食べ合わせを崇めてきた」(同書229ページ)というのを見たばかりなので、人の評価・価値観はさまざまだなぁと改めて感じました。
10.日本人はいかにして毒と薬を食べてきたのか? 船山信次 星海社新書
毒と薬について説明し、それが発見・利用されてきた歴史について論じた本。
タイトルから出てくるメインストーリーは上にいうようになりますが、どちらかというと、毒や薬になるかどうかを問わず食生活、食物全般についての歴史やありよう、あり方を書いている部分が多く、むしろそっちの方に力が入っていたりするという印象です。
世界3大飲料とされる茶とコーヒー、ココアは、原料植物がまったく異なる種で自生地も遠く離れている(茶はツバキ科で中国大陸、コーヒーノキはアカネ科でアフリカ大陸、カカオノキはアオイ科で南米大陸)のにいずれもカフェイン類のアルカロイドが含まれている、人類はおそらく本能的に植物に含まれるカフェイン類のアルカロイドを好むことからこれらの植物を独立に見いだしてきたものであろう(75ページ)、結局、ヒトは少し毒のあるようなものが好きなのではないか(103ページ)などの記述に頷かされます。
09.わたしの知る花 町田そのこ 中央公論新社
事情があって長く故郷を離れていた77歳の葛城平が故郷の菜々吾市に戻り手製の画板を首からかけて公園でスケッチをしているのに興味を持った高校1年生の安珠が聞き歩くのを機に平の過去と当事者も知らなかった真相が明らかになっていくというスタイルの小説。
安珠が主人公で視点人物であるように始まりますが、平を焦点として、平を知る人物の視点で入れ替わりながら紡がれて行きます。
高齢者たちのすれ違うタイミングを逸した過去への悔恨ともどかしさに満ちたノスタルジーを味わう作品かと思います。執筆時、作者は…44歳ですか。
平が菜々吾に戻って住むすみれハイツの家主幸崎奈々枝夫婦が、先代の義母のポリシーで入居者を独居老人や頼るひとのいないシングル女性に決めている(213ページ)というのが、昨今の高齢者を入居させない家主が圧倒的多数という現在の世知辛い風潮に抗しているようですがすがしく思いました。
08.いざという時の生活保護の受け方 大村大次郎 かや書房
生活保護は権利であり、要件を満たしていれば申請すれば受給できるものだから遠慮せずに受給しようという啓発書。
生活保護の受給要件を説明し、申請判断のタイミングとして家賃が払えなくなったら住居を追い出される前に借金をする前に申請しよう(住居不定や借金が受給の障害になりがち)としている第1章がタイトルに沿った内容で、あとは日本社会の問題、福祉と生活保護の貧弱さを論じ、むしろ生活保護を受けるほど貧困に陥る前にこうしようという話です。
企業ばかりが儲けて賃金はむしろ引き下げて(企業の)内部留保が蓄積され、一部の大富豪がますます金持ちになりワーキングプアが増え格差が拡大していること、行政が諸外国に比べて元々貧弱な社会福祉、社会保障(年金等)、生活保護をさらに削り続けていることなどの指摘は、庶民の弁護士としては同じスタンスですので同感するところではあります。ただ元国税調査官の著者は税金には詳しくても他の分野については大丈夫かなぁという不安感はあります。例えば、自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)の世界ランキングで、「日本はこの10数年、ずっとワースト10に入り続けているのです。現在の10位以内の国のうち、10年前も10位以内に入っていたのは、日本とベラルーシと韓国とガイアナだけです」(94ページ)というのが、面白すぎると思い、ファクトチェックしてみました。厚生労働省が2007年から発行している「自殺対策白書」に著者が紹介しているのと同じ世界保健機関資料に基づいて厚生労働省が作成した一覧表が毎回掲載されています(こちらのページとリンク先で閲覧できます)。著者が93ページで紹介している資料は2019年版に掲載されているものです(2025年出版の本でどうして2018年9月のWHO資料に基づくものを使うかも疑問ですが)のでその10年前の2009年版掲載と比較すると、リトアニア、ベラルーシ、スロベニア、ラトビア、日本、ガイアナの6か国が共通で他方韓国はワースト10入りしていません(11位ですけど…)。むしろ、日本の自殺率が国際的に例外的なほど長期間高止まりしていることをいうのなら、自殺対策白書が発行されるようになって19年間、白書に掲載されている国際比較の一覧表で毎回自殺死亡率がワースト10に入り続けているのはリトアニアと日本だけ(直近10年で見た場合はリトアニアと韓国と日本だけ)ということを指摘するべきでしょう。
あと簡易裁判所の少額訴訟について、「30万円以下の金銭の支払いをめぐるトラブルに限って利用でき」(218ページ)と書かれています。制度発足当初はそうだったのですが、2004年から上限は60万円になっています。
基本的な方向性はいい本だと思うのですが、きちんと確認せずに書いている雑さが気になりました。
07.日本の自然葬 風葬・土葬から樹木葬・循環葬まで 高橋繁行 講談社現代新書
現在の日本で行われている代表的な自然葬である沖縄での風葬(洞窟内等に遺体を置き白骨化した後洗骨)、アイヌの土葬(静内)、無人島(隠岐:カズラ島)での散骨、樹木葬(高槻・神峯山寺、一関・知勝院)、能勢妙見山の循環葬の森を取材したルポ。
自然葬といっても、火葬された遺骨・遺灰は土壌中の微生物による分解が難しく、樹木葬で用いられるような容器・筒で隔てればますます分解されにくいし、土葬で自治体が許可する条件の2メートルもの穴を掘って埋めたらそのような深い地中には微生物がほとんどおらず、やはり人体を土に返すのが難しいそうです。
カズラ島での散骨は自分が行って土に撒く施主散骨が29万1500円、業者が代行する委託散骨が24万7500円(194ページ)、神峯山寺の樹木葬(桜葬)1人埋葬区画使用料が40万円(204ページ)、知勝院の樹木葬永代使用料50万円+年会費8000円(214ページ)、能勢妙見山の循環葬は生前契約者で77万円(233ページ)だそうです。通常の墓よりも安いのでしょうし、自然葬と言っても土地等を使用する以上維持費がかかるのはわかりますが、散骨等のイメージから想像するものよりは費用がかかるのだなと思いました。
06.プラットフォームに正義を託せるか 「コンテンツ・モデレーション」の最前線 小向太郎 日本経済新聞出版
他人の権利を侵害するなどの問題があるインターネット上の記事・投稿について、その場を提供している者、実際にはGoogle、You TubeやFacebook、instagram、X、TikTok、LINEなどに削除等の対応をする義務を課すべきか、削除等の対応を自由にやらせていいのか等について、EU、アメリカ、日本の法制を紹介して論じた本。
EUは2022年制定のデジタルサービス法で、利用者からの削除要請にプラットフォームがルールに則って対処する義務を課し、さらに巨大プラットフォームには違法情報のみならず有害情報についても基本的人権や社会の安全を脅かしたり民主制を危うくしたりするもの、具体的には社会的弱者に対する差別、プライバシーの侵害、言論抑圧的な主張、偽情報による世論操作や選挙妨害、ジェンダーに起因する暴力、ネットいじめ、健康に関する偽情報などのリスクにも対応を求めていることが紹介されています。著者はEUの姿勢について政府がプラットフォームに削除させることに行きすぎがあるとし、EUが義務を課しているプラットフォームがアメリカ・中国の外国企業でありその力を削ぎたいという思惑があるとか、SNSにより移民排斥やEU離脱をいう勢力が力を得るとEUがバラバラになり崩壊することを恐れているなどと指摘し、純粋に基本的人権を守ることが目標でないように論じています。
アメリカでは表現の自由が重視される結果、プラットフォームに削除義務はなく、ただ約款でルールを定めればその通りに削除してよく削除したことで責任を負わない、要するにプラットフォームは自分の判断で好きにしていいというに近い状態であることが紹介されています。
その間で、日本では、プラットフォームが削除して免責される場合が法律で定められた上で、自主的に対応することが求められ、他方で裁判上削除しないことで損害賠償等が認められる場合もありケースバイケースの状態と紹介されています。
著者の姿勢は、外国(EUとアメリカ)の法制はそれぞれの事情・経緯があるから飛びつくなと言い、新しい法律を作るより現行の法律で削除対応すべき/できるものをきちんと対応しろというようなところでしょうか。個別分野で検討すべきことが言われてはいるのですが、プラットフォームに正義を託せるかというタイトルのような大きなところの方針は、私にはよくわかりませんでした。
対応が違うという3者ですが、著作権侵害のコンテンツが速やかに削除されるという点は共通しています(204~206ページ)。通常は著作権侵害の表現に守るべき価値がなく侵害の有無の判断がしやすいということもあると思いますが、穿った見方をすれば、著作権(現実には多くは著作者よりも著作権ビジネスに従事する著作者以外の事業者が金儲けをする権利)が表現の自由を含めた他のあらゆる権利よりも優遇・尊重されているとも言えます。
05.ほどなく、お別れです 遠くの空へ 長月天音 小学館文庫
スカイツリーそばの葬儀業者坂東会館に勤務し、坂東会館から独立したフリーの葬祭ディレクター漆原礼二に指導を受け、漆原への思いを秘めながら、一人前の葬祭ディレクターになることを目指している清水美空の日々を描くお仕事・恋愛小説の第4巻。
美空が坂東会館に勤務して4年目の12月から5年目の6月までを描いています。これまでは季節や月日だけでそれが何年のことなのかの示唆はなかった(私が読み落としていなければ)のですが、この巻ではその4年目の12月が2021年と明示され(7ページ、17ページ、248ページなど)、コロナ禍の後遺症が強調されています。そうなると美空の就職が2018年4月で、第3巻(思い出の箱)の終わりは勤務して丸2年が過ぎた4月半ばということなので2020年4月半ばということになります。第3巻では、コロナのことには触れられず、(第3巻の)第4話では4月5日の数日後とされているので2020年であれば4月7日に緊急事態宣言が出された後となる葬儀もふつうに故人の職場の同僚を呼んで行い、エピローグでは、2020年であれば4月7日に緊急事態宣言が出された後ということになる4月半ばに隅田公園で宴会をやっている(ちらほらと似たような集団があるとも)のですが…(ちなみに美空の誕生は1995年4月4日となり、オウム騒動のまっただ中のたいへんなときに生まれたことになります。やはりそういうことはまったく触れられていませんが)
第3巻の終わりから1年8か月ほどをすっ飛ばしたわけですが、コロナ禍の停滞、惨状はあるとしても、美空の状況や人間関係に大きな変化はなく、何よりも漆原との関係が進んでないというのはどうよと思ってしまいます。まぁ知らない間に進んでいたらそれはそれで、それはないだろと思うのですが。最後に漆原の過去について明らかにし、希望を感じさせるラストは、読み続けてきた読者に満足感を与え、好印象です。
第1巻から第3巻については2026年2月の読書日記06.07.08で紹介しています。
04.ファミリービジネスの教科書 蒲地正英、田久保善彦 東洋経済新報社
ファミリービジネス/同族企業の特徴や運営について説明し論じた本。
ファミリービジネスのメリットとデメリットを指摘しつつ、基本は経済合理性や短期的な利益にこだわらずに長期的な視点での経営判断と決定を迅速に行えることが強みだと強調し、外野の声や教科書的な指摘など気にせずに自信を持って経営を進めようと、経営者を鼓舞する本だと思います。経営者の強い意向による独断を、「一概に良い悪いは言えません」「リスクをとる覚悟があるならば、独断専行であっても問題はない」(118ページ)などと書いたりしていますし、従業員について社長と従業員が「別次元であることを認識しないまま、オーナー経営者の悪口を言うのは筋違いです」(159~160ページ)とさえ書いています。後者は、この本をファミリービジネスの従業員が読むことはまず想定できませんので、経営者に、従業員の主張など無視していいと言っているようなものです。
経営に関与していないファミリーとよくコミュニケーションをとる、銀行等とも飲んでコミュニケーションをとれ、などウェットで心情的な経営を各所で助言しています。また、後継者はオーナーが指名する、後継者は先代をリスペクトする(140ページ)に加え、子どもの育成では女性家族の果たす役割が重要、「家を守っている祖母や母親が、会社で一生懸命働く祖父や父親に対する敬意を口にして『あなたがその後を継ぐのだ』と英才教育していく効果は絶大です。反対に、家業について批判的なことばかり聞かされれば、子どもは継ぎたいとは思わなくなります」(138ページ。51~52ページも同旨)と、古い価値観を誇ってよいとしています。さすがに、今後は女性起業家が女子に事業承継する事例が増える可能性は感じているとか、自分の家業の初代は女性だったという言い訳は付けていますが(138~139ページ)、全体の基調はオーナーは自信を持って進めろ、古い価値観も恥じることはないというところにあると感じます。
取締役の責任について書く中で、「福島原発事故をめぐって東京電力の故勝俣恒久元会長は、2兆円の損害賠償を請求されました。最終的に無罪判決となりましたが」(69ページ)と書いています。正しくは22兆円の損害賠償を請求され1審判決は13兆円の賠償を命じた、2審判決は1審判決を取り消して請求棄却した、別に刑事訴追もされていたが無罪判決を言い渡されたということです。散々報道された事件ですし、それくらいは確認して書いて欲しいなと思います。
03.珈琲店タレーランの事件簿9 ピーベリーは美しく輝く 岡崎琢磨 宝島社文庫
京都市中京区富小路二条上がるの大叔父がオーナーの珈琲店タレーランを切り盛りするバリスタ切間美星が周囲で起こる事件の謎を解くミステリーシリーズの第9巻。第1巻の始めから5年、第8巻の終わりから約8か月後、状況としては第8巻の延長で、口コミサイト「食べマップ」にタレーランの悪口を書いた低評価の投稿が続いたその投稿主と動機の謎が扱われます。
ミステリーとしては、終盤近くに軽いひねりを置き、最後にもう一つどんでん返しを入れて驚かせるという趣向です。率直に言えば、終盤近くのひねりまでは早々に想像がつき、目につくように進められるサイドストーリーからして当然これで終わりじゃないということは見えてしまいます。どんでん返しの終わりまでは予想できず、驚きはしましたが、序盤中盤で(最後に驚かせるための)切れ味の鈍い話が続くあたりに、美星の頭の切れが鈍ったのか、作者が手抜きしてるのかと感じ、残念でした。それが長い中弛みに思えてしまったために、最後にそういうつもりだったのねとわかってもなお、爽快な読後感につながりませんでした。
第8巻の終わりはもうシリーズ終了かと思うものでしたが、第9巻の終わり方はまだ次がありそうな印象です。
第1巻~第8巻は2024年7月の読書日記33.~40.で紹介しています。
02.ルカとチカ 長野まゆみ 講談社
3歳の時に実母藤沢雪野が亡くなり養母「ルビ母」と6歳年上の義兄天野明日(はるか)に育てられた天野千日(ちか)が、20歳近くなり、それまで知らされておらず自分も知ろうとしなかった自らの出自、母や父の来歴を知っていくという小説。
異性愛男性だが女装する者、異性愛女性だが男装する者、同性愛指向を持つ男女、性別が曖昧な者が登場し、LGBTを声高に論じることはないのですが、性別とかこだわる必要ないんじゃないという感覚に満ちている作品です。
また蝶への愛とこだわり、花や草への愛も感じられます。
登場人物にいやな人悪い人はいなくて、魅力的な大人たちにほのぼのと癒やされました。
01.「排泄介護」のお悩み解消ブック トイレ介助、オムツの使い方、下痢・便秘時のお世話のコツ 西村かおる 翔泳社
加齢や認知症等により排泄に介助を要するようになった人の介護者・家族がどのようにすべきかを解説した本。
オムツを選ぶ際にウェストに合わせて選ぶと足の付け根(鼠径部)がやせていて隙間ができていてそこから尿や便が漏れることがあるので鼠径部のサイズに注意する(77ページ、88ページ、96ページ)とか、吸収量が足りないといってパッドを2枚重ねするとパッドの外側は水分をはじくので重ねても意味がなくただかさばったり蒸れるだけ、2枚を前後にずらしても隙間から漏れる(89ページ)などの指摘は、知らなかったらやりそうな感じがして気をつけておきたいと思いました。
オムツ交換の連続写真つきの解説(80~87ページ:QRコードから動画も見れます)がありますが、それだけで一仕事だなと思いました。この写真・動画で、患者役の人のタイツが黒、パジャマが紺で、ほとんど同色に近くてちょっと見づらく思いました。タイツをはいていること自体はいいのですが、パジャマの色ははっきり別の色にして欲しいと思います。
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