取締役の解任は、株主総会で決議すれば理由は不要だが、従業員(労働者)の解雇は合理的理由と相当性が必要
従業員兼取締役の場合、取締役を解任されても、従業員としての地位は残る
就業規則で取締役就任と退職事由としている場合でも、従業員兼取締役の場合適用されないと解すべき
日本の会社では、従業員が「出世」して取締役に就任しても、取締役としての経営業務に専念するのではなく、それ以前の従業員(部長等)としての業務を継続して行うことが少なくありません。
その場合、取締役としての地位とともに、従業員としての地位も併存していると考えられます。
また、比較的規模の小さな会社では、形式上は取締役に就任しても、代表取締役(社長)以外は、実質的には取締役としての業務も権限もなく、実態は、取締役就任前とまったく変わらない(社長が一方的に決めるだけの取締役会への出席が業務として増えただけなど)ということもあります(名ばかり取締役)。
取締役の地位は、法的には労働契約ではなく「委任契約」と解されていて、株主総会で解任が決議されれば、解任の理由は不要とされます。
労働者を解雇する場合は、合理的な理由と(社会的)相当性が必要です。つまり、労働者は、簡単には解雇できません。
従業員兼取締役の場合、取締役を解任されても、労働者としての地位は残ることになります。
しかし、会社側がそれを否定し、取締役として解任されると、労働者としての地位もないと主張する場合があります。
労働者としては、従業員のままであれば定年まで勤められたはずなのに、取締役に就任した(出世した/昇格した)がために、理由もなく地位を失うというのではたまったものではありません。
会社側が、労働者を解雇するのが容易でないために、定年前にやめさせるために、取締役に就任させたのではないかと疑われるようなケースも見られます。
このような場合、会社側は、就業規則で、従業員の(当然)退職事由として、当社の役員(取締役)に就任したときを挙げているのが通例で、これを根拠に、取締役就任時点で労働者としての地位はなくなっており、従業員兼取締役ではなかったと主張するわけです。
取締役が従業員兼取締役であるかどうかは、代表取締役などの他の取締役からの指揮監督の状況や、業務内容(取締役就任前とどれだけ異なるか)、給与・報酬(固定給か、取締役就任時にどう変化したか)、雇用保険の加入などを考慮して判断されます。
その上で、従業員兼取締役と評価された場合、会社側が主張する就業規則の(当然)退職事由の規定はどうなるでしょうか。
私が取り扱った事件では、東京地裁2015年12月17日判決は、就業規則の退職事由は、条理上当然に、従業員が従前の従業員たる地位を兼務したまま取締役に就任する場合を含まないものと解するのが相当であるとしています。
従業員兼取締役が、解雇理由もないのに、取締役を解任されて、会社が従業員の地位を否定する場合は、解雇理由証明書の交付を求め(会社側は、解雇ではないとして交付を拒否することが予想されます)た上で、解雇の場合と同様に地位確認請求の裁判を起こすなどして、闘うことができます。
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【労働事件の話をお読みいただく上での注意】
私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。
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