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  諭旨解雇を争う

ここがポイント
 諭旨解雇の場合は、退職届を提出しても、問題なく争える
 現実の場面では、諭旨解雇と退職勧奨の区別は微妙なことがある
 文書をもらって弁護士に相談した方がいい
   
諭旨解雇とは
 就業規則に、懲戒処分の一種として、「諭旨解雇(ゆしかいこ)」とか「諭旨退職(ゆしたいしょく)」というものが定められていることがあります。
 懲戒処分としては、「懲戒解雇(ちょうかいかいこ)」が一番重く、多くの会社では、懲戒解雇の場合は退職金が支払われないとか、減額されると定められています。「諭旨解雇」は、それより一段軽い処分として、労働者に一定の日までに退職届を提出するように求めて、労働者が退職届を提出すれば、そのまま諭旨解雇という扱いで、退職金を支払う、労働者が退職届を提出しないときは、懲戒解雇とするというものです。会社によっては、「諭旨退職」という用語を使うこともあります。懲戒解雇が、懲戒処分として「極刑」とすると、「諭旨解雇」はそこから罪一等を減じるというような扱いです。
 労働者に対しては、使用者から、文書で、「○月○日をもって諭旨解雇とする。ただし×月×日までに退職届を提出しないときは、懲戒解雇とする。」というような形か、逆に「○月○日をもって懲戒解雇とする。ただし×月×日までに退職届を提出したときは、諭旨解雇扱いとする。」というような形で通告されるのがふつうです。

諭旨解雇の場合は、退職届を提出しても、問題なく争える
 労働事件の話(解雇)で、労働者が退職届を提出してしまうと、後で争いにくくなると説明しました。しかし、諭旨解雇の場合、労働者が退職届を提出しても、問題なく争う(労働者の地位が継続していることの確認を求める「地位確認請求」の裁判を起こすなどする)ことができます。
 それは、諭旨解雇という懲戒処分の中に退職届の提出が含まれているのですから、退職届の提出という形を取っても、使用者が懲戒処分として労働者を退職させた(労働者としての地位を失わせた)ことに変わりがないからです。つまり、諭旨解雇という処分がなされてしまえば、労働者が選択できるのは、退職金をもらうかどうかだけで、労働者としてとどまるかどうかについてはすでに労働者の選択の余地がないのですから、退職届の提出は労働者が自ら退職を選択したということを意味しません。
 ですから、諭旨解雇を通告された場合、使用者の指示に従って退職届を提出し、退職金を受け取った後でも、諭旨解雇を争うことに、法的な問題はありません。
 たまに、使用者側の弁護士から、退職届を提出していながら、争うのはけしからんという主張をされる場合もありますが、裁判官はまず相手にもしません。私の経験上、諭旨解雇が無効だが退職届を提出しているから退職届が有効で労働者の地位がないという判断をされたことはありません(諭旨解雇が有効=解雇に合理的理由があり社会的に相当だと判断されて敗訴したことはありますが、それは退職届を提出したことによるものではありません)。

退職金をもらったら
 諭旨解雇を通告されて、労働者が使用者の指示に従って退職届を提出すると、通常は、使用者は退職金を支払ってきます。
 諭旨解雇を争う場合、この退職金はどうするべきでしょうか。
 諭旨解雇を争う、つまり諭旨解雇が無効だと主張するのであれば、退職金は返すのが筋だといえそうです。しかし、諭旨解雇を争う以上は、諭旨解雇が無効で、労働者としての地位が維持されているという主張をするわけですから、諭旨解雇の日以降も賃金が発生し続けるわけで、退職金として支払われたお金は、この賃金に充てるといっておけば十分です。使用者側が、諭旨解雇は無効だから退職金を返せというのであれば、理論的にはその通りになりますが、その場合は、諭旨解雇は無効だという以上、労働者を復職させろということになります。ですから、通常、労働者が諭旨解雇を争って地位確認請求等の裁判を起こしても、使用者側が、退職金を返せと言ってくることはありません。もし言ってきたら、復職させるなら返すと言っておけばいいでしょう。
 諭旨解雇を争う場合、もらった退職金を手を付けずにおいておくという必要はありません。月々の生活費は退職金から出しても大丈夫です。何故かというと、退職金を返すことになるのは、解雇が無効となった場合です。解雇が無効になれば、使用者は労働者に対して解雇のときからの賃金を払わなければなりません。そうすると、解雇が無効となって退職金を返す場合は、それまでの賃金分は差し引いて返すことになります。ですから、月々の生活費分(毎月の賃金分)は、使ってしまっても大丈夫なのです。

退職勧奨との違い
 退職届を提出すれば懲戒解雇しないという諭旨解雇は、現実の場では、退職勧奨での使用者の言いぐさとあまり変わりません。しかし、法律論としては、退職勧奨の場合、退職を勧誘しているだけで、使用者側から一方的な処分として退職/解雇を決めて通告しているのではなく、それに応じて退職届を提出するのは、労働者側の任意の判断による退職だということになります。
 ですから、退職勧奨を諭旨解雇だと誤って判断して、退職届を提出しても後で争えると思って退職届を提出してしまうとたいへんなことになります。

諭旨解雇と言われたら、必ず文書をもらおう
 諭旨解雇の場合、あくまでも、懲戒処分として諭旨解雇が通告されたということがポイントになり、その確認が必要です。懲戒処分は、通常は、文書によりなされます。
 使用者から、諭旨解雇と思われる通告を受けた場合は、文書をもらって、その文書を持って弁護士に相談した方がいいと思います。
 少なくとも、使用者が文書を出さない場合は、それは諭旨解雇ではなく退職勧奨だと考えて対応すべき(つまり、やめたくなければ、後で争うという選択を残したければ、絶対退職届を出さないという姿勢で臨むべき)です。

   【労働事件の話をお読みいただく上での注意】

 私の労働事件の経験は、大半が東京地裁労働部でのものですので、労働事件の話は特に断っている部分以外も東京地裁労働部での取扱を説明しているものです。他の裁判所では扱いが異なることもありますので、各地の裁判所のことは地元の裁判所や弁護士に問い合わせるなどしてください。また、裁判所の判断や具体的な審理の進め方は、事件によって変わってきますので、東京地裁労働部の場合でも、いつも同じとは限りません。

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