◆活動報告:原発裁判(JCO臨界事故)◆
1 はじめに
1.1 報道以上に広範に行われていた違法操業
刑事記録を検討すると、JCOの違法操業は、報道されたレベルを大幅に超えた、きわめて広範なものであったことがわかる。JCOは、転換試験棟の許可前の時期から、転換試験棟に限らず、主力施設である第1加工施設棟、第2加工施設棟も含めてきわめて広範に違法操業を継続的・日常的に行ってきた。これまで政府事故調の報告書など、転換試験棟の操業が小規模かつ非定常で特殊なものであったことに重きを置く議論がなされてきたが、上記の点を考えれば的はずれに思える。
このような日常的な違法操業により幹部や作業員の遵法意識が薄れ、さらに新たな違法操業を生み出すということが繰り返されてきた。
許認可にない仮設の機器や配管を勝手に用いて作業をするということも、日常的に行われてきた。
バケツによる溶解も、非定常にはかなり昔から行われており、それが常陽第6次製造で再溶解に用いられると、後はさしたる理由もなく常陽第7次製造以降では粉末製造のための溶解や溶液製造の第1工程でも行われるようになった。これなど一度道を踏み外すと歯止めがきかない状態になっていったように思える。
そして沈殿槽のハンドホールからのウラン溶液の投入という行為も、第1加工施設棟でも、第2加工施設棟でも、そして転換試験棟でも、度々行われていた。ただこれまではこれほど高濃度のウラン溶液がこれほど大量に投入されることはなかったというだけである。
臨界事故の直接の原因となった硝酸ウラニル溶液7バッチ分の沈殿槽への投入は、それだけを取りあげれば突出した行為である。しかし、従前からの操業を見れば違法操業の延長と位置付けることができる。
1.2 規制当局(旧科学技術庁)の責任
このような違法操業が継続されたのは、それを規制当局が見過ごしてきたからである。規制当局の巡視の実態は後に詳しく分析するが、規制当局が違法操業を見過ごしてきたのは、時期も対象も予告して行う馴れ合い巡視に終始していたためと筆者は考える。
それに加えて、この時期を予告した巡視は今回の臨界事故の動機にも影響していると筆者は考える。動機については、従前言われていた作業を早く終えたかった、貯塔での混合均一化は作業性が悪かったとの点には多大な疑問が残る。むしろ規制当局の馴れ合い巡視のために10月7日に転換試験棟の巡視があることが知られており、巡視向けに仮配管の撤去・再設置という手間を避けるということが重要な動機と見られる。
1.3 原子力安全委員会の責任
JCOの転換試験棟の加工事業変更許可申請は、きわめて杜撰なものであったが、原子力安全委員会の安全審査も最低回数の3回の会合で通してしまった。筆者はJCO側の安全審査で遵守できない条件を付けられたことが違法操業の一因となったとの主張に与するものではない。そもそもこのような杜撰な申請は許可すべきでなかったと考える。
1.4 小括
その意味で、臨界事故の原因と責任はJCOとともに規制当局、原子力安全委員会にあると考える。なお、旧動燃(現核燃料サイクル開発機構)の責任については別の章で論じられる(別の人の担当部分なので、このサイトには掲載していません)。
1.5 このレポートの構成
このレポートは、JCOの違法操業の実態と国の責任を刑事記録上の証拠に基づいて論証することを主眼としている。そのため、具体的な事実を示すことに重点が置かれている。細かい事実に関心がない読者は、各項の冒頭に「はじめに」をおいてその項の要旨を記しておくので、その要旨と最後のまとめのみをつなぎ合わせて読むことも可能である。
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