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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   福島原発事故後の重大事故対策評価の基本的誤り

 福島原発事故後の原子力規制委員会の規制基準では、常設設備によって自動的に事故が収束できなくても、可搬設備を用いて運転員が積極的に正しく操作することで施設外への放射性物質漏洩を一定の基準(Cs137換算で100TBq)以下にすることができると評価されれば合格することにされています。原子力規制委員会や原発推進派は、世界最高水準などと自画自賛していますが、これはむしろ福島原発事故前の安全審査よりも考え方として後退し規制を緩和するものと考えられます。そのことを、福島原発事故の際の事実と六ヶ所再処理工場の適合性審査に表れた事実に基づいて論じます。

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 提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。
 この裁判の「被告」は、現在は、原子力規制委員会です。
 書証としてプラントエンジニアとして長い経験を持つ川井康郎氏の意見書を引用しています。これについては、現段階では掲載は見合わせます。

 ☆原告準備書面(138) 福島原発事故後の重大事故対策評価の基本的誤り

第1 はじめに
 福島原発事故前は、原子炉設置許可・再処理事業指定を通じて、重大事故対策の基本と安全審査基準は、常設設備により自動的に(運転員の操作を基本的に要せずに)事故を収束させ、敷地外の住民に多大な放射線被ばくをさせないというものであった。
 しかし、福島原発事故後、被告が定めた規制基準と、現在進めている「適合性審査」では、常設設備により自動的に事故を収束させることができなくても、運転員が積極的に介入して可搬設備により事故を収束させられ、敷地外に放出する放射能が基準(Cs137換算で100TBq)以下と評価されれば審査に合格させることとしている。
 被告の姿勢は、福島原発事故で、それまでの「仮想事故」評価が「非常に甘甘の評価をして」放射能が敷地外に出ないという結果になるように「相当強引な計算」をして安全審査を通してきたこと(当時の安全審査の最高責任者であった班目春樹原子力安全委員長の国会事故調での証言)が発覚して、立地審査指針が現実には守られていないことが誰の目にも明らかになると、被告が定める規制基準では従前の立地審査指針に当たるものを定めないことにしたことと同様、事業者がクリアすることが容易でない基準は廃止し、規制基準を福島原発事故前の考え方より緩和・後退させて再稼働を容認するというものである。
 本準備書面では、被告の規制基準の基本的な方向性について、福島原発事故における事実と、本件再処理工場の適合性審査で表れている事実に基づいて、その誤りを指摘する。

第2 運転員が正しく積極的に操作することを期待する誤り
 1 手順を決めていれば正しく操作できるという幻想

 福島原発事故では、格納容器圧力が高くなり格納容器が破裂する危険を回避するために格納容器ベントが実施された。そして、被告は、原子炉設置については、格納容器ベント操作がなされることを規制基準で予定している。
 福島原発事故前も、シビアアクシデント対策として、格納容器ベントが予定され、各原発で、そしてもちろん福島第一原発でも、格納容器ベントの手順は運転手順書に定められていた。しかし、以下の通り、現実には格納容器ベントを実施するまでに準備から丸1日以上、着手からでも数時間の時間を要した。1号機では3月11日夕方には既に中央操作室では格納容器ベントに備えて手順書で格納容器ベントに必要な弁及びその位置の確認などを行っていた。3月12日0時06分に発電所長が格納容器ベントの準備を進めるように指示し、12日9時04分にベント操作を行うため運転員が現場に出発し9時15分頃に電動弁を手順通り25%開としたが、空気作動弁の操作ができず、結局ベントができたのは同日14時30分頃であった。3号機では、3月12日17時30分に発電所長が格納容器ベントの準備をするよう指示した。13日4時50分頃空気作動弁を開けるために当該弁を強制的に励磁させたが、電動弁が開かず1回目の格納容器ベントができたのは同日9時20分頃であった。
 福島原発事故の際に、格納容器ベントの実施に苦しんだのは、電源喪失のためである。そして、被告は、その有効性の程度は置くが、電源喪失対策を求めている。被告(国)のやり方は、いつもそうであるが、福島原発事故で電源喪失(及び津波)が問題となればその点だけは新たな条件として設定するが、それだけである。事故というのは、想定外のことが起こるから事故なのである。福島原発事故では、国と東電が対策をとっていなかった全電源喪失が起こったから大事故が発生した。次に原発あるいは本件再処理工場で起こる事故がまたしても「電源喪失」であれば、うまくすれば被告のいう対策が功を奏するかも知れない。しかし、事故は被告が期待するとおりの内容で起こってくれるわけではない。電源喪失以外の想定外の(対策をとっていない)ことが起これば、やはり、運転員は手順書通りには操作をできない。福島原発事故で、運転員が手順書通りに操作できなかった事実を見ながら、運転員が「次は」手順書通りに操作できることを期待して規制基準を策定し適合性審査を進める被告の姿勢は、福島原発事故から何も学ばなかったに等しい。

 2 運転員の作業環境:放射性物質の「建屋内滞留」の誤り
 福島原発事故の際に、格納容器ベントの作業が進まなかった原因として、電源喪失に加えて、弁開放等の作業を行うべき場所の放射線量が高くなっていたことがある。
 本件再処理工場の事業指定変更許可申請・適合性審査においては、重大事故時に、セル排気系からの排気に異常な放射能を検知した場合にセル排気系を遮断して建屋排気系に排気を流しそれでも建屋排気系からの排気に異常な放射能を検知した場合には建屋排気系も遮断して、放射性物質を建屋内に滞留させるという措置が新たな対策の1つの目玉として挙げられている。しかし、これは運転員の作業環境(放射線量)を著しく悪化させかねない措置であり、その結果、被告が期待する運転員の介入を阻害しかねないものであるから、大きな誤りというべきである。
 本件再処理工場の適合性審査では、重大事故についても様々な資料が提出されているが、これまで(2015年8月28日まで)に出された資料では、唯一臨界事故に関してだけ、事故時の運転員の作業環境の放射線量の評価が提出されている(他の事故については、一切提出されていない)。臨界事故について、これまでに日本原電が資料を提出したのは、2015年1月26日の審査会合に提出された溶解槽における臨界事故と、プルトニウム溶液の誤移送による臨界事故のうち第7一時貯留処理槽への誤移送、低レベル無塩廃液受槽への誤移送の3ケースのみである。事故の拡大防止、放射能の放出防止のための作業に従事する運転員の作業場所の放射線量の評価は、事故内容・発生機器・事故経過により全く異なるから、日本原燃が資料を提出した3ケースでもそれぞれで全く異なっている。そのうち、低レベル無塩廃液受槽への誤移送での放射能放出防止対策の1つである「サンプリングベンチ隔離弁閉止」作業の作業場所の放射線量率は実に43mSv/h(43ミリシーベルト毎時)と評価されている。
 このサンプリングベンチ隔離弁閉止作業は、6人がかりで1時間かけて行うことが予定されている。
 運転員は、この作業だけでもかなりの被ばくを強いられることになる。
 福島原発事故では、3月11日21時51分、東京電力は1号機原子炉建屋への入域を禁止した(下は事故時の中央操作室のホワイトボード)。
 その際の線量は、直接にはガイガーカウンターの1000cpsであるが、これは線量計によって設定が異なるので確定的には言えないが、放射線量としては1mSv/h程度と考えられる。実際、その後23時時点の1号機原子炉建屋前の放射線量は1.2mSv/h、0.5mSv/hであった(下は事故時の中央操作室のホワイトボード)。
 このような事実を考えるとき、43mSv/hなどという放射線量の下で運転員が手順通りの作業をすることを期待してよいのであろうか。
 しかも、43mSv/hが作業環境の放射線量の上限であるとは限らない。日本原燃は、この放射線量をどのように計算・評価したのか、提出された資料には一切記載していない。日本原燃の計算・評価がどの程度信頼性があるのか、まるでわからない(被告は、審査会合でその点を質してもいない)のである。

 溶解槽の臨界事故の際の作業場所の線量率評価で、日本原燃が2014年2月19日に被告が密室で行った「ヒアリング」に提出した資料(↑上側の図)では、0.078mSv/hとされていたアクセスルートの線量率が、2015年1月26日の適合性審査(公開)に提出された資料(↑下側の図)では全く同じ場所同じ条件のはずなのに0.01mSv/h未満とされている。この点について、日本原燃はその変更の理由はもちろん、変更した事実さえ説明していない(被告もその点を全く問い質していない。現時点では、審議がこの部分に及んでいないためと善解しておく。今後の審議で厳しく追及していただきたい)。同じ場所同じ条件の放射線量評価が、非公開のヒアリングでの数字から公開の場である適合性審査での数字に変わるとき、何の説明もなく、さらには変更の事実さえ指摘されずに8分の1にも切り下げられているのである。プルトニウム溶液誤移送による臨界事故の評価に関しては、密室のヒアリング段階の資料は公開されていない。公開の場である適合性審査に提出された資料で43mSv/hもの放射線量率であった「サンプリングベンチ隔離弁閉止」作業の作業場所の放射線量率は、本当は一体どれくらいになるのだろうか。
 しかも、2015年7月6日の審査会合で明らかにされたところでは、臨界事故対象機器は23もあるにもかかわらず、日本原燃が放射線量評価を示したのはわずかに3機器に過ぎないのである。23機器全てについて、計算・評価の過程・根拠を明らかにして計算・評価すれば、これを遥かに超える高線量の作業があるかも知れないのである。
 さらに、現実の放射線量は、事前の計算・評価通りとは限らない。事故の規模、経過、その他の条件によって、全体の発生放射能量・漏洩量が異なりうるし、また局所的に高い放射線量の区域が出る可能性もある。特に臨界事故の場合、線量の時間的変化が激しいことも考えられる。このような予測困難な状況の下で、線量計を頼りにおっかなびっくり作業することになる運転員に対して、事前の放射線量評価での被ばく線量が緊急作業時の法令上の被ばく線量限度の100mSv以内であるという理由で、現場での作業が予定通りに進行すると期待することは、あまりにも楽観的というべきである。
 日本原燃の資料では、前述した通り、この作業場所の放射線量をどのように計算・評価したのか、一切記載されていない。資料の終盤にコンクリートによる中性子線の遮蔽についての条件設定だけが記載されているが、この放射線量が臨界発生場所から放出される中性子の線量のみで生じるとは考えがたい。低レベル無塩廃液受槽は地下3階に設置されているところ、コンクリートの床2層を経た地下1階のサンプリングベンチ隔離弁閉止作業場所が43mSv/hもの高線量となり、また図の右下の地下1階の可溶性中性子吸収材供給器接続作業場所が0.01mSv/h未満とされているのにそのほぼ真上の(したがって臨界発生場所から床1層分遠い)地上1階のサンプリングベンチ隔離弁閉止作業場所が8.5mSv/hとされている(臨界事故による中性子発生源との距離・コンクリート遮蔽の度合いと逆転している)ことから、臨界による中性子線のみならず、漏えいした放射性物質の寄与が相当あると考えられる。
 セル外の運転員の作業場所に放射性物質が漏えいするのは、本来は排風機により(排気を引かれて)負圧になっていることで漏洩を防止する構造であるものを、重大事故時にセル排気系を遮断してセルを正圧とすること、すなわち「建屋内滞留」という新たな措置こそが原因である(川井意見書2〜4ページ)。重大事故対策に従事する運転員を高線量の放射線に曝すことになる「建屋内滞留」は、愚策の極みというべきであり、このような対策を考案する日本原燃の無能さ、そしてもしもこれを容認するのであるとすれば被告原子力規制委員会の無能さを示して余りあるものである。
 この主張に対して、被告は、セル排気系からの排気、さらには建屋排気系からの排気の放射線量が異常に上昇してしまった場合にそれをそのまま排気筒から放出するよりも建屋内に滞留させた方がいいだろうと言うかもしれない。しかし、プラントエンジニアとして長い経験を有する川井康郎氏が指摘するように、セル排気系からの漏えいに対処するのであれば、大容量のバッファタンク(汚染排気一時貯槽)を設けてセル排気系からそちらへと導出する構造にすれば、建屋外への放射能の放出も避けられ、建屋内への放射能の漏えいも相当程度防止できることになり、運転員の作業環境の放射線量も低い状態が維持できることになる(川井意見書7ページ)。日本原燃と被告がその対策を講じないのは、ひとえに金がかかるから、である。日本原燃と被告のこの姿勢は、安全性より経済性を優先させて福島原発事故を引き起こした東京電力の姿勢と同じである。

第3 可搬設備に頼ることの誤り
 1 常設設備による対策を欠く溶解槽以外の臨界事故
 臨界事故対策として、本件再処理工場の溶解槽には、臨界事故が発生したときに臨界事故を速やかに収束させるための「可溶性中性子吸収材緊急供給系」という常設設備が設けられている。しかし可溶性中性子吸収材緊急供給系は、溶解槽以外には設置されていない。
 福島原発事故前の原子力安全委員会の安全審査では、溶解槽以外では臨界事故が起こりえないこととされていた。福島原発事故後、日本原燃は事業指定変更許可申請と適合性審査で、溶解槽の臨界事故の他にプルトニウム溶液誤移送による臨界事故として第7一時貯留処理槽、低レベル無塩廃液受槽への誤移送による臨界事故を挙げ、臨界事故を3ケースとした。被告は、臨界事故が対象とされた最初の適合性審査会合である2015年1月26日の審査会合で、臨界事故対策の対象をこの3ケース(3機器)に限定した日本原燃の姿勢を批判し、この3ケース以外で臨界事故が起こりえないという説明が不十分であると追及した。この点は、高く評価できる。
 被告の指摘を受けて、日本原燃は、2015年7月6日の適合性審査会合で、臨界事故が発生しうる臨界事故対策対象機器が23機器に上ることを明らかにした。しかし、その23機器のうち溶解槽以外には、常設設備である臨界停止装置(可溶性中性子吸収材緊急供給系)はなく、それらの機器については臨界停止は始めから可搬式の「可溶性中性子吸収材供給器」によることとされる。
 福島原発事故以前の考え方をとれば、23機器で臨界事故が発生しうると評価する以上、それら全てに常設設備による臨界停止装置を設けるということになったはずである。23機器で臨界事故が発生する可能性があると認めながら、溶解槽以外には常設設備による臨界停止装置を設けないという日本原燃の姿勢は、福島原発事故以前の安全審査の考え方によれば許されないはずである。
 被告の立場でも、建前では、常設設備で重大事故を防げない場合にはそれに加えて可搬設備による防止を考えるということのはずである。被告が、もし、常設設備による事故対策をそもそも必要としないというのであれば(被告は、この点については、これまでの審査会合で、全く批判していない)、まさしく福島原発事故前よりも規制基準を緩和するものである。

 2 可搬設備による対策の貧弱さ・不安定さ
 被告と日本原燃によって「可溶性中性子吸収材供給器」と名付けられた、臨界事故対策の要となる「可搬設備」は写真のようなバケツとホースである。
臨界事故が発生すると、運転員がこれを保管場所まで取りに行き、配管接続場所まで運び、配管に接続して、バケツに注いだ可溶性中性子吸収材(ガドリニウム)を臨界が発生している槽に注ぐというのである。すなわち、この可搬設備による対策は、運転員の積極的な操作を要する上に、相当な時間を要するものである。
 常設設備の可溶性中性子吸収材緊急供給系であれば、このような保管場所まで取りに行き接続場所まで運搬し配管に接続するという運転員の操作を要せずそれにかかる時間も要せずに、対象機器に可溶性中性子吸収材を注入できる。どちらの対策が優位であるかは言うまでもなく、特に臨界事故のような展開の速い事故ではこの差が致命的になることも充分に考えられる。
 さらに、「可溶性中性子吸収材供給器」の設置、すなわちバケツに差し込んだホースを配管に接続するにあたり、間違った配管に接続した場合には、何ら臨界事故収束に役立たないまま事故を進展させることになり、差し込んだホースが抜けてしまえば、可溶性中性子吸収材が注入されないことにもなる。
 このような不確かな運転員の積極的操作に、重大事故が防止できるか、大規模な放射性物質放出を回避できるかを賭ける被告の姿勢は、周辺住民の生命・健康を軽んじ弄ぶものというべきである。
 運転員の操作と「可搬設備」という金のかからない対策で、形式上は、予定通りに行けば重大事故を収束させられることにして、合格させようとする被告の姿勢は、「非常に甘甘の評価をして」放射能が敷地外に出ないという結果になるように「相当強引な計算」をして形式上基準をクリアしたことにしていた福島原発事故前の原子力安全委員会と同じものである。

第4 HEPAフィルタへの依存の誤り
 1 放出量評価のトリック

 福島原発事故前の安全審査が、敷地外の被ばく線量を相当に低くなるように評価していた、班目春樹原子力安全委員長が認めた「非常に甘甘の評価」と「相当強引な計算」の正体は、放射性物質の発生量自体を低く評価するとともに、放射性物質の気相への移行率を低く評価し、配管や壁への沈着率を高く評価する、という数字の操作にあったが、その最後の砦はHEPAフィルタであった。どんな大事故の際にも、HEPAフィルタは健全で、HEPAフィルタによって放射性物質が99%除去されるという前提で評価するために、どんな大事故を想定しても敷地境界での放射線量は、安全審査での評価上は低く抑えられた。
 そのことは、現在行われている適合性審査でも同じである。日本原燃は、臨界事故でだけはHEPAフィルタの放射性物質除去率を95%にしたが、それ以外の事故パターンでは、福島原発事故前と同じ99%除去で計算している。

 しかも、日本原燃が適合性審査(2015年1月26日の審査会合)に提出した溶解槽における臨界事故の評価(↑下側の表参照)では、HEPAフィルタによる放射性物質除去率を従前の99%から95%にした(普通に考えればこれにより放出量の評価は5倍になるはず)にもかかわらず、希ガス・ヨウ素以外の放射性物質の放出量は、事業指定申請時の評価(↑上側の表参照)の約半分になっている。日本原燃は、適合性審査に提出した評価では、希ガス・ヨウ素以外の放射性物質の気相への移行率を、一律に事業指定申請時の評価の10分の1にしているのである。このような数字のトリックにより、班目春樹原子力安全委員長が「非常に甘甘の評価」「相当強引な計算」と国会事故調で証言した福島原発事故前の「仮想事故」評価よりも、もっと「甘甘」な数字を、日本原燃は被告の「適合性審査」に平然と提出しているのである。
 被告が、この評価を認めるか否かはまだ確定していない。しかし、これが認められるのであれば、福島原発事故以前と同じ「非常に甘甘の評価」と「相当強引な計算」を支える数字のトリックが、福島原発事故後もなお認められることになる上に、放出してよい放射能量は100TBqと大幅に緩和されたのであるから、重大事故評価もまた、福島原発事故前よりも事業者にとって楽になったというべきである。

 2 HEPAフィルタの信頼性
 HEPAフィルタは、原子力以外の一般産業でも用いられているものであり、ガラス繊維による濾紙のようなものである。
 プラントエンジニアとして長い経験を持つ川井康郎氏は、HEPAフィルタの仕様、特に許容風量、許容吸着量が原子力施設の重大事故時を想定した仕様となっているのかについて疑問を呈している(川井意見書8ページ)。また、重大事故時には、その許容吸着量等の限界から、事故進展中の交換が必要となる場合が考えられるが、その際の放射線量(フィルタ自体も放射線源となる)から交換が困難となること、ダクトフランジ部からの放射性物質の漏えいによる作業場所の放射線量の増大によってフィルタ交換のために運転員が接近することも困難となり得ることも指摘されている(川井意見書8〜9ページ)。
 さらに、爆発事故では、当然にHEPAフィルタの損傷等が生じることになり、HEPAフィルタによる放射性物質の除去は期待できない。動燃(当時)のアスファルト固化処理施設の爆発事故ではHEPAフィルタは裂けたし、同事故や福島原発事故のように建屋自体が損傷してしまえばHEPAフィルタを通らずに放射性物質が漏えいしていくことになる。
 あらゆる事故についてHEPAフィルタによる放射性物質の除去を期待することは、楽観的というよりも悪い冗談というべきである。

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