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  ◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
   航空機落下確率評価の誤り

 原子力規制委員会は、航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮する必要があるかについて、今なお原子力安全・保安院時代(2002年)に策定した航空機落下確率評価基準を用いて評価しています。この評価基準では、パイロットの回避操作や原子力施設上空の飛行制限があることを考慮することとされていますが、2018年2月20日の小川原湖へのF16からの燃料タンク投棄の事例を見ても米軍機のエンジントラブル時に回避操作は期待できませんし、2018年1月18日・2月23日の普天間第二小学校上空の飛行の事例を見ても、米軍は飛行制限を守らない上、日本政府が飛行を確認しているのに平然と上空の飛行を否認していて、飛行制限の取り決めがあるから落下確率を低く評価することはできません。そして、航空機落下確率評価基準を正しく適用して六ヶ所再処理工場への軍用機の落下確率を評価すると、現時点で 9.6×10−8となって、基準の10−7までわずか4%の余裕しかありませんし、2019年1月20日までに自衛隊機か米軍機が1回訓練空域外の日本の陸地に墜落すると、10−7を超えることになります。そうなると、航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮していない六ヶ所再処理工場は、規制基準を満たさないことが明白ですので、事業指定は取り消すべきことになりますし、稼働は許されません。
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 提出した準備書面の内容を基本的にそのまま掲載します。
 この裁判の「被告」は、現在は、原子力規制委員会です。

 ☆原告準備書面(158) 航空機落下確率評価基準の誤りと六ヶ所再処理工場へのあてはめについて

第1 はじめに
 被告は、従前から、原子力施設への航空機の落下事故について、パイロットによる回避操作が期待でき、原子力施設上空の飛行制限があることから、原子力施設への航空機落下の可能性は低いと主張し、福島原発事故前の原子力安全・保安院時代の「内規」である航空機落下確率評価基準を用いた計算により、本件再処理工場について航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮する必要がないとする日本原燃の主張を容認しようとしている。
 本準備書面では、近時発生した事故等に基づき、軍用機の飛行中のトラブルの際は回避操作など期待できず、米軍は飛行制限など守らないことから、被告主張の回避操作や上空の飛行制限は本件再処理工場への航空機墜落確率を低減せず、そのようなことを期待する被告の審査基準自体が不合理であること、現在は、被告の審査基準を適用しても本件再処理工場が航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮すべき水準にあることを指摘する。

第2 航空機落下確率評価に関する被告の主張
 被告は、被告準備書面(39)において、「原子力施設付近の上空の飛行については、できる限りこれを避けるよう国土交通省及び防衛省から運行者に指導等がされているとともに、航空法81条ただし書きに規定する最低安全高度以下の飛行についての許可は行われないことになっている。また、航空機の機長は、航空法73条の2に基づき、出発前に航空情報を確認しなければならないこととされ、当該航空情報の記載される航空路誌(AIP)には、原子力施設の場所及びその概要が含まれているため、原子力施設付近上空の飛行をできる限り避けるよう周知徹底が図られている。さらに、航空機の機長は、航空法75条に基づき、地上又は水上の人又は物件に対する危難の防止に必要な手段を尽くさなければならないこととされている(以上につき、乙E第15号証・解説−2,3ページ)。以上を踏まえると、再処理事業指定(変更許可)に係る基準への適合性審査においては、原子力施設への航空機落下を防止するための航空法の規定や行政指導等を勘案しつつ、航空機落下の確率を評価するのが合理的であるといえる。」と主張している(同準備書面8ページ)。
 結局、被告は、福島原発事故後においてさえ、航空機落下については2002年に定めた原子力安全・保安院時代の「内規」をそのまま用い続け、パイロットの回避操作や原子力施設上空の飛行制限が守られることを期待し、それを航空機落下確率の評価上考慮することを許容しているのである。
第3 回避操作は期待できるか:F16エンジン火災事故と燃料タンク投棄
 2018年2月20日午前8時40分頃、米軍三沢基地所属のF16戦闘機のエンジンが離陸直後に出火した。同機は基地北西側の小川原湖に補助燃料タンク2個を投棄し、約3分後に基地に引き返して着陸した。タンクの投棄地点の周辺では漁船がシジミ漁をしており、小川原湖漁協によると、最も近い漁船は約200メートルしか離れていなかった。(以上につき2018年2月20日付(紙面では21日付)毎日新聞記事
 燃料タンクの投棄があった日、小川原湖には約100隻の漁船が漁に出ていた(2018年2月22日付産経新聞記事
 投棄されたタンクは空の状態で約215キログラムあり、最大約1400リットルの燃料を搭載できる(2018年2月20日付毎日新聞記事)。離陸直後であるから相当量の燃料が搭載されていたことが容易に推認できる。落下地点では高さ約15メートルの水柱が上がったという(2018年2月20日付毎日新聞記事)。当然、人に当たれば生命の危険がある。
 米軍側は「人けのないことを確認し」て投棄したと述べている(2018年2月20日付毎日新聞記事)が、飛行中の航空機から見た地上の約200メートルが十分離れているとすることには感覚的にも無理があり、秒速数百メートルで飛ぶ戦闘機にとっては、投棄のタイミングが1秒程度ズレただけで落下地点は200メートル以上変わってしまうのである。しかも、眼下の湖に約100隻もの漁船が散在していたのであるから、それを視認した上で漁船に危害を加えずに投棄できると判断したとは考え難い。
 小川原湖のシジミ漁で小川原湖漁協は1日あたり約300万円の収入をあげていたが、小川原湖に燃料タンクが投棄されたことで、シジミ漁は全面禁漁となり、大きな経済的被害が発生している(2018年2月22日付産経新聞記事)。
 このように、米軍機で飛行中にエンジントラブルがあれば、地上にいる者の人命に対する危険があっても、また大きな経済的被害が予想されても、慎重に配慮されることはなく、米軍側の事情が優先されている。こういった事実に鑑み、飛行中のエンジントラブル等の事態があった場合、本件再処理工場の損壊や火災等の被害発生のおそれがあったとしても、十分な回避措置など到底期待できないというべきである。
第4 上空の飛行制限は守られるか:普天間第二小学校の上空飛行
 2017年12月13日の普天間第二小学校の校庭への米軍ヘリの窓落下事故を受けて、防衛省と在日米軍は普天間第二小を含む全ての学校上空の飛行を最大限、可能な限り避けることを申し合わせていた(2018年1月19日付時事通信配信記事)。
 ところが、2018年1月18日午後1時25分頃、米軍ヘリ3機が普天間第二小学校上空を飛行し、それを防衛省沖縄防衛局の監視員が目視し、普天間第二小学校に設置したカメラでも確認した(同記事)。小野寺防衛相は在日米軍副司令官に抗議し、菅官房長官も「普天間第二小学校の校庭がいまだに使えない状況であり、米側に学校上空を飛行しないよう強く求めている中で、このような事案が発生したことは極めて遺憾だ」と記者会見で述べている(同記事)。それにもかかわらず、米軍側は、上空の飛行を否認した(同記事)。
 さらに、同年2月23日午後3時半頃、またしても米軍ヘリが普天間第二小学校上空を飛行し、それを防衛省沖縄防衛局の監視員が目視し、普天間第二小学校に設置したカメラでも確認した(2018年2月24日付朝日新聞記事)。このときは、米軍も上空の飛行を認めた(同記事)。
 米軍は、日本政府との間で、上空を飛行しないという申し合わせをしても、お構いなしに上空を飛行し、日本政府が上空の飛行の事実を目視とビデオカメラで確認していても、上空を飛行した事実を平然と否認するのである。
 このような事実からして、米軍が原子力施設上空の飛行制限を守ることを期待することはできず、そのような前提に立つ航空機落下確率評価基準は、基準自体が不合理というべきである。

第5 航空機落下確率評価基準の本件再処理工場へのあてはめ
 1 航空機落下確率評価基準の軍用機落下確率評価方法

 被告が福島原発事故後においても引き続き用いている原子力安全・保安院時代に策定された航空機落下確率評価基準においては、自衛隊機または米軍機の落下事故としては、結局のところ、訓練空域外での落下事故の確率のみが考慮されることになり、過去20年間の日本国内の陸地に墜落した事故(海上への落下事故は考慮しない:被告準備書面(33)19ページ等参照)を自衛隊と米軍について別々にカウントし、1年あたりの落下事故回数を訓練空域以外の国土面積で割り、それに本件再処理工場の「標的面積」を掛けて、自衛隊機分と米軍機分を合算して落下確率を評価することとされている。

 2 日本原燃の評価
 日本原燃は、本件再処理工場の最大標的面積を0.04平方キロメートルとし、自衛隊機の過去20年間の墜落事故回数を7回、自衛隊訓練空域以外の日本の国土面積を295,675平方キロメートル、米軍機の過去20年間の墜落事故回数を5回、米軍訓練空域以外の日本の国土面積を372,410平方キロメートルとし、その結果、墜落確率を (7÷20÷295,675+5÷20÷372,410)×0.04=7.5×10−8 と計算して、10−7未満であるから基準を満たすとしている(2017年6月22日付「航空機落下確率の再評価について」17ページ)。
 日本原燃の評価は、訓練空域外落下事故率(回/年)と、全国土面積から全国の陸上の訓練空域の面積を除いた面積は2016年6月付「航空機落下事故に関するデータ」(原子力規制委員会)によると明記しており(2017年6月22日付「航空機落下確率の再評価について」17ページ)、日本原燃の評価でカウントされている自衛隊機及び米軍機の落下事故(自衛隊機7回、米軍機5回)は次のとおりである(2016年6月付「航空機落下事故に関するデータ」49〜56ページ)。これらの事故は、1993年1月から2012年12月までの20年間のものである(2016年6月付「航空機落下事故に関するデータ」1ページ)。
《自衛隊機の「対象事故」》
 NO 発生日  離陸場所  発生場所  種類  機種 
  1  1997.1.13  北宇都宮駐屯地  鬼怒川河川敷  回転翼機  OH-6D
  2  2001.2.14  木更津駐屯地  市原市竹林  回転翼機  OH-6D
  3  2002.3.7  高遊原分屯地  万年山山頂南東  回転翼機  OH-6D
  4  2004.2.23  明野駐屯地  青峰山南東  回転翼機  AH1S
  5  2005.4.14  新潟空港  御神楽岳斜面  小型固定翼機  MU-2
  6  2005.9.18  相浦駐屯地  相浦駐屯地  回転翼機  AH1S
  7  2007.3.30  那覇空港  徳之島天城岳  回転翼機  CH-47JA

《米軍機の「対象事故」》
 NO 発生日   離陸場所 発生場所  種類  機種  
  1  1994.10.14  米空母  吉野川  固定翼機  A-6
  2  1999.1.21  三沢基地  釜石市山林  固定翼機  F-16
  3  2004.8.10  米空母  北硫黄島  固定翼機  S-3
  4  2004.8.13  普天間基地  沖縄国際大学  回転翼機  CH53D
  5  2008.10.24  奄美空港  名護市畑  固定翼機  セスナ

 3 日本原燃の評価の誤り
 被告は、上記日本原燃の評価を無批判に受け容れる様子であるが、日本原燃の評価は、被告が審査基準として用いている航空機落下確率評価基準を適用するとしても、以下の2点で誤りというべきである。
 まず第1に、被告が審査基準として用いている航空機落下確率評価基準は、直近の20年間において国内で発生した事故事例を対象とするのであるから、現時点においては、1998年3月から2018年2月までの20年間の事故を対象としてカウントすべきである。そうすると、自衛隊機及び米軍機で各番号1番が対象外となる一方で、自衛隊機について次の事故が追加して対象となるはずである(番号8の事故について2015年2月13日付日本経済新聞記事、番号9の事故について2016年4月8日付(紙面は9日付) 毎日新聞記事、番号10の事故について2017年5月16日付(紙面は17日付)毎日新聞記事、番号11番の事故について2018年2月5日付(紙面は6日付)朝日新聞記事)。
 NO  発生日  離陸場所  発生場所  種類  機種
  8  2015.2.12  鹿屋基地  えびの市山中  回転翼機  OH-6D
  9  2016.4.6  鹿屋基地  御岳山頂東側  固定翼機  U-125
 10  2017.5.15  丘珠空港  北斗市山中  固定翼機  LR-2
 11  2018.2.5  目達原駐屯地  神埼市住宅街  回転翼機  AH-64D
 第2に、自衛隊機の番号3の事故は、ヘリ2機の衝突によりヘリが2機とも墜落しているから、墜落は2回と評価すべきである。
 この2点を補正すると、直近20年間の対象事故回数が自衛隊機11回、米軍機4回となるため、被告が審査基準として用いている航空機落下確率評価基準に基づく本件再処理工場の自衛隊機及び米軍機の墜落確率は、(11÷20÷295,675+4÷20÷372,410)×0.04=9.6×10−8 であり、審査基準において航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮すべきとされている水準の10−7まで、わずかに4%しか余裕がない状態にある。
 そして、今後、2019年1月20日までの10か月あまりのうちに、あと1回(あるいは、2021年2月13日までの3年近い期間に2回)、自衛隊機か米軍機が日本国内の陸地に墜落すると、被告が審査基準として用いている航空機落下確率評価基準の計算上、本件再処理工場は航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮すべき水準を超えることとなるのである。(注:例えば「緊急着陸」という報道が批判されている2017年10月11日の米軍ヘリ CH53 の高江での炎上事故(同日付(紙面は12日付)日本経済新聞記事)が「墜落」と評価されれば、現在すでに10−7を超えていることになる)
 被告は、このような状態でも、本件再処理工場を、航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮する必要がない施設として、適合性審査を通すつもりであろうか。
第6 まとめ
 以上に述べたとおり、被告が審査基準として用いている航空機落下確率評価基準は、その内容において不合理な点があり、同時に本件再処理工場は、被告が審査基準として用いている航空機落下確率評価基準を前提としても、航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮する必要がある施設と評価すべきである。それにもかかわらず、本件再処理工場においては航空機落下を「想定される外部人為事象」として設計上考慮していないのであるから、本件再処理工場は災害の防止上支障があるというべきであり、本件事業指定処分は取り消されるべきであって、本件再処理工場を稼働させることは許されない。
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