◆活動報告:原発裁判(六ヶ所)◆
再処理工場の一般共同溝不適合工事に関する調査嘱託
六ヶ所再処理工場で、2015年9月以降、一般共同溝で配管のサポートを固定する埋込金物の浮き上がり等の不適合工事が発覚しました。
この問題についての日本原燃のプレス発表
原告らは、2015年12月4日の口頭弁論で、これに関する調査嘱託(日本原燃に対し、不適合工事の内容と原因等について回答するように求めたもの)の申立をしましたところ、被告(原子力規制委員会)は、2016年3月11日の口頭弁論期日に調査嘱託に反対する意見書を提出しました。
そこで、原告らは、以下の意見書を、2016年6月3日の口頭弁論に提出して反論しました。
これを受けて、裁判所は、2016年6月3日の口頭弁論期日に、原告らの求める事項のうち日本原燃がすでに調査済みのものはその調査内容・調査結果を回答し、調査していないものは調査していない旨の回答をするという趣旨で、原告らの調査嘱託を採用しました。
被告(原子力規制委員会)は、反対の意見書を提出して日本原燃の回答を避けようとし、この日の口頭弁論でもさらに意見書を出すと述べて引き延ばしを図り執拗な抵抗をしましたが、裁判所に退けられました。原子力規制委員会がなぜここまで不適合工事についての日本原燃に回答させることを避けたがるのか、その姿勢が問われます。
☆ 調査嘱託申立理由補充書
第1 はじめに
原告らの2015年12月4日付調査嘱託申立書(本件再処理施設の一般共同溝における不適合工事関係)に対し、被告から平成28年3月4日付の意見書が提出されたことに鑑み、調査嘱託の必要性等について、理由を補充する。
第2 技術的能力について
1 被告の主張
被告は、再処理事業指定の要件である技術的能力については、被告意見書2(2)アにおいて、「再処理の事業を行おうとするものがそれに必要な組織、要員を確保しうるかなどの点を中心に,人的、組織的な面から事業者としての適格性を有するか否かを審査するものである」と主張し、現実の個別の不具合事例は技術的能力の判断に関係がない旨主張している。
2 被告の主張の誤り
被告は、科学技術庁、原子力安全・保安院、原子力安全委員会時代を通じて、原子炉等規制法の技術的能力の審査では、専ら技術者の頭数を形式的に確認するのみであった。
しかし、原子炉等規制法には、技術的能力は技術者の頭数で審査するなどということはどこにも記載されていない。原子炉等規制法は、「その事業を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」を要件としているのであり、技術者の頭数がそろっていれば許可してよいなどとはしていない。被告の主張は、被告の勝手な誤った解釈に過ぎない。
被告の主張に従えば、どれだけ法令違反を繰り返しても、どんな事故を起こしても,技術者の頭数がそろっていれば技術的能力があることになる。虚偽報告を繰り返し、福島原発事故を引き起こした、世間一般の常識では、到底原子力施設を運転する技術的能力など認めがたい東京電力にも、被告は柏崎刈羽原発の再稼動を容認しようとしている。
2002年に、東京電力が、炉心シュラウドや再循環系配管のひび割れ隠しのために、長年にわたり繰り返しデータや検査報告書を捏造し、検査官にニセビデオを見せてまでひび割れの発覚を妨げてきたことが発覚したとき、このような悪辣な事業者には、技術的な能力がないと判断して原子炉設置許可を取り消していれば、福島原発事故は防げた。行政からさえ、繰り返し津波対策を求められながら津波対策を怠り先送りし続けた東京電力に対して、このような安全無視・経済優先の事業者には技術的能力はないとして原子炉設置許可を取り消していれば、福島原発事故は未然に防げた。
それにもかかわらず、原子炉等規制法をねじ曲げて、技術的能力は、「人的、組織的な面」言い換えれば技術者の頭数で判断すると、技術的能力の判断を極めて矮小化、形式化し、事業者を甘やかし便宜を計り続ける、そういった被告(前身の科学技術庁、原子力安全・保安院、原子力安全委員会を含む)の姿勢こそが、福島原発事故を引き起こした元凶であり、これからも事業者に媚びて便宜を図り、まるで福島原発事故などなかったかのような信じがたい安易さで原子力施設の再稼動を自動販売機のように容認していくことによって、第2,第3の福島原発事故を引き起こすことを予測させるものである。
第3 審査対象論(基本設計/詳細設計)について
1 被告の主張
被告は、意見書の2(2)イにおいて、安全審査の対象は基本設計に限られる(伊方原発訴訟最高裁判決)から、具体的な工事の不具合は基本設計に含まれず、本訴の審理対象外である旨主張している。
2 被告の主張の誤り
被告の主張は、原子力施設の許可に係る訴訟での被告の前身である国側のかつての主張と矛盾するものであり、これを隠蔽しようとするものである。
かつて、原子炉の安全審査において、圧力容器の照射脆化の問題は基本設計の中心的な事項であり、これが基本設計に属することは疑いの余地もなかった。ところが、東海第二原発訴訟の第2審において、安全審査で用いられた照射脆化の予測式が科学的に誤りであることが完全に立証された(国側は住民側申請の専門家証人に対して、ほとんど反対尋問もできなかった)後、国側は突然、圧力容器の照射脆化問題は運転管理段階においても対応できるなどと主張し、基本設計の問題ではないなどと言い始めた。
被告のこの主張は、全く恥知らずというほかないが、このような被告の論理からすれば、詳細設計以降の段階で対応できるものは基本設計ではなくなり、その反面として詳細設計以降では対処できない問題は基本設計段階で対応すべきこととなる。つまり、基本設計の範囲は、詳細設計以降の実情により流動するということになる。
そうすると、最終的に弁論終結後において裁判所が判断する対象としての基本設計の範囲が、どこまでかを判断するには、審理の過程で、詳細設計以降の実情を把握しておく必要があることになる。
したがって、審理の過程において、一見詳細設計以降に属し、一見基本設計の問題ではないと見える事項についても、審理の俎上に載せる必要があるというべきであり、一見詳細設計以降の事項に見えるからといって証拠調べの必要性がないとする被告の主張は失当である。
第4 容易に調査可能な事項について
1 被告の主張
被告は、意見書2(3)において、調査嘱託は、容易に回答できる事項に限られるべきであるから、本件調査嘱託申立は不適切であると主張している。
2 被告の主張の誤り
調査嘱託においては、通常は、訴訟に利害を有しない第三者への嘱託を想定しており、負担が過度の調査嘱託が相当でないという配慮はあり得る。
しかし、本件調査嘱託先は、第三者ではなく、本訴の対象施設である再処理工場の設置運転事業者である日本原燃が調査嘱託先であり、再処理工場の巨大な潜在的危険を併せ考えれば、その不適合工事に関する調査嘱託で、嘱託先の負担を配慮する必要はそもそもないといってよい。
そして、被告は「手元の資料によって容易に回答できない」などとしているが、原子力施設であり、潜在的危険が極めて大きい再処理工場において不適合工事が発覚したというのであるから、日本原燃に原子力事業者としての自覚がほんの少しでもあれば、原告らが申し立てている程度の調査事項は、当然に日本原燃において調査済みであるはずである。この程度のことがらを不適合工事発覚から半年以上も経ってなお調査していないとしたら、まったくもって驚きである。
仮に、日本原燃が、原告らが回答を求めている程度の事柄さえ今なお調査していないのであれば、被告が行うべきことは調査嘱託に反対することではなく、日本原燃を叱責し調査を促すことである。これを行わずに、日本原燃の隠蔽を許す態度に出るのでは、被告は規制当局の名に値しないと言わざるを得ない。
☆ 調査嘱託申立書 調査事項
(1)調査対象の埋込金具について説明
「再処理施設全数の埋込金具(48.3万枚)の健全性確認を再度実施」とあるが、
ア.これら対象金具についての具体的な説明を求める。
すなわち、金具のタイプ、固定方式(溶接、ボルト、埋め込み等)ごとに分類し、それぞれの数量を明確にされたい。それぞれ分類についてスケッチがあれば一層理解が深まるので添付されたい。
イ.それらの施工の時期と施工者を明示されたい。
ウ.分類項目中でこれまでに不適合が発見された箇所、不適合の態様、発見時期、発見に至る経緯、なぜ発見が遅れたのかその理由を特定されたい。
エ.上記不適合箇所の中に、運転開始以降、高被ばく線量のために検査にアクセスすることが困難な箇所があるのではないかと推測されるが、当該箇所及び線量を上記分類に合わせて特定されたい。
オ.上記分類項目中で耐震重要度分類Sクラスにかかる対象箇所と、それらの設計上の耐震裕度を明らかにされたい。
(2)点検・検査・補修計画について
ア.過去の点検・検査記録の保管状況、点検・検査方法の具体的実情、どの点が不十分だったかを明らかにされたい。
イ.不適合工事の点検・検査はどのような体制で行うのか。チーム構成員数と組数・検査者・確認者・承認者・第3者機関が誰であるかを示した体制表、およびその工程表を提示されたい。
ウ.点検・検査の進行状況について「2003年に実施した埋込金具健全性点検で記録不十分に分類された埋込金物(約15.7万枚)について、超音波試験(UT測定)を行う」と記載されているが、その検査体制および工程表を提示されたい。とくに超音波検査は資格が必要であるが、検査会社名とその体制も明らかにされたい。
エ.点検・検査後の補修計画(点検・検査時に併せて処理が可能なものは除く)、とりわけ、アクティブ試験終了後の高線量区域における補修計画を具体的に明示されたい。
(3)品質管理体制について
このような検査漏れが存在するということは、施工時の検査が杜撰であったと思われるが、施工時の検査体制、すなわち施工者側の組織、発注者側が設置した検査会社の組織、発注者自体の検査組織を明らかにすると共に、本件工事において不適合が発生した原因、ならびに、現在実施中の検査体制に反映された改善点を説明されたい。
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