庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

    ◆刑事事件の話
  保釈について

 公判請求をされた後、身柄拘束が続いている被告人は保釈請求をすることができます。
 身柄拘束を受けてる人にとっては早期の釈放が、いちばん切実な要求ですから、被告人は保釈に強い関心を持っています。しかし、日本での現在の保釈の運用は、被告人に厳しいものです。

  法律の規定では保釈は権利

 法律上は、保釈は被告人の「権利」とされています。裁判所は次の場合以外は保釈を認めなければならないとされています。
  1 被告人が重罪(法律上の刑の最低ラインが1年以上の犯罪)で起訴されているとき
  2 被告人が過去に一定の罪(法律上10年以上の刑にし得る犯罪)の前科があるとき
  3 被告人が一定の罪(法律上3年以上の刑にし得る犯罪)の常習犯であるとき
  4 被告人が証拠隠滅をすると疑うに足りる相当な理由があるとき
  5 被告人が被害者や証人を脅迫すると疑うに足りる相当な理由があるとき
  6 被告人の氏名・住所がわからないとき

  しかし、日本での運用は・・・

 ところが、裁判所は、被告人が起訴された事実について否認している場合や検察官の提出する証拠にすべて同意するとは限らないと、証拠隠滅をすると疑うに足りる相当な理由があるという扱いをします。
 日本の現在の裁判所の扱いでは、ほとんどのケースについて証拠隠滅のおそれがあるとして、被告人の権利としての保釈を否定した上で、裁判所の裁量(さいりょう。自由に決められること)で保釈を認めるということになります。
 弁護人が、保釈のために裁判官との面接に行きますと、裁判官から、公判で事実を争うのか、検察官の提出する証拠書類に同意する予定かどうかを聞かれます。ここで争うと言うと、ほとんどの場合、保釈は認められません。これは被告人にとっては、早期に釈放されたければ、起訴された事実を全面的に認めろという圧力になります。弁護士会は、このような裁判所の運用は、人質司法(ひとじちしほう)だと強く批判してきました。
 そもそも保釈面接の時点では、検察官の提出する予定の証拠書類は弁護人にまだ開示されていません。争う予定のない事件であっても、本来、まだ内容を見てもいない証拠に同意するかどうかなど答えようがありません。
 このような裁判所の運用は、起訴前の段階でも弁護人を厳しい状況に追い込むことがあります。端的に言うと、起訴されても執行猶予判決間違いなしの事件の場合、被疑者から、実際とは違っても捜査官のいうとおりに認めて裁判でも争わず早く釈放されたいと言われることがあります。このような場合、弁護人としては事実は大事だということを話しますが、被疑者の気持ちもよくわかりますので大変辛い思いをします。

  保釈の手続とスケジュール

 保釈申請をする場合、親族などから身柄引受書を取った上で、まず裁判所(東京地裁の場合令状専門部である刑事第14部)に保釈申請書を出します。裁判所は起訴後でなければ受け付けてくれませんが、検察官の公判請求は、現実には、勾留満期日の夕方、通常の業務時間後に夜間受付に出されますので、結局保釈申請は翌日受付になります。
 裁判所は、保釈申請について担当検察官に意見を求めます。この意見は、すぐに出されることもありますが、検察官によっては2、3日出さないこともあります。検察官の意見は、自由に判断してくれ(業界用語で「しかるべく」)という場合もありますが、保釈は適切ではない(業界用語で「不相当」)ということが多いです。この不相当には段階があって、ただの不相当と、保釈を認めた場合準抗告(じゅんこうこく。裁判官の保釈決定に対する不服申立手段)するというものがあります。
 検察官の意見が出た後、弁護人が担当裁判官と面接し、保釈が認められるかどうか、認める場合の条件と保釈金の額が決まります。検察官の意見がしかるべくの場合はもちろん、不相当の場合でも単独犯であれば保釈が認められることが多いですが、認めると準抗告するという意見の場合、ほとんど認められません。保釈金は被告人が逃亡しないような圧力となる金額になりますので、金持ちの場合、かなりの高額になります。あまり金持ちでない場合、営業が犯罪となるような場合は数百万円くらい、サラリーマンの場合、比較的軽い罪ならば200万円とか150万円とかが1つの目安となります。昔は、保釈面接での条件は居住場所の指定くらいでしたが、最近は被害者との接触をしないという条件が細かく決められることが増えています。
 裁判官との面接で決まった保釈金を裁判所の窓口に積むと、保釈決定が出て、それから数時間で被告人が釈放されます。

  【刑事事件の話をお読みいただく上での注意】

 私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
 また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
 そういう限界のあるものとしてお読みください。

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