◆刑事事件の話◆
普通の刑事事件の場合、警察が逮捕しますが、検察官が直接に逮捕する場合もあります。
代表的な例は、東京地検の特捜部の事件です。政治家とか財界の人、要するにお偉方が逮捕されるときですね。
私は、基本的にお金持ちの弁護はしませんので、経験はありませんし、実は関心もあまりないんですけど、特捜部の事件に関心を持ってアクセスしている人も多いようですので、一般的な知識として説明しておきます。
普通の事件の場合の手続は「逮捕された人はどうなるのですか」を見てください
検察官が逮捕する場合、身柄の拘束場所は、警察の留置場ではなく、拘置所になります。東京地検の場合は、東京拘置所です。これは、逮捕される人がお偉方だからではなく、検察官が法務省の所属だから使う施設も法務省の施設という、まあ言ってみればお役所の縄張りの問題です。
検察官に逮捕された場合は、まず取り調べを受けて比較的簡単な弁解録取書(べんかいろくしゅしょ)という供述調書を作った上で48時間(2日間)以内に、裁判所に勾留請求(こうりゅうせいきゅう)をします。理屈の上では、この段階で検察官が身柄拘束の必要がないと判断した場合は、勾留請求をしないで釈放されます。でも特捜部が逮捕して、そういうことはまず考えられません。
勾留請求があると、一旦裁判所に連れて行かれ、裁判官から、容疑事実について本当にやったのかどうか、何か言い分があるのかを簡単に聞かれます。これを勾留質問(こうりゅうしつもん)といいます。
裁判所は、勾留質問をした後に、10日間の勾留をするかどうかを判断し、勾留する場合、勾留状を発布します。検察官の勾留請求が認められないことは、ごくごくまれです。10日間の勾留でも足りない場合、検察官は勾留延長の請求をします。この時は被疑者は裁判所には呼ばれません。検察官の勾留延長請求について認められないことはごくごくまれです。
結局、逮捕されて2日目に裁判所に連れて行かれ、その後多くの場合20日間(従って逮捕されてから22日間)身柄拘束されます。警察に逮捕された場合に比べて、1日だけ短くなるわけですね。
しかし、このタイムスケジュールは、事件が1件の時です。特捜部の事件で1件だけということは、むしろまれだと思います。事件が多数あれば、1件目を22日間かけて起訴し、その後また次の事件で逮捕して、というように長い間身柄拘束が続いていきます。1件目が起訴されても別の事件で再逮捕されていると保釈ができませんし、日本では否認していると保釈の運用が非常に厳しいですから、身柄の拘束はかなり長期間になりがちです(保釈については「保釈について」を見てください)。会社の経営者の場合、会社の経営のことが気がかりで不本意な自白に追い込まれることもあるかも知れませんね。私の経験でも、零細企業とか自営業の人の弁護をしているとそういう心情(事実と違っても捜査側の言うとおりの調書を作って早く外に出たいという心情)を吐露されることがあります。捜査側は会社の経営上の都合なんて考えてくれませんから。
逮捕されると検察官から、弁護人を選任することができることを告知されます。特捜部の事件のような場合、全くいきなりということは少ないですから、被疑者の方で逮捕前から弁護士と打ち合わせしているでしょうし、逮捕前から正式に弁護人に選任していることもあります。しかし、「想定外」の逮捕の場合、被疑者の知り合いの弁護士に、逮捕されたことを検察庁から連絡してもらって、面会に来てもらうことになります。
特捜部の事件のような場合、弁護士もかなり(他の事件を相当犠牲にする)覚悟を決めて受ける(まあ、その分弁護士費用も相当もらうでしょうからね)ことになりますので、頻繁に面会に行きます。弁護団を組んで当たることになるのが普通です。捜査段階では弁護人は3人までしか選任できませんので、大事件であれば、3人選任して交代で連日面会に行くというパターンになります。
3人で連日の面会スケジュールを確保できない場合、弁護人選任届を出す正式の弁護人は2人までにしておいて、残りの弁護士が「弁護人となろうとする者」として交代で面会するとか、多数の事件があるときには事件ごとに別の3人の弁護士を選任するとかのテクニックはあり得ます。公安事件とかではそういうテクニックを駆使します(弁護士に専従に近い覚悟を決めさせるほどの資金がないですしね)。特捜部の事件で弁護側がそういうやり方をするかどうかは知りませんが。
さすがに、特捜部の事件の場合は、被疑者は相当頻繁に取り調べを受けるようで、普通の事件の自白事件のように退屈する余裕はないようです(経験してませんので伝聞ですけど)。
家族の面会や差し入れ等は、普通の事件の場合と同じです。「逮捕された人はどうなるのですか」を見てください。まず間違いなく弁護士以外との面会を禁止する決定が付くでしょうけど。
【刑事事件の話をお読みいただく上での注意】
私は2007年5月以降基本的には刑事事件を受けていません。その後のことについても若干のフォローをしている場合もありますが、基本的には2007年5月までの私の経験に基づいて当時の実務を書いたものです。現在の刑事裁判実務で重要な事件で行われている裁判員裁判や、そのための公判前整理手続、また被害者参加制度などは、私自身まったく経験していないのでまったく触れていません。
また、2007年5月以前の刑事裁判実務としても、地方によって実務の実情が異なることもありますし、もちろん、刑事事件や弁護のあり方は事件ごとに異なる事情に応じて変わりますし、私が担当した事件についても私の対応がベストであったとは限りません。
そういう限界のあるものとしてお読みください。
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