◆裁判のしくみ◆
被告(民事裁判)と被告人(刑事裁判)
告訴(刑事事件)
公判(刑事裁判)と口頭弁論(民事裁判)
民事裁判を起こした人を原告(げんこく)、起こされた人を被告(ひこく)と呼びます。これに対して刑事事件で起訴された(訴えられた)人を被告人(ひこくにん)と呼びます。法律上は刑事裁判の被告人を被告と呼ぶことは一切ありません。
ところが、マスコミでは、刑事裁判の被告人も「被告」と呼んでいます。呼び捨てを避けるために「〇〇被告」というように呼んでいるようですが、「〇〇被告人」より語感がいいからでしょうか。
マスコミが刑事事件の被告人も「被告」と呼んでいるために、民事事件で訴えられたとき「被告」と呼ばれることに強い抵抗感を持つ人が増えています。自分は悪いことをしたわけでもないのなぜ「被告」と呼ばれるのかというのです。まあ、刑事事件の「被告人」も、単に訴えられた人なのですが、マスコミでは起訴されたら(というよりも逮捕された段階で)事実上犯人扱いしていますから、被告人=悪い人のイメージで、その悪い人と同じ呼ばれ方をするのはいやだというわけですね。マスコミが、もしも、刑事事件の被告人も民事事件の被告と同じように単に訴えられただけという主張も込めて「被告」と呼んでいるのなら、事実上犯人扱いする報道もやめて欲しいものですね。
告訴(こくそ)というのは、犯罪の被害者が、警察などの捜査機関に対して、加害者を処罰するように求めることです。被害者が告訴をすれば当然に刑事裁判が始まるというわけではありません。刑事裁判を起こすかどうかはすべて検察官が判断するのです(詳しくは「起訴・不起訴の判断」を見てください)。ですから、被害者の告訴は、普通は、警察・検察が捜査を始めるきっかけに過ぎません。ただ、営利目的でない未成年誘拐罪、過失傷害罪、器物損壊罪、名誉毀損罪などの一部の犯罪は「親告罪(しんこくざい)」といって、被害者が告訴しなければ検察官は起訴することができません。なお、被害者以外の人が捜査機関に対して加害者の処罰を求めることは「告発(こくはつ)」と呼ばれています。そして検察官が刑事裁判を起こすことは、刑事訴訟法の用語では「公訴の提起(こうそのていき)」ですが、法律家の業界では一般的には、「起訴(きそ)」「公判請求(こうはんせいきゅう)」と呼ばれることが多いです。
これに対し、民事裁判を起こすことは、民事訴訟法の用語では「訴えの提起(うったえのていき)」と呼ばれ、法律家の業界では「訴訟提起(そしょうていき)」「提訴(ていそ)」などと呼ぶのが一般的です。
ところが、さすがに新聞記事ではそういうことはないように思えますが、雑誌などの記事やコラムでは、民事裁判を起こすことを「告訴」と書いている例をよく見ます。先ほど説明したように「告訴」は刑事事件の用語ですし、その上、裁判を起こすことを意味するわけでもありません。ですからまったく違う意味で間違った使い方なのですが、結構インテリの人でもそういう使い方をしていてビックリします。
マスコミの報道が刑事裁判に集中していて、ふだんは民事裁判のことは報道されません(報道されるのは大きな事件の判決の時くらいで途中の手続が報道されることはあまりありません)から、刑事裁判の言葉だけ覚えてしまって、民事裁判も同じ言葉を使うと思うのでしょうか。
刑事裁判の法廷で行われる手続を公判(こうはん)と呼びます。これに対して民事裁判の法廷で行われる手続は口頭弁論(こうとうべんろん)と呼ばれています。
これについても、世間では民事裁判の期日についても公判と呼ぶ例が時々見られます。
これも、やはり、マスコミの報道が刑事裁判に集中しているせいで刑事裁判用語だけが頭にはいって民事裁判も同じだろうと流用されているのでしょうね。
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